減量・代謝改善手術

多摩総合医療センターでは、手術による高度肥満症の治療を実施しています。
手術を受けたい、もしくは手術に関心があり話を聞いてみたいという方は、こちらのお問い合わせフォーム(外部リンク)よりお申し込みいただくか、下段のお問い合わせからご連絡ください

▶肥満で悩んでいる方へ、体重を減らして健康的に長生きするための手術について、専門医が紹介します。

肥満と健康障害

体内に脂肪が過剰に蓄積した結果、身長に比べて,体重が重くなる状態が「肥満」です.体格指数BMI(*)が25以上になると肥満と診断されます。過剰な肥満により生じる身体への悪影響を「健康障害」と呼びます。肥満が原因で生じる健康障害が治療の対象となり、医学的に減量が必要な状態を「肥満症」といいます。

特にBMIが35以上になると高度肥満と判定されます。高度肥満の方の平均寿命は普通の体格の方に比べて短く,死亡率は2倍以上と考えられています。高度肥満に健康障害を伴っていれば高度肥満症と診断され、病院での治療の対象になります。

BMIとは

体格指数(BMI; body mass index)は以下の計算で求めます。
計算式:BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
例: 80kg 160cmなら80÷1.6÷1.6=31.25
また、下記のグラフでご自身のBMIが32もしくは35以上か簡単に判断できます。
(グラフ)

BMIグラフ

数値を入力すればBMIを計算してくれるサイトもあります。(外部サイト)
BMIと適正体重計算(外部リンク)

また、BMIに応じて肥満度が分類されます。

BMI判定
18.5未満低体重
18.5以上25未満普通体重
25以上30未満肥満1度
30以上35未満肥満2度
35以上40未満肥満3度高度肥満
40以上肥満4度

肥満の原因と治療

肥満に至るまでには様々な要因が影響します。太っている方の中には食べ過ぎや運動不足など、忍耐や努力が足りないとみなされ,周囲から暗に批判的な目でみられるなど辛い経験をされている方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし最近では,肥満の背景として遺伝的要因や腸内細菌の影響が大きいことが報告され、個人的な努力だけでなく、体質の影響も大きいことが明らかとなってきました。

一方で、「太りやすい体質」自体を改善できるような画期的な治療は未だ開発されていません。現時点では、食べる量を減らすことが最も効果がある減量手段と考えられています。太りやすい人は普通の体格の人と同じ程度の食事をするだけでも太ってしまうので、体格が大きいにもかかわらず、普通の人よりも少ない食事量を維持しなければなりません。

しかし、極めて太りやすい体質である高度肥満症の方は、一般的な生活指導と栄養指導だけで効果的な減量を長期間維持するのは極めて難しいことが分かっています。

手術による高度肥満症の治療

内科的な治療だけでは改善が難しい高度肥満症の方には、外科手術が選択肢となります。減量・代謝改善手術と呼ばれる方法で、欧米では1950年代から行われています。特に現在の手術方法が開発された2000年代以降は爆発的に手術数が増加し、最近では世界合計で年間70万件以上、胃腸の手術の中で最も多く行われています。日本では、十分なトレーニングと経験を積んだ外科医が在籍する病院に限定して、2014年より保険医療で腹腔鏡下スリーブ状胃切除術という減量・代謝改善手術を受けることが可能になりました。そのため日本でもこの手術を受ける患者さんの数は年々増加しており、2022年時点では年間1000件程度の手術が行われています。当院は肥満症外科手術認定施設(日本肥満症治療学会)です。

日本肥満症治療学会(外部リンク)(外部リンク)

腹腔鏡下スリーブ状胃切除術について

胃は袋のような形をした内臓で、食事を取ると外側に大きく膨らむために一度にたくさん食べられる構造になっています。この手術では胃の外側部分を80%程度切除するので、胃が細くなって1回の食事で食べられる量が少なくなることで1日の摂取カロリーが減り、体重が減少します。全身麻酔の下で腹部に1.5cm以内の孔を6-7ヶ所あけて、体内を観察する腹腔鏡と手術器具を挿入して行います(図)。

図

手術の対象となる患者さん

当院では、この手術を保険診療でのみ行っています。そのため保険適応基準を満たした患者さんのみ手術を受けることが可能です。身体の状態が以下のいずれかを満たしている場合が対象となります。また、十分な準備が必要なので、6ヶ月以上の通院治療を受けていただき手術前から栄養療法に取り組んでいただきます。

  1. BMI 35以上であり、糖尿病、高血圧症、脂質異常症(コレステロール値異常)、睡眠時無呼吸症候群のうちいずれか1つ以上を合併している方

  2. BMI32以上35未満であり、十分な治療が行われても下記4つの疾患のうち2つ以上が重症で、基準値まで改善しない方

    糖尿病:ヘモグロビンA1c≧8.0%
    高血圧症:収縮期血圧≧160mmHg
    脂質異常症:LDL≧140mg/dL またはnon-HDL≧170m/dL
    閉塞性睡眠時無呼吸症候群:AHI≧30

