自己血輸血(貯血式)
自分の血液を輸血に使うことです。
- 手術日が決まったら、数週間前から鉄剤を服用します。
- 場合によってはエリスロポエチンという造血因子を注射します。
- 1回に200-400mL採血し、保存します。
- 手術で輸血が必要な時、とっておいた自分の血液(自己血)を輸血に使います。全部で800-1200mLぐらい用意できます。
自己血輸血の利点と問題点
利点 | 問題点 |
1. 輸血後感染症(HBV,HCV,HIV,HTLV-1,CMV,梅毒等)の予防2. 血液各成分に対する同種免疫反応がない3. 同種血による免疫抑制作用の予防4. GVHDの予防5. 希な血液型を確保する6. 最小限の検査による経費節減7. 同種血拒否者への対応 | 1. 採血時の副作用2. 術前貧血3. 採取量の限界4. 細菌汚染の危険性5. 保存中の破損6. 取り違えによる他人血輸血の危険性 |
自己血輸血の対象となる患者さんは?
- 術前状態が良好で、緊急手術を要しない待機的手術
- 術中出血量が循環血液量の15%(成人では600ml)以上と予測でき,輸血を必要とする場合(輸血を行う可能性の低い場合は除外する)
- 希な血液型や同種免疫抗体がある場合
自己血を採血しても大丈夫な状態は?
年齢 | 制限なし。(6歳未満,70歳以上は慎重に) |
体重 | 制限なし。(40kg以下は慎重に) |
ヘモグロビン(Hb) | 11g/dl以上 |
ヘマトクリット(Hct) | 33%以上 |
血圧 | 90mmHg≦最高血圧≦170mmHg |
全身状態 | ASA physical status:1~2度*1 NYHA心機能分類:?~?度*2感染症なし (下痢症状なし,3日以内に抜歯していないこと) |
検査 | 血液型、梅毒血清反応、HBs抗原、HCV抗体、HIV抗体、HTLV-1抗体の検査を行うことが望ましい。 |
その他 | 採血可能な血管があること。 |
* 1 中等度から高度の全身疾患がない状態です。あるいは、日常生活に制限がないような状態です。
* 2 日常生活で疲れ、動悸、息切れ、狭心痛発作が出るくらいの状態までなら大丈夫です。
輸血後GVHDとは?
輸血後移植片対宿主病(graft versus host disease)のことです。
輸血の中に入っているリンパ球が患者さんをいじめる状態です。
輸血してから数日して、発熱、皮膚炎、肝臓障害、下痢、造血障害が起こります。
ひとたび起こると極めて重篤な状態になります。
自己血では起こりません。
放射線をかけると輸血の中に入っているリンパ球が死ぬため、完璧に輸血後GVHDを予防できます。
都立駒込病院では、全ての血液に放射線照射をしています。当院ではこれまで、輸血後GVHDは起こっていません。
不規則性抗体について
血液型が自分と違う輸血を受けると問題になる理由
- 質問1 もしO型の患者さんにA型の血液が輸血されるとどうなると思われますか?
- 回答
輸血した血液は壊され(溶血)、ショック症状が出ることがあります。
・ これは、O型の患者さんの血液の中にA型の赤血球に対する抗体があるためです。この抗体がA型赤血球にくっついて赤血球を壊してしまうとともに、 炎症の反応を起こして患者さんをショック状態にすることがあるからです。
- 質問2 それでは、もしA型の患者さんにO型の血液が輸血されるとどうなるでしょうか?
- 回答
大きな問題は起こらないことが多いです。
・ これは、A型の患者さんにはO型の赤血球に対する抗体がないから、ほとんど問題にならないのです。緊急時に血液型が分からない時、 どんな患者さんにもO型の血液を輸血するのはこのためです。ただし、血液型を検査できる余裕があれば、 同じ血液型(A型の患者さんにはA型)の輸血をすることが原則です。
- 質問3 A型やB型以外にも血液型はあるでしょうか?
- 回答
一番大事な血液型はABO血液型(A型、B型、AB型、O型)ですが、これ以外にもRh型など、実に400種類以上もの血液型がわかっています。
- 質問4 では、これらの血液型に対する抗体を患者さんが持っている場合どうなるでしょうか?
