1 食道とは何?
食道は、喉(咽頭)と胃の間をつなぐ長さ25cm、太さ2〜3cm、厚さ4mmほどの管状の臓器です。食道の大部分は胸の中にありますが、首から始まり、胸を経由して腹部の胃につながります。食道は体の中心部にあり、胸の上部では気管と背骨の間、下部では心臓、大動脈と肺に囲まれています。
食道の壁は、内側から外側に向かって粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜の4つの層に分かれています。 食道は、食物を口から胃に送る働きをしています。食物を飲み込むと、食道の壁が動いて食べ物を胃に送り込みます。食道の出口は、胃内の食物の逆流を防止する構造になっています。食道には消化機能はなく、食物の通り道にすぎません。
2 食道がんとは?
食道がんは、食道にできるがんをいいます。食道がんは、食道の内面をおおっている粘膜の表面にある上皮から発生します。
日本人の食道がんは、約半数が胸の中の食道中央付近に認め、次いで1/4が食道の下部に認められます。日本では、食道がんの90%以上が扁平上皮がんです。
欧米では、胃癌と同じ腺上皮から発生する腺癌が多く、現在では半数以上が腺がんです。腺癌のほとんどは、胃の近くの食道下部に発生します。わが国でも今後、その食生活の変化等から、腺癌の増加が予想されています。 食道にはそのほかの特殊な細胞でできたがんもできます。未分化細胞がん、がん肉腫、悪性黒色腫などのほかに、粘膜ではなく筋層などの細胞から発生する消化管間質腫瘍(GIST)も発生することがあります。
食道上皮から発生した癌は、悪化すれば、粘膜下層、筋層に入り込んでいきます。最終的には、食道の壁を貫いて、食道の周囲の、気管・気管支や肺、大動脈、心臓など重要な臓器にも食い込んでいきます。これを浸潤といいます。 癌細胞が血管やリンパ管にのって、腹部や首のリンパ節、別の臓器などに移ることもあります。これを転移といいます。
食道は、首から始まり胸部、腹部へと連続しているので、各々の領域のリンパ節に転移を起こしやすいことも特徴の一つです。
3 どういう人が食道癌になりやすいの?
年齢別にみた食道がんにかかる率や食道がんによる死亡は、ともに40歳代後半以降増加し始める傾向にあり、特に男性は女性に比べて急激に増加します。
男性のほうがかかりやすく、女性の5倍以上です。
食道がんについては、喫煙と飲酒が確立したリスク要因とされています。熱い飲食物がリスクを上昇させるという研究結果も報告されています。
また、お酒を飲んで顔が赤くなりやすく、それに加えて喫煙量の多い人は要注意といわれています。
近年、欧米で急増している腺癌では、食べ物や胃液などが胃から食道に逆流する「胃・食道逆流症」に加え、肥満により確実にリスクが高くなるとされています。
食道は構造上の問題から慎重な観察が検査時に必要となります。
上記のような項目に当てはまる方は、検査を受けることをお勧めします。
4 どんな症状があるの?
(1)無症状
早期の食道がんは無症状であることも少なくなく、検診を契機にみつかる人も多くいらっしゃいます。先ほどのリスクに当てはまるような方は、充分な検査を受けることをお勧めします。
早期食道がんであれば、内視鏡での治療で根治も可能なことがあります。
(2)食道がしみるような感覚
食事の時に胸の奥がチクチク痛んだり、しみるように感じるといった症状は、がんの初期のころにみられるので、早期発見のために注意していただきたい症状です。軽く考えないで、内視鏡検査を受けることをお勧めします。 がんが少し大きくなると、このような感覚を感じなくなります。症状がなくなるので気にしなくなり、放っておかれてしまうことも少なくありません。
(3)食物がつかえるような感覚
がんが大きくなると、食道内が狭くなり、食べ物がつかえるようになります。また、がんにより胸の中の食道が狭くなった場合にも、もっと上の喉がつかえるように感じることがあります。耳鼻科に受診され何もないと言われ、内視鏡検査で食道に癌がみつかるということはよくあります。喉のつかえ感で、喉を診てもらい、異常ないと言われても、放っておかずに、検査を受けることをお勧めします。
がんがさらに大きくなると、食道をふさいで水も通らなくなり、唾液も飲み込めずにもどすようになります。
(4)体重減少
一般に進行したがんでよくみられる症状ですが、食べ物がつかえると食事量が減り、低栄養となり体重が減少します。
(5)胸痛・背部痛
がんが食道周囲の肺や背骨、大動脈を圧迫・浸潤したりすると、胸の奥や背中に痛みを感じるようになります。これらの症状は、肺や心臓などの病気でもみられますが、肺や心臓の検査だけでなく、食道も検査してもらうよう相談してください。
(6)咳(せき)
食道がんが気管、気管支、肺に浸潤すると、むせるような咳(特に飲食物を摂取するとき)が出たり、血の混じった痰(たん)が出たりするようになります。
(7)声のかすれ
声帯という、声を出すところを調節している神経を反回神経といい、これは食道のすぐそばを通っています。食道がんのリンパ節転移は、この反回神経の周りのリンパ節にもっとも転移しやすく、転移リンパ節で反回神経がこわされると声がかすれます。声に変化があると、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診する場合が多いのですが、食道がんも疑って、検査をすることをお勧めします。
5 検査の方法は?