    ただし、以下の場合は手術は適さないと判断することがあります。

  • 患者さんご自身の意思が明確でない
  • 重度の体調不良(重症の心臓疾患、呼吸器疾患、腎不全、肝不全など)
  • 二次性肥満:病気や身体機能の異常によっておこる肥満
  • 治療がうまくいっていない精神疾患があって、不安定な状態
  • 薬物依存症
  • 手術前の時点で栄養療法がうまくいかない場合

治療の流れとスケジュール(手術まで)

初診

  • 外科診療

    問診、診察にて、体重評価、これまでの経過、既往歴、肥満関連健康障害の有無と程度などをお聞きします。また手術の動機、術後のイメージと目標についてもお聞きし、手術治療の実際をご説明します。

  • 内科診察

    肥満症・糖尿病治療を専門とする医師の診察を受けていただきます。二次性肥満の除外、肥満関連健康障害の診断と治療を行います。

  • 栄養指導

    食生活全般のチェックを行います。食行動、摂取カロリー、嗜好などを知ることで、手術前後の栄養指導を効果的に行います。

  • 心理師面談

    公認心理師が心理社会的な評価を行い、現在の問題点を整理し、そして手術前後に患者さんを支える体制が十分であり、治療が順調に進むようサポートしていきます。

術前検査

  • 採血検査
    全身麻酔での手術を受けるための一般的な採血検査のほか、肥満症関連項目についても評価します
  • 腹部CT検査
    脂肪肝、内臓脂肪量、皮下脂肪量の評価を行います。また腹部手術の際のスクリーニングとしても必要と考えています。
  • 上部消化管検査(胃カメラ)
    胃の手術となるため必須の項目です。胃病変の有無、食道裂孔ヘルニア、逆流性食道炎の有無を確認します。
  • 睡眠時無呼吸症候群の検査
    減量・代謝改善手術の適応となる多くの方が睡眠時無呼吸症候群を持っており、術後合併症の原因となります。術前に必ず検査いただき、必要であれば治療導入を行います。

チームカンファレンス

体の状態だけでなく、心理社会的状況も考慮し、手術がベストな選択肢となりうるかを専門チームにて検討します。

術前減量のための栄養指導

術前の体重減少は手術リスクを低下させるために必須であり、カロリーを制限した栄養指導を行います。減量がうまくいかない場合、手術ができない場合があります。

手術と入院

手術前日に入院していただきます。手術時間は2-3時間程度ですが、患者さんの状況により前後します。通常は術後も一般病床にて過ごしていただきますが、病状に応じて集中治療室に1泊していただく場合もあります。

手術翌日から水分摂取を開始し、流動食中心の食事を始めます。胃を小さくしていますので、一日に必要な水分量(目標1500mL/日)、食事量を摂取するためには練習と意識付けが必要です。管理栄養士による指導の下、十分な経口摂取ができることが退院のための一つの指標となります。

手術後は順調であれば6日目に退院となります。ただし、重症の糖尿病がある患者さんは手術前に1-2週間程度の内科入院が必要な場合があります。

手術に関わる費用について

手術は保険診療で行われます。高額療養費制度※が適応されますので、手術までには限度額認定証をご用意ください。具体的な金額は患者さんご自身の年収や加入している保険制度によって異なります。平均年収程度の方が手術をお受けになって順調に経過された場合で10-20万円程度が目安です。特にご希望がなければ通常の4人部屋となりますので、差額ベッド代(有料個室料金)はかかりません。

当院は公的医療機関なので何らかのサービス提供や販売などの追加費用を病院にお支払いいただくことはありません。ただし、手術を終えて退院後にご自宅で2週間程度摂取していただく流動食、および術後に摂取をお勧めするサプリメントについて案内をいたしますが、それらは個々で購入いただくことになります。

退院後の生活・通院について

退院後の食事は、手術後2週間を目安に流動食中心のものから固形物の摂取を段階的に進めていきます。管理栄養士による指導を受けていただきます。安全かつ効果的な減量のために過不足ない栄養摂取をしていただくためです。退院後、家事などの日常生活にはすぐに戻れます。就業されている方は、スムースな水分摂取が可能となるまで少なくとも退院後2週間は休職をお勧めします。退院後は2週間後に再診していただき、そのときの体調で復職可能か判断します。その後は退院後4-6週間後、以降は3ヶ月毎に通院をお願いします。手術後1年を過ぎてからは3-6ヶ月毎の通院を少なくとも5年間継続いただくことをお勧めします。

