脊椎・脊髄疾患に対する診断と治療
手術件数は年間200件超で、脊椎脊髄専門医を中心に診療を行っています。
脊椎変形に対する脊椎矯正手術という大きな手術から低侵襲手術(手術の負担をできるだけ小さくするように工夫された手術)である経皮的脊椎スクリュー固定やバルーン後後弯形成術(BKP)(小さな傷で背骨の骨折変形を直し固める)まで幅広く行っています。また、部位も後頭骨から仙椎まであらゆる部位の疾患に対応しています。
ただし、安全・安心をモットーとしており、症例によってはさらに専門的な医療機関と連携して治療にあたりますので、お気軽にご相談ください。
脊椎・脊髄腫瘍の診断と治療
背骨にできた腫瘍の治療を得意としており、多くの医療機関から紹介していただいています。
脊椎腫瘍
この中で最も多いのはがんの転移です。がんが背骨に転移すると痛みとともに麻痺(手足が動かなくなる)が起こる可能性があります。以前は背骨にがんが転移したら末期と考えられていました。しかし近年治療薬が急速に進歩して、背骨に転移しても長生きできるようになりました。当科の調査によれば2006年以降の患者さんはそれ以前の患者さんの約2倍長生きしていました。しかし、いったん麻痺がおこって歩けなくなり、適切な治療がされないと残された命は短いままとなります。(図1)これは歩行ができない患者さんには、せっかく進歩したがん治療薬を使うことができないためです。
したがって、背骨のがんの転移を適切に治療して、歩行できる状態を維持することは残された命を全うできるかどうかにもかかわっていると言えます。当院では、がん骨転移の患者さんに対して関連各科とカンファレンスを行い、総合的な判断で治療方針を決定しています(骨転移ボード)。その中で放射線治療、薬物治療、リハビリ、緩和そして手術治療などが選択されます。
当科では積極的に手術治療を行い、一度歩けなくなった患者さんの8割強を歩けるようにすることができています。手術となると特にがんは再発の可能性がありますから、再発の少ない治療法の選択が望まれます。
上記の治療法として、当科では1.脊椎骨全摘術 2.特殊放射線治療を併用した手術などを行ってきました。
- 腫瘍脊椎骨全摘術:背骨の腫瘍をそっくりくりぬく方法で、高度な技術を要する侵襲の大きな手術です。当院では、本手術を開発した金沢大学から直接技術指導を受け、実施しております。
- ただし、前記の手術が適応となる患者さんは比較的少なく、多くの患者さんは腫瘍が広がっているため手術だけでは完全に取り除くことはできません。この場合は、神経圧迫を取り除き背骨を固定する手術と術後放射線照射を組み合わせた治療が主流となります。放射線が良く効くがんの場合はこれでいいのですが、放射線が効きにくいがんや、すでに放射線治療をしてしまっているので再度行えない場合は、手術後早期に再発が起こります。
当院では、特殊な放射線治療(①術中照射 ②定位体幹照射)を組み合わせることで、この問題に対応してきました。
①術中照射は手術中に脊髄を鉛で保護し、腫瘍にだけ大量放射線をあてる方法で当院にて開発されたものです。すでに実施例は700件を超え、麻痺の改善がよく再発が少ないよい方法であると内外の学会や論文で多数報告してきました。現在はこの経験をもとに次に述べる定位照射にバトンタッチしました。
②定位体幹照射は、最近開発された技術で多方向から高い精度で放射線を集中させる照射法です。周辺の重要臓器への被爆を抑え腫瘍の再発を抑えます。ただし脊髄が圧迫されていると脊髄に放射線があたりますので、このような症例では先に手術で脊髄の圧迫を取り除きます(分離手術)。当科では、このような脊椎腫瘍手術数が年間40件を超えており全国的にみても症例の多い施設です。
(図1) 癌が背骨に転移して歩けなくなったが、手術をして歩けるようになった患者さんと歩けないままの患者さんの余命です。早期発見と適切な治療をおこない、歩行不能にしないようにすることが大切です。
脊髄腫瘍
症例の多くは脊髄の周辺にできる良性腫瘍ですが、放置すると麻痺を起こします。神経の状態をモニターしながら、顕微鏡を使用し細心の注意を払いながら取り除きます。
骨粗鬆症
骨粗鬆症の治療薬には様々なものがありますが、必ずしも患者さんにあった薬が選択されているとは限りません。当科ではDEXA法という最も正確な骨密度測定法で診断を行い、骨代謝マーカーを調べることで適切な治療法選択と治療効果判定を行っています。
診断と治療薬選択は当科で、普段の投薬は主治医やかかりつけの先生でと連携をとって行っています。がん治療に伴う骨粗鬆症にも取り組んでいます。
人工関節手術
変形やリュウマチなどで股関節や膝関節が傷み疼痛が強い時は、人工関節に入れ替える手術を行っています。人工股関節では、術前CTにて精密な計画をたて手術を行っています。人工膝関節でもナビゲーションを使用し正確な手術を目指しています。また、全チタン製の製品を使用することで金属アレルギーを予防しています。さらに、症例によっては膝の半分だけ入れ替える手術も行っています。