悪性リンパ腫に対する「ゼヴァリン」を使った放射線治療を知っていますか?

2018年1月28日 放射線診療科

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投稿者:放射線診療科 診療科のページ

放射線(ここでは電離放射線)について皆さんはどんなイメージをお持ちですか?「被ばく、怖い、副作用」などマイナスの面を強く感じている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、放射線は適正に管理し使用する事で私たち人類に大きな恩恵をもたらす事もあります。さて、医療の現場で使用される放射線にはどんなものがあるでしょうか。まず、レントゲン写真やCT検査などの画像診断分野で使用されるX線があります。また、放射線治療分野では体外から照射されるX線や電子線、及び中性子線や陽子線等があります。それから核医学検査や放射線治療(線源を体内に置いてを行なう)の放射線種としてガンマ線、ベータ線、アルファ線等があります。
今回はその中で、ベータ線を使った放射線治療、特に近年増加傾向にある、ゼヴァリンという薬品を使った治療をご紹介します。

目次

ゼヴァリン治療薬を使える病気は?

ゼヴァリンは悪性リンパ腫の治療にのみ使用できる薬です。悪性リンパ腫といっても発生した細胞や組織などにより実はさまざまなタイプがあり、この薬はその中の限られた種類のみに適応となっております。
具体的には、低悪性度B細胞性リンパ腫(ろ胞性リンパ腫・MALTリンパ腫・小細胞リンパ腫)もしくはマントルリンパ腫と呼ばれる悪性リンパ腫(*CD20陽性リンパ腫)の初回の薬物治療が効かなかった患者さん及び再発の患者さんに使用できるとなっています。

  • CD20:B細胞内にある抗原

ゼヴァリン治療薬はどう効くの?

腫瘍細胞と、投与した薬剤(ゼヴァリンイットリウム)が結合し、放射線(β線)を放出することで腫瘍細胞を攻撃します。

腫瘍細胞を攻撃する様子

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分子標的治療+放射線療法⇒ゼヴァリン治療

  • ゼヴァリンイットリウム:抗CD20抗体であるイブリツモマブと放射性同位元素であるイットリウムを結合させた薬剤

ゼヴァリン治療のスケジュール

当院では入院していただき、7~9日をかけて治療を行ないます。

簡単に説明すると、この治療が患者さんに対して実施できるか判断するためにゼヴァリンインジウムを注射して、2日後に全身のシンチグラムという写真を撮影します。所定の基準に沿った写真の判定を放射線科医が行ない、この治療を実施できるか を判断します。ここでこの治療を実施するのに必要な条件を満たさなかった場合、ゼヴァリンを使用したその後の治療計画は中止となります。

治療を実施できることが確定したら、治療薬の効果を確実に発揮させるための薬を前もって注射したりして体に準備をさせ、実際のゼヴァリンイットリウム治療が開始となります。

ゼヴァリン治療をするには、主にリツキマシブ、ゼヴァリンインジウム、ゼヴァリンイットリウムという3種類の薬剤を使用します。またその他にも、抗ヒスタミン剤や解熱鎮痛剤を使用します。

ゼヴァリン治療のためのチームワーク

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ゼヴァリン治療は、薬の発注(海外から入荷)から患者さんの治療開始までに主治医をはじめ多くの職種の医療従事者が関わっています。
当院では、主治医以外に放射線治療医、薬剤師、放射線技師、看護師(放射線治療担当)、事務職員、病棟スタッフ等の職員が関わっています。お互いに情報を共有し連絡を取りあいながら、より的確で確実な治療を患者さんに提供するよう心がけています。

ゼヴァリン治療開始までの時間的経過

患者さん医療従事者
第1日(0h)ゼヴァリンインジウムの注射
(注1)
ゼヴァリンインジウムの調剤・投与
第2日(24h)当院病棟での入院生活
第3日(48h)ゼヴァリンインジウム
シンチグラム撮影(注2)
治療適応の判定
第4~7日

(72h~144h)

当院病棟での入院生活
第8日(168h)ゼヴァリンイットリウムの注射
(注3)
ゼヴァリンイットリウムの調剤・投与
  • 通常、入院日はゼヴァリンインジウム注射日の前日、退院日はゼヴァリンイットリウム注射日の翌日です。

(注1・3:注射時の手順は以下の通り)

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(注2の効果判定用シンチグラム撮影について)

  • 撮影時間:約20分
  • 撮影範囲:頭頂部~足先
  • 投与48時間後に撮影
正常描出
  1. 骨髄への集積がない
  2. 肝臓・脾臓への集積がない
  3. 血管プールが描出されている

(※血管プール:シンチグラム画像での血管像)

異常描出
  1. 骨髄へのびまん性、高度の集積
  2. 肝臓・脾臓への異常集積
  3. その他放射線科医の読影により不適切と判断された場合

ゼヴァリン治療後の注意点

薬剤使用後は、体内から放射線を放出するため、数日間(最低3日間)は以下の項目に注意してください。※詳しくはパンフレット等でご案内します。

  1. 人との長時間(30分以上)・近距離(10cm未満)での接触はなるべく避ける。
  2. 使用後のトイレの洗浄は出来れば2回行なう。
  3. できれば、毎日シャワーを浴びる。
  4. 男性が排尿する場合は、座って排尿する。
  5. 体外への排出を促すためにも、水分を積極的に摂取する。

ゼヴァリンに関するQ&A

1)治療薬を投与することで副作用ってあるの?

A:個人差もあり、すべての患者様さんにあらわれるわけではありませんが、副作用の可能性はあります。

治療により骨髄が抑制されるため、白血球や血小板などが減少し、貧血やけがをした場合に血が止まりにくくなったりします。その他に、倦怠感や発熱、食欲不振・便秘・口内炎・悪心・下痢等普段と違う症状があらわれることがあります。

2)ゼヴァリン治療は何度もできるの?
A:ゼヴァリン治療は1度のみです。
3)ゼヴァリン治療が行えないことはあるの?

A:妊娠している方やその可能性がある方、リツキシマブ治療や薬物アレルギーのある方、ウィルス感染している方はゼヴァリン治療をうけることができません。

4)ゼヴァリン治療って被ばくするの?
A:被ばくします。ただ、ゼヴァリンイットリウムで使用しているβ線は、病変部以外にはあまり飛びません(飛程が短い)。またゼヴァリンインジウムも放射線を放出しますが、退院する頃には、体内からほとんどなくなっています。
5)ゼヴァリン治療は高いの?
A:保険適応されています。治療費は高額療養費制度の対象であり、一定の自己負担額を超える事はありません。

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