- 回答
そのような、ABO血液型以外の血液型に対する抗体を「不規則性抗体」と言います。このような不規則性抗体がある場合、 それに対する血液型の輸血が行われると、場合によっては溶血やショックを起こすことがあります。
- 質問5 不規則性抗体は検査でわかるのですか?
- 回答
全てとは言いませんが、重要な抗体はわかるように検査体制を組んでいます。 輸血を受ける患者さんの血清といろいろな血液型の赤血球試薬を混ぜて反応を見ることでわかります。
・都立駒込病院では輸血を受ける患者さんの不規則性抗体をよくチェックし、問題ある場合は適切な血液型の輸血を選ぶようにしています。
同種末梢血幹細胞移植のための健常人ドナーからの末梢血幹細胞の動員・採取に関するガイドライン(2003年4月21日 改訂第3版)
日本造血細胞移植学会
日本輸血学会
A.背景
同種末梢血幹細胞移植(allo-PBSCT)は、わが国では1990年代後半になって積極的な臨床応用が進み1)、 2000(平成12)年4月の診療報酬改正で同種末梢血幹細胞移植の健康保険適用が承認されたことによって、 同種骨髄移植の代替法として急速に普及しつつある2)。
日本造血細胞移植学会は、平成12年4月1日「同種末梢血幹細胞移植のための健常人ドナーからの末梢血幹細胞の動員・採取に関するガイドライン」を公表し、 ドナーの短期・長期の安全性追跡調査のためのドナー登録制度を開始した。一方、平成12年3月下旬に血縁ドナーからの末梢血幹細胞(PBSC) 採取のためのアフェレーシス中にgrade4 (WHO基準)の有害事象(心停止)が発生した。日本造血細胞移植学会は、事の重大性を憂慮し、 ドナーの安全性を確保するため、ドナーアフェレーシスに関する専門家集団である日本輸血学会に協力を依頼し、 両学会合同の末梢血幹細胞採取に関するガイドライン委員会を設置し、ガイドラインを改訂した(2000年7月21日 第2版)。
2000年4月に開始された日本造血細胞移植学会のドナー登録制度では、2003年3月末までに既に2000例以上のドナーが登録され、 これまで重篤な有害事象が35例以上報告されている(表1)。一方、諸外国ではPBSCの動員・採取に関連して、脳血管障害、心筋梗塞、脾破裂など 生命を脅かすような重大な有害事象、さらには死亡例も報告されている(表2:但し、いずれも基礎疾患を有するドナー)。 最近、わが国では顆粒球コロニー刺激因子(以下G-CSFと記す)の投与を受けた血縁ドナー2例における骨髄増殖性症候群(1年目のフォローアップ時)と 急性骨髄性白血病(G-CSF投与後14ヶ月)の発症が報告された(平成15年2月7日厚労省高上班・原田班合同班会議)。 このように、PBSCの動員・採取は全身麻酔下の骨髄採取に比べて簡便ではあるが、決して安全性が高いとはいえないことが示されている。 同種末梢血幹細胞移植の普及によって、移植患者年齢の拡大、とくに近年注目されている骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植の臨床応用に伴って 高齢患者への適応拡大が試みられており、高齢者ドナーの増加が予測される。
以上のことを考慮して、安全性確保を強化するとともにドナーの適格基準の見直しも求められており、再びガイドライン委員会を設置し、ガイドラインを再改訂した。
B.目的
健常な血縁ドナーから、移植後の生着に必要な十分量の末梢血幹細胞(PBSC)を安全に採取するために、顆粒球コロニー刺激因子(以下G-CSFと記す) 投与によるPBSCの動員およびアフェレーシスによるPBSC採取に関する基準をガイドラインとして示す。このガイドラインは、あくまでも基準を指針として示すもので、 規制するものではない。
また、G-CSFによるPBSC動員やアフェレーシスによるPBSC採取の具体的な作業基準(マニュアル)については各施設で作業基準書を作成することを推奨する。
C.インフォームドコンセント