食道がんの検査は、一般に食道造影検査と内視鏡検査があります。そのほか、がんの状況判断のためにCT、MRI、内視鏡超音波検査、超音波検査などを行います。こうした検査によって、がんの進行の程度を病期(ステージ)に分けます。病期は、治療の方針を決めるために、とても重要です。
(1)食道造影検査(X線検査)
造影剤をのんで、食道の病変をX線で撮影する検査です。内視鏡検査が普及した今日でも、造影検査では、がんの場所やその大きさ、食道内腔の狭さなど全体像がみられ、治療方針に重要な検査です。
(2)内視鏡検査
内視鏡検査は、直接、消化管粘膜を観察する方法です。内視鏡検査は、病変を直接観察できることが大きな特徴です。病変の位置や大きさだけでなく、病変の数、病巣の広がりや表面の形状(隆起(りゅうき)や凹凸)、色調などから、病巣の数や、ある程度のがんの進行具合を判断することができます。食道の内視鏡精密検査では、通常の観察に加えて色素内視鏡検査を行います。
また、直接組織を採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を確認します。
無症状、あるいは初期の食道がんを見つけるために、内視鏡検査は極めて有用な検査であり、たとえレントゲン検査で異常が認められなくても、安心せずに、症状のある方は、内視鏡検査も受けられることをお勧めします。
(3)CT
CT(コンピューター断層撮影)は、X線を使って体の内部を輪切りにしたようにみることができる検査です。体の内部を描き出し、治療前に転移や周辺の臓器への浸潤の有無を調べます。
食道の周囲には、気管・気管支、大動脈、心臓など、極めて重要な臓器が存在し、CTは、がんとこれらの周囲臓器との関係を調べるために、最良の方法です。リンパ節転移の存在も、頸部、胸部、腹部の3領域にわたって調べます。さらに他臓器への転移の診断にも欠かせません。
(4)PET検査
PET検査(陽電子放射断層撮影検査)は、全身の悪性腫瘍細胞を検出する検査ですほかの検査で転移・再発の診断ができない場合に、行うことがあります。
(5)腫瘍マーカー
血液検査の項目の1つです。食道がんの腫瘍マーカーは、扁平上皮癌ではSCC(扁平上皮がん関連抗原)とCEA(がん胎児性抗原)です。腺癌ではCEAです。ほかのがんにおける場合と同様に、腫瘍マーカーは、早期診断に使えるという意味で確立されたものではありません。また、がんがあっても異常値を示さないこともあります。
6 病期(ステージ)とは?
病期(ステージ)とは、がんの進行の程度を示す言葉で、食道がんの治療法選択に重要な項目です。病期には、ローマ数字が使われ、0期、I期、II期、III期、IV期に分類されています。病期は、がんがどのくらい深くまで成長しているかT(primary tumor:原発腫瘍)、リンパ節転移があるかどうかN(regional lymph nodes:所属リンパ節)、別の臓器への転移があるかどうかM(distant metastasis:遠隔転移)で決まります。これをTNM分類といい、この3つの要素で病期が決まります。
0期
がんが粘膜にとどまり、リンパ節、別の臓器にがんが認められないものです。いわゆる早期がん、初期がんと呼ばれているがんです。
I期
がんが粘膜にとどまっているが近くのリンパ節に転移があるものか、粘膜下層まで浸潤しているがリンパ節や別の臓器にがんが認められないものです。
II期
がんが筋層を越えて食道の壁の外にわずかにがんが出ているとき、もしくはがんは粘膜下層までにとどまっているが、がんの近傍のリンパ節のみにがんがあると判断されたとき、そして他臓器にがんが認められないものです。
III期
がんが食道の外に明らかに出ていると判断されたとき、食道壁に沿うリンパ節か、あるいは食道のがんから少し離れたリンパ節に転移があると判断され、別の臓器にがんが認められないものです。
IV期
がんが食道周囲の臓器に及んでいるか、がんから遠く離れたリンパ節や他臓器に転移が認められるものです。
7 どんな治療法があるの?
