乳腺外科では、乳房に関するさまざまな症状に対して診断を行い、治療方法をお示ししております。気になることやご心配のことがございましたら、是非当院の乳腺外科をご受診ください。
- 乳房に「しこり」を触れる。
- 腕を挙げたとき、乳房に「えくぼ」「ひきつれ」がある。
- 乳首からの分泌(レンガ色)がある。
- 乳首にびらんや、ただれを認める。
- 乳房全体が赤く腫れている。
- 乳房に潰瘍ができて治らない。
- わきの下のしこり(硬いリンパ節)を触れる。
上記の症状が必ずしも乳がんというわけではありません。自分で触っただけでは、良性か悪性かがわからないことがほとんどで、良性疾患の割合も多いです。男性の乳腺疾患として、乳がんや女性化乳房症もあります。今までなかった乳房の症状にお気づきになられた場合には、まずは乳腺外科にて専門医にご相談ください。
乳腺疾患の診断
乳腺にできる腫瘍は、良性から悪性のもの(おもに乳がん)まで様々なものがあり、組織学的に分類されています。最終的には顕微鏡で検査してみないとわからないことが多いです。乳腺の診断のおおまかな流れとしましては、初診:問診、症状の確認、視触診の所見⇒画像検査⇒組織学的検査(病理診断)という流れです。その「しこり」がどの組織であるかによって経過観察の仕方、治療方針が決まってきますので、病理診断は非常に重要です。
乳腺外科での初診から精密検査までの流れ
生検など痛みの伴う検査は原則後日の予約になります。
■問診
乳腺外科外来では、まず問診表に記入していただきます。どのような症状が、いつからあるのか?など現病歴のほか、過去の既往歴や、家族歴、生活歴などをお聞きいたします。問診表の記入後、診察室にご案内いたします。そこで問診表を見ながら、担当医師が経過などを伺います。マンモグラフィ検査の際に若干の被曝がありますので、妊娠の有無の可能性も確認させていただいております。また豊胸術の既往の有無も重要ですので、正確にご申告いただきますようお願いします。
■診療の流れ
マンモグラフィ(乳房X線撮影)
マンモグラフィは乳がんを診断する方法のひとつで、乳房専用のレントゲン撮影です。乳房を挟みながら圧迫して、上下方向から1枚、左右方向から1枚(左右の乳房を撮影する場合は計4枚)撮影します。 マンモグラフィでは、触診ではわからない程の小さい腫瘤や、非常に細かい石の粒(微細石灰化)などで、乳癌を見つけたりすることができます。
実際のマンモグラフィです。
一見するとわかりにくいですが、右乳房の乳頭の上側に細かい石灰化を認め、精査の結果乳癌と診断できた症例です。この症例は、触診でも病変は触れませんし、また超音波検査での描出はできませんでした。
視触診
実際に目で観察し、手で触って診察いたします。 視診では、乳房の非対称性、乳房の大きさ、乳頭や皮膚の陥凹(へこみ状態)、乳頭部・乳輪部のびらん・湿疹、皮膚の発赤、浮腫、皮膚の膨隆(盛り上がり)、潰瘍の有無などを確認いたします。触診では、“しこり”の有無、“しこり”があれば大きさや可動性などをチェックします。
乳房の診察では、腋窩(脇の下)リンパ節も重要です。左右のリンパ節も併せて診察いたします。また、授乳期以外に乳首から分泌液のある場合、しこりを触れない乳癌が発生していることもあります。乳頭からの分泌の有無が大事ですので、乳頭部の触診も行い、乳首からの分泌の有無についても注意深く診察いたします。
乳腺エコー(超音波)検査
乳房に超音波をあてて、はね返ってくる音波を画像化した検査です。"エコー""超音波"などと言ったりしますが、同じ検査のことをさします。検査のために乳房表面にゼリーを塗って、その上からプローベ(機械)をあてて乳房内部を検査します。およそ10分程度かかります。被爆もなく、痛みも伴いません。
病変があった場合、その病変が何なのか(水分なのか、充実性のものか? 悪性なのか良性なのか、など)、画像上の影や形からある程度の予測ができます。明らかに良性を疑う所見であれば、そのまま細胞の検査などせずに、経過観察となります。一方、少しでも悪性を疑うものや、良性疑いでもサイズの大きなものに関しては、精密検査が必要となる場合があります。その場合は、"穿刺吸引細胞診"や"組織診"などを行います。ここまでの視触診、マンモグラフィ、超音波検査の検査で異常がない場合は、結果をご説明して診療は終了となります。経過観察が必要であれば、次回の来院時期、一年後や半年後を説明します。また病状によっては、エコー検査や細胞診は予約になることがあります。