G-CSF投与によるPBSCの動員及びアフェレーシスによるPBSC採取を受ける予定のドナーに対して、同種骨髄移植の代替法としての 同種末梢血幹細胞移植の概略を説明した上で、G-CSF投与およびアフェレーシスの目的、方法、危険性と安全性について詳しく説明し、 文書による同意を得る。未成年者をドナーとする場合は保護者からのインフォームドコンセントと本人からのインフォームドコンセントが必要である。 この際、G-CSF投与後の長期予後調査への協力を依頼する。
尚、同意書には以下の事項を含むものとする。
同種造血幹細胞移植について、末梢血幹細胞移植および骨髄移植の特徴、長所および短所につき、充分な説明を受け理解したこと。
G-CSF投与に伴って有害事象が生じうること。
末梢血幹細胞採取および骨髄採取について、十分な説明を受け理解したこと。
安全な採血ルートを確保するために、深部静脈へのカテーテル挿入がありうること。
十分量のPBSCが採取できない場合、PBSC採取の中止あるいは全身麻酔下の骨髄採取が必要となる場合がありうること。
D.実施施設の適格性
1. 施設の体制
1) 責任体制の整備
健常人ドナーにおける末梢血幹細胞の動員・採取に伴う危険性を実施施設として認識し、その具体的作業基準を各施設の倫理委員会、 または臨床研究審査委員会などで承認した上で、健常人ドナーからの末梢血幹細胞の動員・採取に関する責任医師を任命して責任体制を明確にすること。
2) 輸血療法委員会の設置
末梢血幹細胞採取は一種の院内採血であることから、厚生労働省の勧告にしたがって「輸血療法の実施に関する指針」に示されている 院内輸血療法委員会を設置し、責任医師を置くこと。
3) 実施施設の条件
アフェレーシスに習熟した医師(少なくともアフェレーシスを30回以上実行した経験を有する)が確保されていること。 習熟した医師がいない場合は、習熟のための方策を講ずる(例えば、赤十字社血液センターでトレーニングを受ける、など)、 あるいは習熟した医師のいる施設に採取を依頼すること。日本輸血学会認定医の指導・監督の下にアフェレーシスを実施できる日本輸血学会認定施設が望ましい。
2. 実施体制
1)スタッフ
ドナーの安全性確保の観点から、移植患者の主治医とは別の医師がドナーの主治医を担当し、ドナーの安全性を最優先し、 PBSCの動員・採取に当たることを原則とする。アフェレーシスによる末梢血幹細胞採取中は、少なくとも1名の医療スタッフ(医師、看護師、臨床工学技士など) による常時監視体制が整っていること。
2) 緊急時の体制
採取中のドナーの容態急変に備えて酸素ボンベ(または配管)、蘇生セット、救急医療品が整備され、迅速に救急措置ができる医師が常に確保されていること。
3) 採取環境
ドナーが数時間に及ぶアフェレーシスの間、快適に過ごせる環境(採取専用スペース、採取専用ベッド、毛布、テレビなど)が確保されていること。
4) 作業基準の作成
末梢血幹細胞採取のためのアフェレーシスの作業基準(マニュアル)を、各施設の条件や使用する血球分離装置の機種に合わせて作業手順書として作成しておくこと。 (附記参照)
5) 採取記録の保存
アフェレーシスの全経過を正確に記録し、採取記録要旨を保存すること。また、末梢血幹細胞を凍結保存する場合は具体的な方法( 保存液、凍結方法、細胞濃度など)を記録し保存する。
E. ドナーの安全性確保3-10
ドナーの適格性
1) ドナーの年齢
ドナーの安全性が検討されている赤十字血液センターの血小板採取を目的とした成分採血の対象年齢は18-54歳である。 一方、2000年7月21日公表のガイドライン第2版では、ドナーの年齢の上限を65歳、下限を10歳としていた。そこで、今回の改訂では、 10歳以上18歳未満および55歳以上66歳未満のドナー候補者については、倫理委員会あるいはIRBでの審議を経るなど、各施設の責任でより慎重に適格性を判定する。
2) G-CSF投与に関する適格性
これまでの知見から、ドナーとしてG-CSF投与を避け、採取を回避するケースとして、以下の場合が考えられる。