治療法は、大きく分けて3つの柱でできています。1)切除(手術)、2)化学療法、3)放射線治療です。この3つの中から、どれがいいか、もしくはどの組み合わせをしたらいいかを、患者さまの病期、状態に即して考えていきます。
(1)切除(手術、内視鏡治療)
切除には、2通りの方法があり、内視鏡治療は、早期食道がんでリンパ節含め転移する可能性の低いものに適当があります。内視鏡を使って、食道の内側からがんを切除する方法です。
手術について
手術は、食道がんに対する現在最も標準的な治療法です。手術では、がんを含め食道を切除します。同時に、リンパ節を含む周囲の組織を切除します。食道を切除した後には、胃や腸を使って食物の通る新しい通路をつくる再建手術を行います。食道は頸部、胸部、腹部にわたっていて、それぞれの部位によりがんの進行の状況が異なっているので、がんの発生部位によって選択される手術術式が異なります。
発生部位によっては、手術は頚部、胸部、腹部と3領域にわたる手術操作が必要になります。
手術(外科治療)に伴う主な合併症と対策
手術に続いて発生する合併症は、肺炎、縫合不全(つなぎ目のほころび)、肝・腎・心臓障害です。これらの合併症が死につながる率、すなわち手術死亡率(手術後1ヵ月以内に死亡する割合)は2〜3%です。これらの発生率は、手術前に別の臓器に障害を持っている人では高くなります。
手術の場合、つなぎ合わされた胃や腸の状態が落ち着き、食べ物をとることができるようになるまでに、一般的には1週間から2週間ぐらいかかります。術後から退院までにかかる日数は、患者さまの状況によって違いますが、14日~30日程度です。
食道がん手術は、大きな手術の内の一つですが、根治性の高い治療でもあります。専門スタッフが患者様やご家族と充分に相談し、患者さまと二人三脚で術後のリハビリに取り組むことが重要と考えております。
(2)化学療法
化学療法とは、抗がん剤という薬剤による治療法です。抗がん剤は血液に乗って全身に行き渡るため、手術では切り取れないところや放射線をあてられないところにも、効果を期待することができます。単独で行われる場合と、放射線治療や外科治療との併用で行われる場合とがあります。
- 化学療法の方法
抗がん剤は、扁平上皮がんや腺がんといった、食道がんの種類によって投与される薬剤が異なります。 現在の食道がん(扁平上皮がん)に対する標準的な化学療法は、フルオロウラシルとシスプラチンの併用療法です。シスプラチンは治療1日目のみに投与、フルオロウラシルは4日~5日間かけて継続して点滴投与します。また、シスプラチンによる腎臓障害を予防のために、1日に3L近い点滴も同時に行い排尿を促していきます。治療は4週間を1サイクルとし、副作用の問題がなければ退院、その後は2週間から3週間ごとに治療を繰り返します。定期的に検査で治療効果を判定し、有効であれば繰り返すというスケジュールで行います。効果がない場合もしくは、副作用が強く、継続が困難な場合は、ほかの薬剤への変更や化学療法の中断などを判断します。 - 抗がん剤の副作用と対策
抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼすので、副作用が生じます。その強さや持続時間などには、非常に大きな個人差があります。
主な症状は、全身倦怠感、食指不振や消化器症状(吐き気、口内炎、便秘、下痢等)です。
また、骨髄という、血液の成分を生成している箇所に作用してしまうことも少なくなく、血液の成分である、[1]赤血球[2]白血球[3]血小板といったものの生成が抑制され、数が少なくなってしまいます。その場合、輸血や、血球を増やす注射をおこない、各々に対する対処が必要となります。また、薬剤は肝、腎への影響を持つことが多く、抗がん剤も例外ではありません。こういった、骨髄抑制の程度、肝・腎を中心とした他臓器への影響の程度を推し量るため、入院抗がん剤投与中は、1週間に2~3回程度の血液検査を行い、慎重に経過を観察していきます。 - その状況、副作用の程度によっては、薬剤の中止、変更を検討することもあります。
(3)放射線治療
放射線治療とは、手術と同様に限られた範囲のみ治療する、局所治療です。
抗がん剤や、手術とくみあわせて行うことも多く、治療目的により、照射する範囲、量は異なります。
すなわち、がんの完治を目指す根治治療と、がんに伴う様々な症状の改善を目的とした緩和治療です。
- 根治照射
照射範囲を、担当科医師と、放射線治療部の医師とで、様々な検査を参考にして決定し、1日1回、1週間に5回、これを6週間程度行っていきます。合併症の程度により、照射を中止したり、照射期間を短くすることがあります。 - 緩和照射
がんによって食道の狭窄や、疼痛といった症状を和らげるために行う方法です。前提が症状の改善ですから、合併症でより症状が複雑になったりしないよう、照射する量は根治治療の場合よりも、少ないものとなります。
副作用は様々で、照射中に出現するものや、治療終了後数カ月してからでるものとあります。また、併用している治療によっても、その種類、重症度は異なります。
8 食道がんが御心配な場合は?
都立広尾病院外科では、食道科認定医の医師がどのような状況でも(ただ心配だから話だけでも聞いてもらいたい等)できるだけ速やかに対応させて頂きます。夜間の場合は、出血、食事のつまり等については24時間救急外来で対応処置させていただき、翌日には食道認定医からその後の検査、治療計画について説明させていただきます。
心配事をどうか我慢せず、お気軽にご相談ください。
もちろん、食道がんでなくとも、食道のその他の疾患、治療についても、ご相談ください。
最終更新日:2018年2月28日