なぜインフルエンザにかかってしまうのか?~原因から考える予防法~

2018年1月17日 感染症科

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投稿者:感染症科 今村顕史 (感染症科のページ

インフルエンザが流行のピークへ向けて急増しています。すでに感染してしまったという人も、決して安心してはいけません。インフルエンザにはA型とB型があり、最悪の場合には同じ時期に「2回」もかかってしまうことがあるからです。

インフルの流行期には、ニュース、コマーシャル、インターネットなどで、いろいろな予防法も紹介されます。しかし残念ながら、このような情報の中には、効果の低い対策も含まれているというのが現状です。

そもそもインフルエンザは、どのようにして人から人へと感染していくのでしょうか。ここでは、その原因をしっかりと理解することで、より正しい予防法を考えてみることにしましょう。

同じ電車にいるだけで感染するのか?

同じ空間にいるだけで感染してしまうのは「空気感染」。くしゃみや咳によって口から飛び出たウイルスなどの病原体が、すごく小さな粒となり、空中にフワフワと長く浮遊します。そのため、同じ空間の中に長くいるほど、感染の危険性が高まります。

しかし、日常的な感染症で「空気感染」するのは、結核、麻疹(はしか)、水痘(みずぼうそう)の3つだけ。インフルエンザは「空気感染」の感染症ではないのです。したがって、同じ電車の車両にいるだけで、インフルに感染するというわけではありません。

インフル感染では距離がポイント

インフルエンザは「飛沫(ひまつ)感染」でうつります。「飛沫感染」では、くしゃみや咳で飛んでいくのは、「空気感染」と比べて大きくて、水分を含んだ重い粒。口から飛び出しても、通常は1~2m以内で地上に落ちてしまいます。

このようなタイプの感染では、「距離」が大切なポイントとなります。くしゃみや咳をする人がいたら、少し離れるだけでも感染の機会を減らせるからです。

インフルエンザのような「飛沫感染」のウイルスは、いつまでも空中をただよってはいません。こう考えれば、空間を除菌しようという発想も、なんとなくピントがズレているように感じてくるはずです。

予想以上に多い、手を介しての感染

インフルを発症している人が、自分の口や鼻に触れると、その手にウイルスがつきます。そして、ウイルスのついた手で、ドアノブ・手すりなどの様々な場所に触れると、環境が汚染されてしまいます。さらに、その場所に触れた別の人が、手で口や鼻に触れるということによって、感染は人から人へ広がっていきます。

「感染した人の口や鼻→手→環境→他の人の手→口や鼻」・・・このような手を介しての感染は、予想以上に多く起こっています。だから「手洗い」は大切な予防策のひとつ。それどころか、インフル予防のための「一丁目一番地」ともいえるのです。

マスクの効果を再確認

マスクは、感染を防ぐために、ある程度の効果はあります。しかし、小さなウイルスを完全にブロックするわけではありません。実際には、予防のために着けるマスクより、感染した人が着けるマスクの方が効果的。咳をする人がつけていれば、飛ぶ瞬間の粒は水分を含んで大きいため、マスクでブロックされやすいからです。このような予防は、感染している本人が気をつけることから「咳エチケット」と呼ばれています。

また、マスクには以外と知られていない「隠れた効果」があります。マスクをつけている人は、手で口や鼻を触れる機会が少なくなります。したがって、マスクによって、手を介した感染が起こりにくくなることも期待できるのです。

しかし、マスクを着用している時でも、その手は環境によって汚染されています。マスクをはずしてから、すぐに鼻や口に触れてしまえば、せっかくの隠れた効果も無駄になってしまいます。「マスクを取る時の手洗い」を忘れないようにしましょう。

うがいや加湿の効果

残念ながら、「うがい」の効果は限定的です。かつては、子供の頃から「うがい」をすすめていましたが、今では積極的に推奨されていません。鼻や口の粘膜についたウイルスは、ごく短時間で感染してしまいます。日常的にできる「うがい」の回数は限られるため、どうしても効果は限定されてしまうのです。頻回に水やお茶を飲むということをすすめる人もいますが、飲むだけではウイルスの付着する部分を全てカバーすることは難しく、やはり回数にも限界があります。

「加湿」には、2つの意味があります。ひとつは、乾燥した環境の方がウイルスの感染性が高まるので、それを避ける目的です。もうひとつは、鼻・口腔内・気道の粘膜の乾燥を防ぐ目的です。これらの場所の粘膜が乾燥すると、局所的な免疫が低下する可能性があるからです。これらのことから、「加湿」の予防効果は期待できますが、それを明確に示した研究や調査がないというのが現状です。

ワクチンを過信しない

日本全体では、毎年多くの人がインフルエンザに関連した原因で亡くなっています。そのような重症化を防ぐために、ワクチン接種は積極的にすすめています。しかし、このワクチンを打っても、インフルにかかることはあります。「打ったから、かからない」と、その効果を過信しすぎないことも大切です。

手洗いのタイミング

手洗いの有効性は明らかですが、水道があるところも限られる日常生活の中で、それほど頻回に繰り返すことはできません。したがって、優先すべき手洗いのタイミングも考えることも大切です。人の多く集まる場所、環境に頻回に触れる場合、マスクを取る時などが、手洗いの効果が高いタイミングです。

また、医療現場や食品衛生で行われているように、冷たい水で30秒以上かけて手の隅々まで洗うことを、日常生活で繰り返すことも大変です。最低でも、口や手に触れる指先、手のひらを中心に洗ってください。また、水道がないところでは、市販されているアルコール製の手指衛生剤も有効です。

執筆者紹介

今村 顕史(いまむら あきふみ)

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がん・感染症センター都立駒込病院 感染症科 部長
専門分野:感染症学一般、HIV感染症
資格:日本エイズ学会理事、日本エイズ学会認定医・指導医、感染症学会評議委員、感染症学会専門医・指導医、日本寄生虫学会評議委員、日本内科学会認定医、ICD(Infection Control Doctor)
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