当科で扱う疾患について
当科では整形外科領域の腫瘍性疾患の診療を行っています。主に四肢(手足)、体幹の表面を扱います。脊椎は整形外科、顔面・頭部・胸部・腹部・骨盤内などは当該臓器の診療科と連携して診療を行います。また10歳未満の小児の診療はしておりません。具体的な治療対象となる疾患及び治療法は以下のとおりです。
1.良性骨腫瘍
骨軟骨腫、内軟骨腫、類骨骨腫、骨芽細胞腫、骨巨細胞腫、軟骨芽細胞腫、線維性骨異形成症、好酸球性肉芽腫、骨内脂肪腫、動脈瘤様骨嚢腫、単純性骨嚢腫、軟骨粘液線維腫などがあります。そのまま放置すると骨の強度が弱くなり、ちょっとしたことで骨折に至る場合があります。このような場合は、普通の骨折と違い治療が大変難しくなります。骨内から腫瘍組織を除去して、骨内に人工骨を充填して金属で骨折部を固定する手術を行ったりします。
すなわち、良性骨腫瘍の中には、ちょっとしたことで骨折を生じる前に、予め治療を行うことが望ましい場合があります。治療は、手術で腫瘍を除去します。腫瘍を除去したあとには骨の中に空洞ができますが、この空洞には骨盤から採取した骨を移植したり、人工骨を充填したりすることが多いです。
2.良性軟部腫瘍
主な疾患に、脂肪腫、神経鞘腫、血管腫、神経線維腫、平滑筋腫、腱滑膜巨細胞腫があります。これらは、いずれも比較的頻度の高い疾患でありますが、それぞれに特有の落とし穴があります。たとえば、最も多い軟部腫瘍である脂肪腫と類似した理学所見や画像所見や病理組織所見を示す疾患に、異型脂肪腫様腫瘍(高分化型脂肪肉腫)があります。異型脂肪腫様腫瘍(高分化型脂肪肉腫)を脂肪腫のごとく治療しますと、しばしば再発して治療に難渋します。他所の医療機関で脂肪腫と診断されて切除手術を受け、再発をして当科を受診される患者さんが少なからずいらっしゃいます。元の腫瘍を当院で再度検討してみますと脂肪腫ではなく異型脂肪腫様腫瘍(高分化型脂肪肉腫)であったということがしばしばあります。また、悪性腫瘍を良性腫瘍の如く安易に切除するとその後の治療に悪影響があり生命にかかわることがあります。このように、治療が比較的容易とされる良性軟部腫瘍ですが、当科では悪性腫瘍である可能性も念頭において慎重に診療に当たっております。
3.悪性骨腫瘍
整形外科で扱う悪性骨腫瘍には、骨肉腫、軟骨肉腫、悪性未分化多形肉腫、ユーイング肉腫(現在は骨でも軟部でもない分類になっています)などがあります。当科での悪性骨腫瘍診の治療はそれぞれの腫瘍の性質を検討して、手術療法、化学療法、放射線療法のすべて、または一部を組み合わせて行います。
イ.手術療法について
悪性骨腫瘍は四肢に出来ることが多いのですが、かつては悪性骨腫瘍に対する治療として四肢の切断が行われていました。昭和時代の終わりころから四肢を切断しないで悪性骨腫瘍の切除を行う患肢温存手術が行われるようになり、平成時代に入り患肢温存手術の手技が確立しました。当科では、可能な限り患肢温存手術を行うようにしています。悪性骨腫瘍を切除しますと大きな骨欠損になりますが、そこは金属製の人工関節や、放射線や液体窒素で腫瘍細胞を死滅させた処理骨を用いて再建をします。腫瘍用人工関節は国内や海外で汎用されて過去に実績のある機種のうちで患者さんの体のサイズを考慮して選定しております。また、これらの人工関節も日進月歩であり、当科では人工関節を開発した医師や製造開発に携わっている技術者と意見交換ができるように努めています。
ロ.化学療法について
悪性腫瘍のうち骨肉腫やユーイング肉腫には化学療法も併用して治療を行いますが、当科ではこれらの疾患の患者さんには、世界中で最も評価の高い確立された化学療法を行っています。一方で、骨未分化多形肉腫や線維肉腫などのように化学療法が確立されていない疾患の場合、化学療法の有効性は科学的には証明されていません。しかし、患者さんによっては有効な場合もあること、化学療法には必ず副作用があることを患者さんに説明した上で、年齢や腫瘍の大きさを考慮して化学療法の適応を決めています。また、近年発達してきた遺伝子パネル検査といって、腫瘍特有の遺伝子異常を検出し、治療標的となるものを探索する検査も希望に応じ実施しています。
ハ.放射線療法について
整形外科領域の悪性骨腫瘍は通常は放射線感受性が低いので、放射線療法が治療の主体になることはありませんが、手術の際に患肢を温存できるかどうかが微妙なときに、放射線療法を行って患肢の温存手術を行うことがしばしばあります。その他に、疼痛などの症状の目的で放射線療法を行うことがあります。
4.悪性軟部腫瘍
整形外科で扱う悪性軟部腫瘍には、未分化多形肉腫、脂肪肉腫、平滑筋肉腫、悪性末梢神経鞘腫瘍、滑膜肉腫、横紋筋肉腫、悪性腱滑膜巨細胞腫、線維肉腫などがあります。当科での悪性軟部腫瘍の治療は、それぞれの腫瘍の性質を検討して、手術療法、化学療法、放射線療法のすべて、または一部を組み合わせて行います。手術療法は悪性骨腫瘍の場合と同様に、可能な限り患肢温存手術を行うようにしています。皮膚を合併切除する場合には皮膚移植や皮弁形成を行い再建しています。大多数の悪性度の高い(性質の悪い)悪性軟部腫瘍には、標準療法として手術の前後に化学療法を併用します。悪性度の低い悪性軟部腫瘍や、高齢や合併症などの問題で化学療法の耐久力が低いと考えられる患者様の場合は、手術単独で治療します。悪性軟部腫瘍の大多数は悪性骨腫瘍と同じく放射線感受性が低いので、放射線療法が治療の主体になることはありませんが、手術の際に患肢を温存できるかどうかが微妙なときに、放射線療法を行って患肢の温存手術を行うことがしばしばあります。その他に、症状緩和の目的で放射線療法を行うことがあります。また、前述の骨腫瘍の場合と同様に、遺伝子パネル検査も希望に応じ実施しています。
5.転移性骨・軟部腫瘍
他臓器に発生した癌が骨・軟部組織に転移をして生じる転移性骨・軟部腫瘍のうち、手術療法が必要な患者さんは当科で治療を行います。色々な状況がありえますのですべてについて述べることは出来ませんが、例えば、原発病巣の癌は完全に治療されており、骨に1箇所だけ転移があるような場合は、当科では、原発性骨腫瘍に準じて広範切除を行い、根治を目指した治療を行います。また、状況は異なりますが、癌が多発性に骨転移をしていて、とても根治は望めないが転移した骨が病的骨折を起こしたような場合には、患者さんの症状緩和や生活のしやすさの改善を目指して、病的骨折に対する治療を行います。整形外科・放射線治療部と連携して、定期的に開催している骨転移キャンサーボードで治療方針を検討しています。