MSってどんな病気ですか?
多発性硬化症(Multiple Sclerosis, MS)は、中枢神経に炎症性の病変が生じる、原因不明の自己免疫性疾患です。多発性というのは、空間的多発(中枢神経のあらゆる場所に)、時間的多発(時間をおいて断続的に)というふたつの意味があります。
1800年代にはじめて報告された病気ですが、欧米を中心にたくさんの患者さんを悩ませてきました。日本においても患者さんはどんどん増加しており、2万人以上の患者さんがいると推定されます。
どんな症状ですか? これからどうなりますか?
症状は非常に多彩ですが、初期には片方の視力低下や視野異常、手足の感覚異常や筋力低下が生じることが多く、進行すると歩行障害や認知機能障害を呈するようになります。
病初期には、症状が出現するものの治療ですっかりよくなることも多く、自然によくなることさえあり、再発寛解型(Relapsing and Remitting, RR)MSといわれます。発症10年程度以降から病状がゆるやかに悪化するようにみえることがあり、2次進行型 (Secondary Progressive, SP)MSといわれます(ただし、最近の研究によると、両者は必ずしも明確に分離できるものではなさそうです)。病初期からゆるやかに進行するような1次進行型(Primary Progressive、PP)MSというタイプの方もいます。無治療で経過をみた場合、45歳で歩行困難、55歳で杖歩行、63歳で車いすとなり、寿命が訳10年減少するとされています。
近年の研究によると、早期であっても脳萎縮が生じはじめているそうです。駒込病院では脳萎縮を評価する研究を複数おこなっており、研究に参加して頂くとご自分の脳萎縮の状態を知ることができます。
どんな検査が必要ですか?
診断には、専門の医師による診察と頭部や脊髄のMRI撮影、髄液検査、視覚誘発電位、眼科的診察などが必要ですが、近年は精度の高い診断基準(マクドナルド診断基準)が登場し、早期診断が可能になっています。
どんな治療がありますか?
急性期(再発時)と寛解期における進行予防の治療に分けられます。急性期にはできるだけ早くステロイドパルス療法を行うのが効果的です。効果が弱い場合、2クールくらいまでは繰り返し行うことが多いです。それでも無効な場合、血液浄化療法が有効な場合があります。
進行予防の治療は、疾患修飾療法と呼ばれます。現時点(2023年6月)で、本邦では8種類の疾患修飾薬(表)が承認されています。それぞれ特徴を有しており、患者さん個人個人の背景や疾患活動性に応じて使い分ける必要がありますが、近年の研究によると、より早期からいわゆる“強め”の治療を行ったほうが経過がよいとされています。