穿刺吸引細胞診
視触診、マンモグラフィ、超音波検査で乳がんを疑う場合や、良性病変を疑うが乳がんとの鑑別が必要な場合に実施します。超音波を見ながら、病変に細い注射針(採血で使う針と同じ太さです)を刺して細胞を吸引して採取し細胞診を行います。基本的には麻酔無しで行いますが、どうしても痛みがつらい場合や心配な場合には局所麻酔を実施することもあります。
病変に針を刺して、陰圧をかけて細胞を吸引し、スライドガラス(ガラス板)に吹き付けます。そのガラス板を顕微鏡でみて、細胞の“顔つき”から5段階にわけます。正常あるいは良性、鑑別困難、悪性の疑い、悪性、検体不適正に分類されます。
細胞診での"Class(クラス)5"は、悪性という意味で、ほぼ乳がんであるということですが、がんのステージ(進み具合)とは異なります。細胞診は、良いものか(良性)、悪いものか(悪性)を判定するための検査で、組織型まではわかりません。検査自体は約5~10分程度ですが、結果が出るまでは約1週間かかります。
細胞診は比較的侵襲の少ない検査ではありますが、100%診断がつくというわけではありません。中には、吸引してきた液体に細胞が含まれていない場合や、その病変の性質により水分が採取困難な場合があり、適正な検査ができない場合があります。また、適正な検査ができても、病理の先生がみて細胞診だけで良悪性をつけることが困難な場合があります。その場合は、以下に示します“針生検"や“マンモトーム”といった組織診を行うことになります。細胞診の合併症として、若干の内出血(少し皮膚が青くなること)がありますが、数日で吸収されてわからなくなります。当日の生活もおおむね制限はなく、絆創膏を貼って帰宅していただきます。
細胞診の針の太さは、通常の「採血」の時と同じです(22ゲージ針)。
針生検(組織診)
皮膚に局所麻酔を十分に行い、超音波検査で病変を確認しながら、病変に専用の生検針を刺し、組織を採取する検査です。細胞診より少し太めの針を使用しますので局所麻酔を行います。先ほどの穿刺吸引細胞診は“目に見えない細胞を含んだ細胞成分”を採取するのに対し、針生検では“目に見える組織”を採取してくるので診断率の高い検査です。傷も2mm程度で目立つことはありません。この方法により多くの不必要な外科的生検が回避できるようになりました。
適応となるのは、超音波検査で確認できる病変で、乳がんが疑われる病変や、良性疾患の中でも組織型を診断したい場合、また先ほどの細胞診では診断が困難な例などです。必ずしも細胞診⇒組織診という順序ではなく、最初から針生検を選択する場合があります。
また、吸引式乳房針生検(マンモトーム生検)を選択する場合があります。実際に超音波検査を行った段階で、どちらの検査の方がより確実に診断でき、かつ侵襲が少なくてすむか判断し、決定いたします。こちらも局所麻酔を行います。検査の時間は約10分ほどですが、結果が出るまでは約10日~2週間かかります。
合併症としては、出血、血腫、感染などがあります。青あざになったり、少し腫れたりすることがありますが、数日で吸収されます。なるべく出血・血腫を予防するために、検査直後には数分圧迫します。もちろんその上から、ブラジャーなど下着は身につけていただいても問題ありません。検査後の制限としては、当日の入浴や飲酒、激しい運動などはやめていただいています。
乳腺腫瘍の組織学的分類
乳腺にできる腫瘍は、良性のものから悪性のものまで様々なものがあります。以下にお示します表の通り、組織学的に分類されています。その「しこり」がどの組織であるかによって経過観察の仕方、治療方針が決まってきますので、病理診断は非常に大切になってきます。当然ですが、「乳がん」の診断は画像診断ではなく病理組織診断にて確定いたします。
I. 上皮性腫瘍
A. 良性
1.乳管内乳頭腫 |
2.乳管腺腫 |
3.乳頭部腺腫 |
4.腺腫 |
5.腺筋上皮腫 |
B. 悪性(癌腫)
1.非浸潤癌 | a.非浸潤性乳管癌 | |
b.非浸潤性小葉癌 | ||
2.s 浸潤癌 | a.浸潤性乳管癌 | a1 乳頭腺管癌 |
a2 充実腺管癌 | ||
a3 硬癌 | ||
b.特殊型 | b1 粘液癌 | |
b2 髄様癌 | ||
b3 浸潤性小葉癌 | ||
b4 腺様嚢胞癌 | ||
b5 扁平上皮癌 | ||
b6 紡錘細胞癌 | ||
