遺伝性腫瘍センターの概要
遺伝性腫瘍は、遺伝要因ががんの発生に大きく影響していることが明らかな腫瘍のことで、原因遺伝子が明らかな疾患の総称です。主な遺伝性腫瘍には、遺伝性乳がん卵巣がんやリンチ症候群などがあります。遺伝性腫瘍の患者さんでは、比較的若い世代から様々ながんを複数回発症することがあるため、生涯に渡る支援が必要となります。
遺伝性腫瘍の診断は、がん早期発見や予防に活かせる可能性のある一方で、自身や血縁者の健康や将来に対する不安が生じる場合もあります。そのフォローを専門的に行う医療が遺伝カウンセリングです。遺伝性腫瘍外来では遺伝に関連した専門的な情報提供や心理支援を行うため、遺伝の専門医や遺伝カウンセラーが担当します。
目次
1. 各疾患の説明
1-1. 遺伝性乳がん卵巣がん
1-2. Lynch(リンチ)症候群
1-3. 家族性大腸腺腫症
1-4. Peutz-Jeghers(ポイツ・ジェガース)症候群
1-5. 若年性ポリポーシス症候群
1-6. PTEN過誤腫症候群/Cowden症候群
1-7. Li-Fraumeni(リー・フラウメニ)症候群
1-8. 多発性内分泌腫瘍症1型
1-9. 多発性内分泌腫瘍症2型(家族性甲状腺髄様がんを含む)
2. 診療体制
3. 遺伝学的検査及びリスク低減・予防的治療の一覧
1. 各疾患の説明
1-1.遺伝性乳がん卵巣がん
- ■特徴:目立った身体的特徴はありません。
■原因遺伝子:BRCA1とBRCA2
■遺伝形式:性別に関係なく50%の確率で親から子へと遺伝します。
■発症しやすい腫瘍
・乳がん(男性乳がんを含みます)
・卵巣がん
・膵がん
・前立腺がん
■遺伝学的検査(BRACAnalysis診断システム)【表3】
・条件を満たした乳がん患者さん
・卵巣がん、卵管がん、腹膜がんの患者さん
・治療法選択を目的とした膵がん患者さん
・治療法選択を目的とした前立腺がん患者さん
■リスク低減手術
・対象患者さん
・リスク低減卵管・卵巣摘出術(乳がん発症者は保険適用)
・リスク低減乳房切除術(乳がん、卵巣・卵管・腹膜がん発症者は保険適用)
・自費診療によるリスク低減手術 1-2. Lynch(リンチ)症候群
- ■特徴:目立った身体的特徴はありません。
■原因遺伝子:MLH1、MSH2、MSH6、PMS2、EPCAM
■遺伝形式:性別に関係なく50%の確率で親から子へと遺伝します。
■発症しやすい腫瘍
・消化器腫瘍:大腸がん、小腸がん(十二指腸がんを含みます)、胃がん、膵がん、胆道がん
・婦人科腫瘍:子宮内膜がん(子宮体がん)、卵巣がん
・泌尿器科腫瘍:腎盂・尿管がん、膀胱がん、前立腺がん
・皮膚腫瘍:皮脂腺腫瘍
・脳腫瘍
■遺伝学的検査【表2】
・リンチ症候群診断を目的とした遺伝学的検査は保険適用外です。(2024年5月現在) 1-3. 家族性大腸腺腫症
■特徴:大腸や胃、十二指腸にポリープが多発します。
■原因遺伝子:APC
■遺伝形式:性別に関係なく50%の確率で親から子へと遺伝します。
■発症しやすい腫瘍
・消化器腫瘍:大腸がん、十二指腸がん、胃がん、膵がん、胆道がん
・デスモイド腫瘍(転移を起こすことはありませんが、大きくなると腸閉塞などの原因となります)
・甲状腺がん
■遺伝学的検査【表2】
・家族性大腸腺腫症診断を目的とした遺伝学的検査は保険適用外です。(2024年5月現在)1-4. Peutz-Jeghers(ポイツ・ジェガース)症候群
■特徴:小腸や大腸にポリープが多発します。口唇に色素斑がみられることがあります。
■原因遺伝子:STK11
■遺伝形式:性別に関係なく50%の確率で親から子へと遺伝します。
■注意する症状
・腸閉塞:ポリープが原因で腸閉塞を起こすことがあります
■発症しやすい腫瘍
・大腸がん
・乳がん
・膵がん
・子宮がん
・卵巣がん
■遺伝学的検査【表2】
・ポイツ・ジェガース症候群診断を目的とした遺伝学的検査は保険適用外です。(2024年5月現在)1-5. 若年性ポリポーシス症候群
■特徴:胃や大腸にポリープが多発します。
