外科(食道) - 専門分野

当科の概要

食道がんの治療を専門としています。診断、治療、医療相談、セカンドオピニオンに対応しています。手術療法では、傷が小さく痛みの少ない低侵襲手術(ロボット支援下手術、胸腔鏡下手術、腹腔鏡下手術、縦隔鏡手術)を積極的に実施しています。また、消化器内科、腫瘍内科、放射線科と協力し、精密な検査を行い、治療方針を決定します。その内容は、患者さんに十分納得いくまで説明した上で適切な治療を選択していきます。いつでもご相談ください。

胸部食道癌 頸部食道癌 食道胃接合部癌 食道粘膜下腫瘍 頸部食道憩室 食道裂孔ヘルニア(Upside-down stomach)

1.食道がん

概要

食道はのどの下から約25cm続き管状の形をした臓器です。食道は口から食べた食物を胃に送る働きをしていて、消化機能はありません。わが国では、年間約26,000人の方が食道がんにかかります。男性より女性に多く、70歳代の男性が最も多く診断されます。タバコを吸う人、お酒を飲む人に多く、特にお酒を飲んで顔が赤くなる人は注意が必要です。食道がんは悪性度が高いといわれていますが早期発見すれば、治療成績は良好です。食道がんの症状には、無症状のものから、胸の違和感、食物のつかえ感、体重減少、胸や背中の痛み、声のかすれなどがあります。

食道がんの治療は、進行の程度(病期:ステージ)(表1)や体の状態などから検討します。ステージは壁深達度(T)、リンパ節転移の程度(N)、遠隔臓器および遠隔リンパ節転移(M)により決定します。

壁深達度(T)

T0:原発巣として癌腫を認めない
T1:原発巣が粘膜内にとどまる病変
 T1a:原発巣が粘膜内にとどまる病変
 T1b:原発巣が粘膜下層にとどまる病変
T2:原発巣が固有筋層にとどまる病変
T3:原発巣が食道外膜に浸潤している病変
 T3r:画像上、他臓器浸潤が否定的で切除可能と判断しうる病変
 T3br:画像上、他臓器浸潤が否定できず、切除可能境界と判断される病変
T4:原発巣が食道周囲臓器に浸潤している病変

リンパ節転移の程度(N)

N0:領域リンパ節転移なし
N1:1~2個の領域リンパ節に転移あり
N2:3~6個の領域リンパ節に転移あり
N3:7個以上の領域リンパ節に転移あり

遠隔臓器および遠隔リンパ節転移(M)

M0 :遠隔臓器転移を認めない
M1a:郭清効果の期待できる領域外リンパ節に転移を認める
M1b:M1a以外の領域外リンパ節もしくは遠隔臓器転移を認める

画像1

治療

主に内視鏡治療、手術、放射線治療、薬物療法があります。転移の可能性が低いステージ0の食道がんには主に内視鏡治療が行われます。ステージIの食道がんには手術が、ステージIIおよびIIIの食道がんには術前薬物療法後の手術が推奨されています。ステージIVの食道がんでは放射線治療、薬物療法など複数の治療法を組み合わせる集学的治療が行われます。近年では、後述するように薬物療法の選択肢が増え、より強力な治療が可能となってきたため、当初は切除不能と判断されたステージIVの食道がんでも腫瘍の縮小により根治手術が可能となる症例が増えてきています(コンバージョン手術)。
いずれのステージにしてもその状況に応じて、消化器内科、腫瘍内科、放射線科と協議の上、治療は決定されます。そのうえで、患者さん一人一人の状態に適した治療を提供しています。

手術

食道がんの手術は頸部・胸部・腹部の3カ所の操作を必要とする術式が標準であり、腹部のみの操作で完結することが一般的な消化器がんの手術のなかで最も侵襲(体にかかるダメージ)が大きい手術の一つとされています。近年では食道がん手術の低侵襲化を目的として胸腔鏡、腹腔鏡、縦隔鏡を使用した鏡視下手術が増えてきており、当科でもほとんどの食道がん手術を鏡視下に行っております。さらに、2022年からはさらにより精緻な操作が可能で、合併症の低下が期待されるロボット支援手術を導入して、治療を行っております。
一方で、のどに近い頸部食道にできたがんに対しては、喉頭を切除しなければならないこともあり、その場合は声を失うことで術後のQOLが大きく低下します。当科では、のどに近い頸部食道がんに対しても、可能な限り喉頭を温存する手術に取り組んでおります。

症例数

当院の食道がんに対する食道切除症例数は50-60件前後で推移しております(図1)。2021年、2022年は新型コロナウィルス感染症の影響で減少傾向にありましたが、2023年は再度増加傾向となりました。
また図2に示す通り、開胸手術にかわって鏡視下手術、その中でもロボット手術の割合が年々増加しており、手術の低侵襲化にも取り組んでいます。