・G-CSFに対するアレルギーのある人
・妊娠あるいは妊娠している可能性のある人
・血栓症の既往あるいはリスク:基礎疾患として高血圧、冠動脈疾患、脳血管障害、糖尿病、高脂血症などを有する人
・脾腫を認める人
・白血球増多、血小板増多など骨髄増殖性疾患が疑われる人
・間質性肺炎を合併あるいは既往として有する人
・癌の既往(G-CSFによる腫瘍の再発や新たな発生を否定できないため)を有する人
・治療を必要とする心疾患、肺疾患、腎疾患を有する人
・自己免疫疾患を有する人
・肝機能障害を有する人
・神経障害を有する人
3)ドナー候補者の適格性チェック
責任医師がドナー候補者に対して充分な問診と診察(血圧、脈拍、体温呼吸数などのバイタルサインチェック)、 さらに同種骨髄移植ドナーに実施されている採取前検査(ECG、胸部X線写真、全血球計算、生化学、感染症検査など)を実施し、 日本赤十字社血液センターで行われている血小板アフェレーシスの厚生労働省採取基準(表3)などを参考にしてドナーの適格性を慎重に判断する。 G-CSFによる脾腫大を考慮して腹部エコーなどによる脾腫のチェックを行う。
4)第三者によるドナー候補者の適格性チェック
ドナー候補者の適格性の判断に際しては、可能な限り適格性の判断ができる各専門領域の医師や麻酔科医など第三者の意見を求める。 また、適格基準を外れるドナー候補者については倫理委員会あるいはIRBの審議を経るなど、各施設の責任でより慎重にPBSCの動員及びアフェレーシスの可否を判定する。
F.PBSCの動員
健常人ドナーからPBSCを動員する場合、G-CSF単独投与による方法が最も一般的である。
1)G-CSF投与に関する注意
G-CSFは皮下注で投与されるが、投与中はG-CSF投与に伴う有害事象に留意し、発生時には適切に対処し、重篤な場合には中止する。 G-CSF投与後(開始後)は連日G-CSF注射前に白血球を計測し、50,000/μLを超えた場合には慎重に状態を観察し、G-CSF投与量の減量やG-CSF投与の中止を考慮する。
2) G-CSFの投与量
これまで行われたdose-finding studyの成績11-16)から、G-CSFの投与量が10μg/kg(ドナー体重)/日までであれば、 PBSC中のCD34陽性細胞の動員効果は投与量依存的で、G-CSF投与に伴う主な副作用も許容範囲であるとされる。10μg/kg/日以上の投与では、 投与量依存的に動員効率が増大するか否かについては議論の余地があり、一方副作用の増加が指摘されている14)。 EBMT(European Group for Blood and Marrow Transplantation)やNMDP(National Marrow Donor Program)においてもG-CSFの投与量は 10μg/kg/日が推奨されている3)。G-CSFの投与期間は4-6日間とする報告が多い。10μg/kg/日のG-CSFを4-6日間投与した場合、 末梢血中のCD34陽性細胞はG-CSF投与の5-6日目にピークに達するという報告が多い13,14,17,18) 。一方、7日目以降はCD34陽性細胞の減少が観察されており14)、 7日以上のG-CSF投与は有効ではない。G-CSF投与に関して、1日1回投与と1日2回(朝、夕)の分割投与を比較した場合、CD34陽性細胞の動員効率や 副作用に差がないとする報告18)、差があるとする場合16)があり、一定の成績は得られていない。
以上より、同種末梢血幹細胞移植のためのPBSC動員には10μg/kg/日あるいは400μg/m2/日(ドナーによってはそれ以下の用量)のG-CSFを4-6日間皮下注で投与し、 G-CSF投与の4-6日目に1-2回のアフェレーシスを実施する方法が一般的と考えられる。また、アフェレーシス開始はG-CSF投与後4時間以降が望ましい。 保険診療で認められているG-CSFの投与量はlenograstimが10μg/kg/日、filgrastimが400μg/m2/日である。
