2018年1月5日 感染症科
投稿者:感染症科 今村顕史 (感染症科のページ)
目次
梅毒が増えています
今、日本では梅毒が流行しています(図1)。若い男性だけでなく、20歳代を中心とした女性の中でも急増しています(図2)。梅毒は、過去の病気ではありません。それどころか、若い世代に流行している、身近な性感染症となっているのです。
初期の症状に気づかないことも多い
「症状がなければ、きっと梅毒には感染していないにちがいない」・・・そう思いこんではいませんか? しかし、その考え方は間違っています。なぜなら、梅毒の経過においては、全く自覚症状のないことが想像以上に多いからです。
梅毒に感染すると、1~3ヶ月くらいたってから、感染した部位に小さな「しこり」(初期硬結といいます)や潰瘍ができたりします。これらの症状は痛みや痒みをともなわないことが多く、治療しなくても自然に良くなってしまうため、見逃されてしまう可能性があります。
また、梅毒が感染するのは、性器だけではありません。オーラルセックス(口腔性交)で、咽頭部(ノドの部分)に感染したり、アナルセックス(肛門性交)で直腸に感染することもあります。このような性器以外に感染した場合にも、本人が感染に気づかないことが多くあります。そして、本人も自覚がないまま、梅毒は他の人へと広がっていくのです。
発疹を見逃さないことが大切
初期の局所症状が消えて、しばらく経過してから(4〜10週間が多い)、全身に発疹がでることがあります。この発疹は手のひらや足の裏にもでやすいことが特徴です(図3)。
この発疹も、治療しなくても通常は数週間〜数ヶ月で自然に軽快してしまいます。そして、症状のない時期(無症候期)となりますが、それでも病気は静かに進行していきます。
梅毒は静かに悪化していく
梅毒を治療しないまま放置すると、数年〜数十年という長い期間の中で悪化して、いろいろな重い症状をもたらす可能性があります。脳障害による認知症のような症状、脊髄病変による手足の麻痺、心臓や血管の病気、眼の梅毒による失明など、非常に重篤な状態となることがあるのです。
また、妊婦が梅毒に感染すると、流産や死産の原因となったり、先天梅毒の赤ちゃんが生まれてしまうことがあります。現在、女性の中では20歳代の感染者が多くなっています。若い女性の感染者が増加したことによって、すでに先天梅毒も報告数も増えてきています。
検査や治療はどこで受けられるか?
梅毒には有効な抗菌薬があり、早期に診断すれば外来通院で治療することができます。しかし、病気が進行してしまうと、入院して点滴の抗菌薬で治療することが必要となります。そして、治療が遅れてしまうと、後遺症を残してしまう危険性もあります。梅毒は、早期に診断して、早期に治療することが大切なのです。
梅毒の検査は一般病院や診療所でも受けられます。また、梅毒の検査を無料・匿名で行っている保健所もあります。治療については、性感染症を扱っている診療所、感染症診療を行っている病院が、経験も多いため安心して治療を受けられます。
STOP梅毒プロジェクト
駒込病院感染症科では、「STOP梅毒プロジェクト」を立ち上げ、東京都の感染症対策担当、保健所、医師会などとも連携して、梅毒流行をおさえるための啓発活動を行っています。また、梅毒の治療経験が多い専門病院として、プライバシーにも十分に配慮しながら、より安心して治療を受けられるようにするなど、診療体制も強化しています。梅毒で困った時には、ぜひ当院へご相談ください。
★以下は、東京都と協力して作成した梅毒の特集ページです。
いろいろな情報がまとめられています。
『梅毒について』東京都福祉保健局
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/kansen/syphilis.html(外部リンク)
★新宿区保健所のスタッフと協力して、女性向けの冊子もつくりました。以下のアドレスからPDFバージョンで入手することができます。
『 もしかして わたしも・・・梅毒 !? 』
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/syphilis.files/mosikasite-f.pdf(外部リンク)
執筆者紹介
今村 顕史(いまむら あきふみ)
がん・感染症センター都立駒込病院 感染症科 部長
専門分野:感染症学一般、HIV感染症
資格:日本エイズ学会理事、日本エイズ学会認定医・指導医、感染症学会評議委員、感染症学会専門医・指導医、日本寄生虫学会評議委員、日本内科学会認定医、ICD(Infection Control Doctor)
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