1 大腸癌は増えているの?
大腸癌はかつて欧米に多い病気でした。近年は食生活の欧米化に伴って、日本人の大腸癌の罹患率は急上昇しました。大腸癌による死亡数は、1950年には3,728人だったのが、1989年には23,663人と増加し、更に2000年には35,358人、2003年には38,909人に達しています。現在では悪性腫瘍の死因の中で男性では3位、女性では1位となっています。
2 自覚症状は?
早期の大腸癌には自覚症状がほとんどありません。少し進行して大腸の内腔が狭くなってくると便秘や下痢といった便通異常が出現します。もっと進むと便やガスが出にくくなり、腹部膨満・腹痛・吐き気が出たりする腸閉塞という状態になります。血便や排便時出血といった出血症状は早い時期でも進行した時期でもあります。
3 診断の方法は?
いずれの悪性腫瘍でもそうであるように、早い時期に発見されれば治癒する確率は高いのです。便潜血検査ではわずかの血液も鋭敏に反応するため、大腸癌のスクリーニング検査として行われています。大腸癌では早い時期から出血することがあるため、便に混じっている血液を調べることで早期に発見する確率が高くなります。
大腸癌の診断には注腸検査や大腸内視鏡検査を行います。注腸検査とは肛門からバリウムと空気を注入してレントゲンを当てて大腸の形を画像にして診断します。大腸内視鏡検査では肛門から内視鏡を挿入して大腸内腔を肉眼的に観察し、さらに組織を生検することにより診断します。
4 大腸癌の病期は?
大腸癌にも早い時期と進んだ時期があります。これを病期といいます。病期は、大腸癌が大腸の壁をどれだけ深く進展したか、リンパ節にどこまで転移したか、肝臓や腹膜や他の臓器に転移したかどうかといった要素を組み合わせて診断します。これらの診断のためには、腹部CT検査、腹部超音波検査、レントゲン検査などを行います。病期は0期からⅣ期まで6段階に分かれています。ガイドラインによって病期ごとに適切な治療法が推奨されています。
5 手術の方法は?
(1)大腸内視鏡による切除
早期の大腸癌の中には内視鏡による切除のみできちんと治すことができるものがあります。早期の大腸癌でもリンパ節転移の可能性がある場合は、一般的には手術が望ましいと考えられます。しかしリンパ節転移の確率は約10%ですから、併存疾患や高齢など全身状態が不良な患者様では、手術をしないで内視鏡治療のみで様子を見る場合もあります。手術するにしても場所によっては下記のように腹腔鏡を使えば、負担が軽くて済みます。
(2)腹腔鏡下大腸切除術
お腹に孔を開けてその孔から手術器械を入れて、大腸癌と転移しやすい部位のリンパ節を切除します。といっても、大腸を体外に摘出しなくてはなりませんので、必要最小限の傷はつくことになります。しかし、傷が小さいので患者様の負担は軽くなります。痛みが軽いために早い時期から歩けるのもメリットです。歩けば腸の動きも活発になり、少し早くから食事摂取が可能になります。結果的に開腹手術より少し早めに退院が可能となります。ガイドラインでは、癌の部位や進行度、肥満、開腹歴といった患者側の因子だけでなく、術者の経験や技量を考慮して腹腔鏡下手術を行うかどうかを決めることが推奨されています。当院では、腹腔鏡下手術の経験豊富な日本内視鏡外科学会技術認定医を中心として、大腸癌に対する手術の第一選択は腹腔鏡下手術です。ただし、状況によっては開腹手術を選択することもあります。これは癌の大きさや周囲臓器への浸潤など、治療における根治性・安全性を考慮して決めることになります。
開腹大腸切除術
一般的に標準的な手術として確立しています。当院では、病変が大きく腹腔鏡手術のメリットがないような場合、以前の手術で腹腔内の癒着が高度な場合、周囲臓器への浸潤のために他臓器合併切除が必要な場合などに開腹手術となることがあります。
人工肛門造設術
人工肛門造設となる場合の理由には、1)腫瘍のある場所が肛門に近い、2)腸管を吻合するのが危険、3)腫瘍を切除できない、等が挙げられます。当院ではできるだけ人工肛門にならない手術を施行しています。以前であれば永久的人工肛門となっていたような直腸癌に対しても、超低位前方切除術や括約筋間直腸切除術(いわゆる究極の肛門温存術式:内肛門括約筋切除術)などの術式を行うことで、肛門温存が可能となっています.また,これらの術式も大半の場合において腹腔鏡下手術で行うことが可能です。当院では患者様の希望をお聴きしながら、可能な限り肛門温存にこだわって手術をしています.しかしながら、肛門に近い一部の下部直腸癌では今でも肛門を切除・閉鎖する術式となります。当院では患者様の手術後の生活の質(Quality of Life: QOL)まで考えた上で手術術式を提案致しておりますので、手術の前にわからないことは何でもスタッフまでお尋ねください.人工肛門には永久人工肛門と一時的な人工肛門があります。一時的な人工肛門では後に手術により人工肛門を閉鎖して、本来の肛門から排便できるようになります。人工肛門造設後は身体障害者福祉法に基づき、身体障害者の認定を受けることができます。
6 術後の入院期間と外来通院は?
術後の入院期間は患者様ごとに異なりますが、経過に問題がなければ一般に1週間から2週間程度で退院可能となります。術式によっては1ヵ月程度の入院を要することもあります。また、退院後は腹部症状や再発のチェックのため5年間の外来通院が必要となります。手術診断及び病理診断の結果により病期Ⅱの一部および病期Ⅲ以上だった患者様のうち、主要臓器の機能が良好に保持されている場合には一般に抗癌剤による補助化学療法を6ヵ月施行するのが世界標準です。
7 再発した場合の治療は?
吻合部に局所再発した場合や肝臓や肺に転移した場合、前述のように手術で治癒が期待できる症例には切除します。
再発部位が切除不可能な場合には、化学療法、放射線療法その他の局所療法により治療します。化学療法は抗癌剤の内服・点滴のほかに肝動注療法も行っています。抗癌剤治療は生存率を延長することが明らかとなっているため、副作用に配慮しつつ積極的に行っています。放射線治療は一般的な照射法のほかに定位放射線治療というピンポイントに短い期間で照射する方法も行っています。
8 大腸癌がご心配な場合は?
広尾病院外科では、平日の午前中に、消化器外科医が一般外来で診療しておりますので適切に対応いたします。また、火曜日の午後には大腸専門外来を開設しておりますので是非ご利用ください。多量の出血症状や腸閉塞症状など急病の場合には、365日24時間救急外来で対応いたします。他院からのご紹介の場合には診療情報提供書(紹介状)をご持参いただきますようお願いいたします。
最終更新日:2018年2月28日