3)有害事象
G-CSF投与に伴う短期的有害事象としては、重大なものとして、ショック、間質性肺炎のほか、 腰痛、胸痛、骨痛、背部痛、関節痛、筋肉痛、血圧低下、肝機能異常(AST, ALT, LDH, ALP上昇)、 発疹、紅斑、悪心、嘔吐、発熱、頭痛、倦怠感、動悸、尿酸値上昇、血清クレアチニン値上昇、CRP値上昇などが知られている(日本医薬品集2000)。
全国集計データでも、高頻度に見られる骨痛(71%)の他、全身倦怠感(33%)、頭痛(28%)、不眠(14%)、食思不振(11%)、悪心嘔吐(11%)、 などが報告されている7)。いずれもG-CSF投与終了後2-3日以内で消失するが、必要に応じて鎮痛剤 (アフェレーシス中の出血傾向を避けるため、アスピリン製剤以外の鎮痛剤が望ましい)などを投与する。 G-CSF投与を中止しなければならないような重篤な有害事象はまれとされるが、これまで心筋梗塞19)、脳血管障害3)、脾破裂20、21)などの報告例の他、 死亡例も報告されている(表2)。また、G-CSF投与に伴って急性虹彩炎22) 、痛風性関節炎23) など炎症の増悪も指摘されている。 その他、有害事象としては、一過性好中球減少症24)、血小板減少25)、不安定狭心症26)、多型性浸出性紅斑27)、膿瘍(肛門周囲、歯尖)28)、 毛細血管漏出性症候群24)、などが報告されている。C-CSF投与後、血小板の二次凝集が亢進するという報告13)があるが、血栓症発症との因果関係は明らかではない。 一方、血小板減少(<100,000/μL)も高頻度(50%以上)にみられるが、G-CSFよりはアフェレーシスの影響が大きい。 以上のように、G-CSF投与に伴う有害事象は、多くの場合一過性であり、許容範囲内と考えられる。小児においても、成人と同様な短期的有害事象が報告されている30)。 なお、健常人に対するG-CSF投与に伴う長期的有害事象に関しては充分なデータは得られていないが、既に述べたように、 最近わが国ではG-CSF投与を受けた血縁ドナーにおける骨髄増殖性疾患と急性骨髄性白血病の発症が報告された。その概要を表4に示す。 日本造血細胞移植学会は「有害事象特別調査委員会」を設置し、(1)情報開示のあり方、(2)事務局の危機管理体制、(3)善後策について検討が行われた。 その結果、今回の事例におけるG-CSFと白血病発症の因果関係については、「健常者に短期間G-CSFを投与しただけで白血病が発症する可能性は医学的には考えられないが、 完全に否定することはできない」という見解が示された。
G. アフェレーシス
アフェレーシスはリスクを伴う侵襲的手段であり、健常人ドナーの安全性確保のために注意深くアフェレーシスを実施することが要求される。
1. 末梢血幹細胞採取のためのアフェレーシスに関する認識
同種末梢血幹細胞移植のためのドナーは、末梢血幹細胞動員のために高用量のG-CSFが4-6日間投与され、採取のためのアフェレーシスでは、 赤十字血液 センターで通常業務として実施されている血小板アフェレーシスに比べて、数倍の処理血液量を要する体外循環が必要とされる。 したがって、末梢血幹細胞採取は、従来の全身麻酔下の骨髄採取に比べ簡便ではあっても、安全性が高いとの根拠は定まっていない。
全身麻酔下の骨髄採取においては、麻酔科医が移植担当医とは異なる第三者の立場で介在しているが、末梢血幹細胞採取においては、 移植担当医が採取にも関わ る場合が少なくないと予想される。さらに、移植担当医がアフェレーシスに習熟していない場合には、 アフェレーシスに伴う危険性の増大が危惧される。
2. アフェレーシスに関する注意
アフェレーシス当日、体調について問診するとともにバイタルサインをチェックし、採取困難な体調不良が無いことを確認して採取を開始する。