食道がん切除症例数
手術の低侵襲化

当科での食道癌術後の経過

食道癌の手術は手術日の2日前に入院、術後は14日で退院できるようにクリニカルパスをいう手術前後を含めて入院中の予定表に基づいて行っていきます。これにより患者と医療スタッフが治療やその目的を共有でき、安全かつ質の高い医療の提供を可能にします。
退院後は食事摂取の状況や、栄養状態の回復(体重の変化)、再発の有無を外来通院で調べていきます。2年目までは、1-3ヶ月に1回程度の通院、3年目以降は3-6ヶ月に1回の通院となります。

チーム医療

食道がんの手術は侵襲の大きな手術であり、手術の安全性向上、合併症予防・軽減と早期回復、その後の社会復帰には、様々な職種が協力し合うチーム医療が不可欠です。当院では、経験豊富な他科医師、歯科医師、看護師、理学療法士、薬剤師、管理栄養士、精神科リエゾンチーム、緩和ケアチーム、ソーシャルワーカー等と密に連携しながら、食道がん手術を含めた食道がんの診療を日々行っております。また、日本の外科手術データベース(National Clinical Database:NCD)の検討によると、食道外科手術に精通した専門医が在籍し、各種条件を兼ね備えた食道外科専門医認定施設においては、非認定施設と比較して有意に手術関連死亡が低いことが報告されています。当院は複数名の食道外科専門医が在籍する食道外科専門医認定施設であり、より安全に食道がん手術を行う環境を整えております。

薬物療法

薬物療法は、さまざまなステージで行われ、その目的は状況によって変化します。当科では術前薬物療法、放射線治療併用薬物療法、再発・切除不能食道癌に対する薬物療法など、さまざまなステージにおける薬物療法を行っております。

  1. a) 術前薬物療法:

    手術成績の向上のため、手術前に薬物療法を施行します。癌の大きさを小さくし手術をやりやすくすること、CTなどの画像検査でとらえられないような微小な転移を制御すること、などを目的としています。従来行われていたFP(フルオロウラシル、シスプラチン)療法と比べDCF(ドセタキセル、シスプラチン、フルオロウラシル)療法が生存期間を延長した(3年全生存割合:FP療法62.6%、DCF療法72.1%)という、JCOG1109という大規模臨床試験の結果を受け、DCF療法による治療を第一選択としています。

    b) 放射線治療併用薬物療法:

    放射線治療と組み合わせた化学放射線療法を行います。放射線単独の治療より効果を上げること、根治治療を行うことを目的としています。放射線治療とFP療法の組み合わせを行っていますが、外来通院治療が可能なFOLFOX療法と組み合わせた治療も行っています。

    c) 再発・切除不能食道癌に対する薬物療法:

    2020年代まではFP療法やDCF 療法が主体でしたが、Checkmate 648試験やKEYNOTE-590試験といった大規模な世界的臨床試験の結果を受け、キイトルーダ、オプジーボ、ヤーボイといった免疫チェックポイント阻害薬を用いた免疫療法が適応となり,薬物療法の選択肢が増えました。治療効果によっては切除可能な状態へ病状が改善し、手術などの根治治療へ移行できる患者さんも増えています。

    d) その他:

    そのほか、分子標的薬などの新薬の臨床試験も行っております。不明な点などございましたら、ご相談いただければと思っております。

    放射線治療

  2. 食道癌が早期であるが内視鏡治療ができない場合、逆に、食道癌がかなり進行して切除することできない場合や遠隔転移を認める場合などが放射線治療の適応となります。また、年齢やもともとの既往症・併存疾患などにより手術が難しい場合、術後の再発などにも放射線治療は選択されます。

  3. ステント治療

  4. 根本的な解決法のない癌性食道狭窄に対しては、食事摂取を目的とした治療の中で、侵襲度の比較的低い治療としてステント治療を行います。ステントはナイチノールというニッケルとチタンの合金でできており、約20㎜の径に広がることで食道の内腔を確保し、一定量の食事摂取を可能とします。ステント治療を行う場合は約1週間の入院が必要となります。ただし、食道狭窄の状況によってはステント治療ができない場合があります。

  5. 2.そのほかの食道疾患

    食道裂孔ヘルニア(Upside-down stomach)

    肥満や過食が発生に関係しています。胃液が食道に逆流するため胸焼けがおもな症状です。夜間就寝時に胃液がのどまで逆流してくると咳やのどの痛み、ひどい場合は肺炎を繰り返します。喘息と似た症状のことがしばしばあります。内科的な治療を優先しますが、いわゆるUpside-down stomachとなると手術が必要な場合があります。

  6. 食道粘膜下腫瘍

    食道粘膜下腫瘍は平滑筋腫などといった良性腫瘍のほかにGISTなどの悪性腫瘍もあります。いずれも小さい場合や経過観察、内視鏡治療といった侵襲度の低い治療で対応できますが、増大傾向を認めたり、巨大であったりした場合は、悪性の可能性も高くなるため、手術が必要となることもあります。手術は鏡視下手術で行いますが、その腫瘍の状況によって、術式は変化します。