■原因遺伝子:SMAD4、BMPR1A
■遺伝形式:性別に関係なく50%の確率で親から子へと遺伝します。
■注意する症状
・腸閉塞:ポリープが原因で腸閉塞を起こすことがあります。
・蛋白漏出性胃腸症
・鼻出血:遺伝性出血性毛細血管拡張症を合併することがあります。
■発症しやすい腫瘍
・大腸がん
・胃がん
■遺伝学的検査【表2】
・若年性ポリポーシス症候群診断を目的とした遺伝学的検査は保険適用外です。(2024年5月現在)1-6. PTEN過誤腫症候群/Cowden症候群
■特徴:巨頭症(女性58cm、男性60cm以上)、多発する皮疹や歯肉異常がみられることがあります。
■原因遺伝子:PTEN
■遺伝形式:性別に関係なく50%の確率で親から子へと遺伝します。
■注意する症状
・腸閉塞:ポリープが原因で腸閉塞を起こすことがあります
■発症しやすい腫瘍
・乳がん
・子宮内膜がん(子宮体がん)
・甲状腺がん(濾胞がん)
・大腸がん
・腎がん
■遺伝学的検査【表2】
・PTEN過誤腫症候群/Cowden症候群診断を目的とした遺伝学的検査は保険適用外です。(2024年5月現在)1-7. Li-Fraumeni(リー・フラウメニ)症候群
■特徴:目立った身体的特徴はありません。
■原因遺伝子:TP53
■遺伝形式:性別に関係なく50%の確率で親から子へと遺伝します。
■注意する症状
・腸閉塞:ポリープが原因で腸閉塞を起こすことがあります
■発症しやすい腫瘍
・乳がん
・骨肉腫
・軟部肉腫
・脳腫瘍
・副腎皮質がん
■遺伝学的検査【表2】
・リー・フラウメニ症候群診断を目的とした遺伝学的検査は保険適用外です。(2024年5月現在)1-8.多発性内分泌腫瘍症1型
■特徴:目立った身体的特徴はありません。
■原因遺伝子:MEN1
■遺伝形式:性別に関係なく50%の確率で親から子へと遺伝します。
■注意する症状
・腸消化性潰瘍
・尿路結石
・骨粗鬆症
■発症しやすい腫瘍
・原発性副甲状腺機能亢進症
・膵消化管内分泌腫瘍
・下垂体腫瘍
・胸腺神経内分泌腫瘍
■遺伝学的検査【表2】
・多発性内分泌腫瘍症1型診断を目的とした遺伝学的検査は保険診療下で実施可能です。1-9.多発性内分泌腫瘍症2型(家族性甲状腺髄様がんを含む)
■特徴:脊椎の変形、長い手足、舌の粘膜神経腫などがみられることがあります。
■原因遺伝子:RET
■遺伝形式:性別に関係なく50%の確率で親から子へと遺伝します。
■注意する症状
・首のしこり
・嗄声(声がれ)
・高血圧、頭痛、動悸
・骨粗鬆症
・尿路結石
■発症しやすい腫瘍(RET遺伝子の異常部位によって発症しやすい腫瘍が異なります)
・甲状腺髄様がん
・褐色細胞腫
・原発性副甲状腺機能亢進症
■遺伝学的検査【表2】
・多発性内分泌腫瘍症2型診断を目的とした遺伝学的検査は保険診療下で実施可能です。2. 診療体制
【センター長】山口達郎 (遺伝子診療科 部長)
【副センター長 】中津川智子(外科(乳腺)・遺伝子診療科 医員)
喜納奈緒 (婦人科 部長)
谷川道洋 (婦人科 医長)
古賀文隆 (腎泌尿器科 部長)
仲程 純 (消化器内科 医長)
高雄暁成 (消化器内科 医員)
高雄美里 (外科(大腸) 医員)
井ノ口卓彦(遺伝子診療科 遺伝カウンセラー)
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | |
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午前 | 山口(遺伝) 高雄(消内) 谷川(婦人) | 山口(遺伝) 第1・3・5週 | 中津川(乳腺) 高雄(大腸) | 山口(遺伝) 喜納(婦人) | 山口(遺伝) 古賀(腎泌) 仲程(消内) |
午後 | 山口(遺伝) 高雄(消内) 谷川(婦人) | 山口(遺伝) 第1・3・5週 | 中津川(乳腺) 高雄(大腸) | 山口(遺伝) 喜納(婦人) | 山口(遺伝) 古賀(腎泌) 仲程(消内) |
遺伝学的検査一覧(表1)
リスク低減・予防的治療一覧(表4)