アフェレーシス前、終了直後、翌日、1週間後には必ず全血球計算(complete blood counts, CBC)、生化学、バイタルサインのチェックを行い、 安全性を確認する。異常値があれば、それが正常化するまでフォローする。また、アフェレーシス中はECG、脈拍などの適切なモニターを必ず行い、 記録を保存する。
アフェレーシス終了後に血小板の異常低下が無いことを確認する。なお、アフェレーシス直後の血小板が80,000/μLよりも減少した場合は、 PBSC採取産物より自己多血小板血漿を作成してドナーに輸注することが望ましい。また、このような場合は、2回目のアフェレーシスによるPBSC採取の中止を考慮する。
アフェレーシス施行中に中等度、重度の有害事象が発生した場合はPBSC採取を中止する。
3. PBSC採取のためのアフェレーシス
血球分離装置を用いてPBSCを採取するためには採血および返血のための血管ルートを確保する必要がある。可能な限り太い静脈ラインの確保が有利であり、 成人の場合両側前肘部の静脈を用いるのが望ましく、一方を採血、他方を返血とすれば実施は容易である。採血側の血流が不安定な場合は、 マンシェットを利用して更に圧迫を加えると血流の安定化が得られる。採血ルートはより太い留置針(側孔付きの16-18G針など)で血管確保を行う。 返血ルートは、必ずしも前肘部静脈でなくてもよいが、18G以上の針でルート確保ができる血管を選ぶ。採取ルートとして適切な血管確保ができない場合は、 ドナーとして不適格と判断する。やむを得ない場合は大腿静脈あるいは鎖骨下など深部静脈を確保し、ダブル・ルーメンカテーテルを用いて採血および返血ルートとする。 鎖骨下など深部静脈へのカテーテル挿入は合併症のリスクがあるため、十分な注意が必要であり、中心静脈のルート確保に習熟した専任医師がいない場合は避けるべきである。 全身麻酔下の骨髄採取よりもアフェレーシスによるPBSC採取がより適切と判断される場合は、小児特有の配慮が必要である31,32) 。 また、採血および返血ラインの確保に際しては、穿刺部位の消毒を(ポピドンヨードなど)十分に行い、細菌感染などを防止する。
PBSC採取のための処理血液量は150-200mL/kgあるいは循環血液量の2-3倍が一般的で、血流速度50-60mL/分で体外循環を行うと、アフェレーシスの所要時間は3時間前後である。
4. 採取に伴う副作用
アフェレーシスに伴う副作用として全身倦怠感(30%前後)のほか、四肢のしびれ(抗凝固剤として用いるACD液によるクエン酸中毒)、 めまい、吐き気、嘔吐など血管迷走神経反射(vaso-vagal reflex, VVR)や一過性のhypovolemiaによる症状がみられる。 特にVVRは重篤な場合は高度の「徐脈脈拍数29/分以下)」が出現し、意識喪失、失禁がみられることがあり、さらに「心停止」に至る可能性もあることから、 ECGモニターが必須であり、硫酸アトロピン、エホチール、エフェドリンなどを直ちに静注するための準備が必要である。 クエン酸中毒による低カルシウム血症はカルシウム液の持続注入(グルコン酸カルシウム5-10mL/hr)によってほとんどの場合予防することができる。 しかし、アフェレーシス中は常にクエン酸中毒の危険(10mL/hrのカルシウム液の持続注入でも発生しうる場合がある)がありうるので注意する。
アフェレーシスでは単核球だけでなく血小板も大量に採取されるので、採取後に血小板減少が高頻度(50%以上)にみられ、 50,000/μL未満の高度の血小板減少も少なからずみられており(5%前後)7) 、注意を要する。したがって、アフェレーシス終了後1週間くらいは必ず血小板数をチェックし、 採取前値への回復を確認する。また、PBSC動員からアフェレーシス終了までアスピリン製剤は使用しない。
5. 採取PBSCの目標
同種末梢血幹細胞移植では、生着に必要なPBSCの移植細胞数は十分明らかにされていない。移植細胞数は個々の患者とドナーの条件に応じて個別に設定する。 移植後速やかな生着を得るために、同種末梢血幹細胞移植において輸注されるCD34陽性細胞の目標数は、4-5×10^6/kg(レシピエント体重)とする施設が多く、 4×10^6/kg以上が4×10^6/kg未満よりも生着がすみやかであるとする報告33) もある。