当院での治療実績

2014年より腹腔鏡下スリーブ状胃切除術を導入し、2023年6月時点で累計209例の手術を行っています。手術後1年時点で平均30kg、治療前体重の平均25%程度の減量が達成されていました。手術後1年を過ぎると緩やかに体重は増加する傾向になりますが、手術後5年の時点でも平均で20%以上の体重減少は保たれていました。疾患については、糖尿病があった患者さんは手術後5年時点で85%の方に一定の改善がみられ、33%の方は薬物治療が完全に不要になっていました。高血圧と脂質異常症は手術後5年の時点でそれぞれ74%、96%の方に一定の改善がみられました。

減量・代謝改善手術治療専門チーム

当院では、内分泌代謝内科、消化器・一般外科、管理栄養士、公認心理師、看護師、精神神経科との連携による チーム医療を行っており、患者さんにとってベストな治療法を選択し、支えていきます。チーム医療ABCの概念を取り入れ、チームAはEBM(Evidence-based medicine)とコンセンサスに基づき直接の医療を提供します。チームBは対話型ケアを通して患者さんのニーズをサポートし、チームCは患者さん及びチームABを包括的にサポートします。このチーム医療と患者さんとの連携はとても大切です。 手術を受けただけで、体重が大きく減るということはありません。手術前から食事療法、運動療法を開始し、ライフスタイルを大きく変えることが治療の土台であり治療成功のキーとなります。手術が「おおきなきっかけ」となることは確かであり、当院での治療専門チームが手術前後を通してサポートしますが、何より、患者さん自身の努力と周りの方々(家族、友人)の協力がとても大切です。当院では医療者だけでなく、患者さんを含めたチーム医療体制により患者さんをいろいろな角度から長期的にサポートし、治療成功へとつなげていきます。

チーム医療体制

チームメンバーの紹介

内分泌代謝内科 辻野 元祥

【資格等】
日本内科学会総合内科専門医 認定医 指導医
日本内分泌学会 評議員 専門医 指導医
日本糖尿病学会 評議員 専門医 指導医
日本肥満症治療学会 理事 評議員

高度肥満症の患者さんは,これまでも多くの愉快ではない経験をされて来られたこととお察しします.現在も,糖尿病や高血圧,睡眠時無呼吸症候群など,今後の大きな疾患を引き起こしかねない疾患を抱えておられることと思います.減量・代謝改善手術は,肥満治療のすべてではなく,うまく治療が進むためには,患者さん自身の生活を整えていただくこと,また,術後長期にわたっての通院も必要となります.患者さんのお気持ちを大切にしながら,チーム一丸となって,精一杯お手伝いをさせていただきたいと考えております.

消化器・一般外科 畑尾 史彦

【資格等】
外科専門医・指導医
消化器外科専門医
内視鏡外科技術認定医(胃)
肥満症治療専門医・指導医
内視鏡専門医・指導医
日本外科代謝栄養学会 教育指導医
日本臨床代謝栄養学会 認定医
日本肥満症治療学会 評議員
日本肥満学会 評議員

減量・代謝改善手術は、肥満の方が健康的に長生きするための有力な手段です。当院でこの手術に専門的に取り組んでおり、他の病院(大学附属病院4、国立病院2)での本手術の立ち上げもお手伝いしてきました。肥満で悩んでおられる沢山の患者さん達から様々なことを直接学ばせていただいています。お気持ちに寄り添いながら、手術をお考えの皆様のお役に立てるよう努めます。お知りになりたいことはなんでも気軽に聞いてください。

精神科 寺澤 佑哉

【資格等】
日本精神神経学会精神科専門医・指導医

管理栄養士

減量・肥満改善手術では、術前・術後とも食事療法が非常に重要です。管理栄養士は食事の面で患者さんお一人お一人に添ったサポートが出来るように努めています。

公認心理士

減量・肥満改善手術では患者さんを支える体制が大切です。公認心理師は、患者さんの心理社会的な状況についてうかがい、チームでのサポートに繋げていきます。

はじめて受診される方

手術を受けたい、もしくは手術に関心があり話を聞いてみたいという方は以下の要領でご予約ください。

  • webフォームからの問い合わせ

    手術を受けたい、もしくは手術に関心があり話を聞いてみたいという方は、こちらのお問い合わせフォーム(外部リンク)よりお申し込みください。担当者より折り返しお電話をさせていただきます。

  • 電話での問い合わせ
    当院予約センター(注目情報042-323-9200)にお電話をいただき、外科外来で対応させていただきます。減量外科(肥満手術)の診療予約の旨をお伝えください。いくつか質問をさせていただき、担当者より折り返しお電話をさせていただきます。

お問い合わせ

受診予約以外のお問い合わせは当院外科外来にてお受けしております。担当者より折り返しお電話をさせていただきます。