b7 アポクリン癌 | ||
b8 骨・軟骨化性を伴う癌 | ||
b9 管状癌 | ||
b10 分泌癌(若年性癌) | ||
b11 浸潤性微小乳頭癌 | ||
b12 基質産生癌 | ||
b13 その他 | ||
3.Paget病 |
II. 結合織性および上皮性混合腫瘍
A.線維腺腫 |
B.葉状腫瘍 |
C.癌肉腫 |
II. 結合織性および上皮性混合腫瘍
A.間質肉腫 |
B.軟部腫瘍 |
C.リンパ腫および造血器腫瘍 |
D.その他 |
IV. 分類不能腫瘍
V. 乳腺症
VI. 腫瘍様病変
VI. 腫瘍様病変
A.乳管拡張症 |
B.炎症性偽腫瘍 |
C.過誤腫 |
D.乳腺線維症 |
E.女性化乳房 |
F.副乳 |
G.その他 |
日本乳癌学会(編):臨床・病理乳癌取扱い規約 第16版
もし乳がんと診断されたら
すぐに手術ではなく、まず全身を画像検査にて精査し、病変の広がりをチェックいたします。その後に治療計画を立てていきます。
全身検査:
胸腹部CT検査(肺、肝などの転移の有無 リンパ節転移の有無)
頭部MRI検査
乳房造影MRI検査(乳房のさらなる精査)
骨シンチ(骨転移の有無)
全身のMRI検査(拡散強調画像)
必要に応じて遺伝子検査、など
乳がんの治療
1. 手術療法:それぞれの患者さんに適切な手術方法をお示しいたします。乳房と腋窩の手術を組み合わせて行います。
- 乳房全切除
- 乳房温存手術(乳腺部分切除)
- センチネルリンパ節生検
- 腋窩リンパ節郭清
当院では形成外科医師(非常勤医師、慶応大学病院)とともに乳房再建手術を行なっております。
2. 薬物療法:乳がん治療においては薬物治療が非常に重要です。
- 術前治療(タキサン系 アンスラサイクリン系 抗体療法:ペルツズマブ、トラスツズマブ 免疫チェックポイント阻害剤 ホルモン療法)
- 術後補助治療(ホルモン療法 抗体療法:ペルツズマブ、トラスツズマブ 抗がん剤;タキサン系、アンスラサイクリン系)
- 再発進行治療(エリブリン、ビノレルビン、ゲムシタビン、抗体療法:ペルツズマブ、トラスツズマブ、トラスツズマブ・デルクステカン、T-DM1、アバスチン、経口抗がん剤;カペシタビン、S-1 免疫チェックポイント阻害剤など)
当院では、初回の抗がん剤治療は原則短期入院(CVポート作成を含む)にて実施しております。その後、副作用など大きな問題なければ外来通院にて化学療法を継続していきます。
3. 放射線治療:当院の放射線科で治療できます。
温存療法術後照射:短期間(寡分割)照射も行なっています。
再発病変治療
4. 遺伝子検査:値段の高い検査ですが、治療に役立つことがあります。
1) BRCA検査(BRACAnalysis):
遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)であることが分かり、がんの発症する可能性が高いことを知ることで早期発見や予防的治療をすることができるようになりました。これらの検査、治療も当院で可能です。
BRCA検査(BRACAnalysis)の保険適応の条件は以下の通りです。
- 45才以下の乳がん。
- 60才以下のトリプルネガテイブ乳がん。
- 2個以上の原発性乳がん(同時性、異時性は問わない)。
- 第3度の近親者内に乳がんまたは卵巣がんの家族歴を有する。
- 男性乳がん。
上記に該当しなくても、下記のいずれかに当てはまる患者様。 - 化学療法を受けていてHER2陰性の手術不能または再発乳がんの患者さんであり、分子標的薬「オラパリブ(商品名リムパーザ)」での治療を検討されている患者様。
- Stage III,IVの卵巣がんで、術後の化学療法として分子標的薬「オラパリブ(商品名リムパーザ)」での治療が検討されている患者様。
※参考:第1度近親者:両親、子供、兄弟 。第2度近親者:祖父母、孫、叔父、叔母、甥、姪 。第3度近親者:いとこ、曾孫、甥や姪の子供など。
2) Oncotype DX:
乳癌手術標本をさらに遺伝子検索し 再発率を調べる検査で。抗がん剤治療の必要性を検討できます。
3) 遺伝子パネル検査:
転移や再発巣の治療で既存の化学療法などで治療が困難になった場合に、新たな治療薬の検討や参加できる治験があるかどうかなどを調べるために、がんの遺伝子異常を調べます。当院では対応できないので、東京医科歯科大学病院に紹介しています。