一方、わが国では移植されたCD34陽性細胞が1×10^6/kgでも生着は得られており1) 、その後の症例の集積により2.5×10^6/kg以上でも 速やかな生着が得られることが明らかにされている33) 。
大部分の健常人ドナーでは生着に十分な量のPBSCの動員・採取が可能である。しかし、一部の健常人ドナー(5-10%)では、 PBSC動員の至適条件でも十分量のPBSCが採取できない場合(CD34陽性細胞<2×10^6/kg)があり、このpoor mobilizationは留意すべき点と考えられる。 高齢者に多いことが指摘されているが、現在のところ、poor mobilization を予測する確実な方法はない34)。
移植後の生着に十分な量のPBSCが採取できなかった場合、末梢血からのPBSC追加採取、または全身麻酔下の骨髄採取が必要になる可能性について、 あらかじめ十分説明を行っておく。
H.ドナーの登録と安全性モニター
日本造血細胞移植学会は、「同種末梢血幹細胞ドナーフォローアップ調査」を実施するために、PBSC動員のためにG-CSF投与を受けた 健常人ドナーを学会の全国集計センター事務局に登録し、短期、中期、長期の安全性を学会の責任においてモニターすることを決定した(1999年12月15日の理事会)。 この登録モニター制は、同種末梢血幹細胞移植の保険適用をめぐる厚生労働省との議論、すなわち薬剤として認可されたG-CSFを健常人に投与するという 健康保険制度の中では異例の状況を考慮して、健常人ドナーの安全性確保のために提案されたものである。
移植前に登録されたドナーの安全性調査は、短期(従来の市販後調査に該当)、中長期(投与後1, 2, 3, 4, 5年)に行われる。 別に定められた調査実施要綱にしたがって、ドナーは採取前に必ず日本造血細胞移植学会の同種末梢血幹細胞ドナー登録センターに登録し、 移植医および移植施設はドナーのG-CSF投与後の長期フォローアップ調査を必ず実施する。
附記
A. アフェレーシスの作業基準について
各施設で作成される「アフェレーシスの作業基準(マニュアル)」には以下の項目を含むこと。
1. PBSC採取のアフェレーシスにおける処理血液量は両腕法で250mL/kg(ドナー体重)、片腕法150mL/kgを上限とする。
2. アフェレーシス中に高頻度に発生するクエン酸中毒の対策を具体的にマニュアルに記載しておく。血球分離装置の機種によって、ACDの投与速度のモニター状態が異なるので、それぞれの機種に対応した作業基準が必要である。また、クエン酸中毒の初発症状としてはしびれのみではなく、胸部違和感、寒気、吐き気もあり、さらに嘔吐や不整脈を見るドナーが存在すること、さらに、クエン酸の感受性は個人差が大きいので投与量を調節する必要があることも作業基準に含める。
3. クエン酸中毒や迷走神経反射による気分不良に由来する嘔気、嘔吐が発生した場合は、採血・返血スピードを落とし、適切な処置を行い、症状が改善しない場合は中止する。特に、採血開始後にはドナーの観察を十分に行って初期症状の把握に努め、早めに対処することを心がけることが肝腎である。なお、一旦中止した採取を再開する場合は、責任医師と相談して再開を決定する。また、嘔気、嘔吐に対処するため、嘔吐用ガーグルベースン、ポリ袋、タオル、ティッシュペーパーなどを準備しておくとともに、十分量のグルコン酸カルシウムおよび持続点滴用マイクロインフュージョンポンプや昇圧剤(ドパミン、エホチール、エフェドリン、硫酸アトロピン)なども常備しておくこと。
B. 説明文と同意書の保管と提出について
同意書は説明文とともに保管する。必要な場合は、作業基準書とともに学会事務局に提出できるようにしておく。
文献
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