骨軟部腫瘍とは、骨および軟部組織(筋肉、脂肪、神経、血管など)にできる腫瘍のことを言います。これらの組織は体中いたるところにありますが、整形外科では、主に頸部より下から発生したものを扱っています。骨軟部腫瘍は、原発性のものと転移性のものに分類されます。後者は、内臓などにできた癌が主に骨に転移したものを言います。前者は、良性、悪性のものがあり、それぞれ、良性骨腫瘍、悪性骨腫瘍、良性軟部腫瘍、悪性軟部腫瘍に分類されます。悪性のものは、肉腫とも言われ、骨軟部肉腫は他の癌に比べて非常にめずらしく、年間の罹患率は軟部肉腫で10万人に一人、骨肉腫で100万人に一人から二人と言われています。希少な疾患であり、骨軟部腫瘍の診療では専門的な知識を要するため、非専門施設で診断がつかずに長期間経過していることや、不適切な治療が行われていることがあります。骨軟部腫瘍外来では、月曜日(偶数週)の午後に、東京大学医学部附属病院(東大病院)の骨軟部腫瘍を専門にしている医師が診療します。手術が必要と判断した場合は東大病院や都立駒込病院で治療することもあります。
診断・治療の流れ
主な治療
良性骨腫瘍
20種類以上の種類があります。増大傾向にあるもの、骨折の危険性のあるものは治療を行います。手術では、切除や掻爬(骨の中にある腫瘍を搔き出してくる)を行います。
- 内軟骨腫:手足の骨によくできる腫瘍です。痛みがあって見つかることがありますが、X線検査でたまたま見つかる事もあります。骨折の危険性のあるものは、掻爬を行い、人工骨を移植します。
- 孤立性骨嚢腫:骨端線が閉鎖する前の子供に良くできます。骨の中に嚢腫(液体の貯留)ができ、大きくなると骨折することがあります。骨折によって、内部の圧が低下すると骨ができてくることがあります。掻爬と人工骨移植の他、中空のピンを留置して減圧する方法もあります。
- 骨巨細胞腫:正確には中間悪性腫瘍に分類され、膝、手首、骨盤によくできます。再発しやすいため、骨をより大きく削り、エタノールでの処置を行います。時に肺転移をきたします。最近、デノスマブという注射による治療もあり、手術が難しい症例には使用します。
悪性骨腫瘍
若い年代に見られる骨肉腫、ユーイング肉腫や成人以降にみられる軟骨肉腫などがあります。東大病院や都立駒込病院などで、抗がん剤、手術、放射線治療など集学的治療を行います。腫瘍をしっかり切除し病気を根治する事を最優先と考えますが、悪性骨腫瘍は、関節周囲に発生することが多く、骨の切除によって、機能損失は免れません。東大病院では、機能をなるべく温存すること、機能を再建することを目指しています。具体的には、腫瘍切除後は腫瘍用の人工関節を用いて機能を再建します。また、腫瘍切除後に腫瘍を液体窒素で処理し腫瘍細胞を殺傷し、処理した自分の骨を用いて再建することで人工関節では得られない機能再建を目指す治療もおこなっています。また、体幹部に腫瘍が生じた場合は、重要な臓器が近くにあるため手術の難易度が高いのですが、呼吸器外科や消化器外科と合同で手術を行い、さらに手術支援ナビゲーションシステムを用いることで、確実な切除と重要臓器の損傷を避けるようにしています。
良性軟部腫瘍
軟部腫瘍は悪性腫瘍と合わせると100種類以上あり、MRIなどの画像検査だけでは診断に困難する事があります。そのため、外来で針生検を行い、診断をつけるようにしています。腫瘍が小さく、浅い部分に生じた腫瘍に対しては、局所麻酔での手術も行っています。傷もなるべく小さくなるように心がけています。
悪性軟部腫瘍
悪性軟部腫瘍は成人以降に発生することが多く、上述の通り、様々な種類があります。東大病院や都立駒込病院などで局所治療として手術による切除が第一選択となります。悪性骨腫瘍と同様に化学療法を行うことがありますが、その有用性については意見の分かれるところです。高悪性度でサイズが大きいものを対象に手術前後の化学療法を行っています。悪性軟部腫瘍の切除では、腫瘍のみならず腫瘍が浸潤していると考えられる周囲の組織をつけて切除する広範切除を行います。 悪性骨腫瘍と同様に、重要なことは腫瘍をしっかり取りきることですが、切除によって失われる機能をなるべく再建することを心がけています。そのために形成外科の医師と合同で手術を行い、筋肉、神経、血管を他の部位から移植する手術を行うことがあります。また、腫瘍が神経や血管に近接している場合には、in situ preparation法という方法を用いて、術中に腫瘍が神経・血管に浸潤していないかどうかを評価して、神経・血管を温存する試みを行っています。他、様々な先進技術を用いて、よりいい治療を目指しています。また、転移が生じた症例に対しても、近年承認された抗がん剤を用いて積極的に治療を行っています。