はじめに
神経小児科では、てんかん、神経・筋疾患、ミトコンドリア病などの先天性代謝疾患、多発性硬化症や急性脳症などの神経免疫疾患、遺伝性ジストニアなどの不随意運動症など、小児期に生じる様々な神経疾患の診療を幅広く行っています。特に神経・筋疾患のうち、代表的な疾患として、脊髄性筋萎縮症は有名です。乳児期に発症するⅠ型の患者は寝たきりとなり、生命維持のために濃厚な医療処置が必要となるため、乳児期から本人・家族が大きな負担を抱えておられました。近年、脊髄性筋萎縮症に対する治療が飛躍的に進歩し、当院でも治療を行いましたので、ご紹介します。
脊髄性筋萎縮症について
脊髄性筋萎縮症は、運動神経の生存に重要な働きをするSMN1遺伝子の異常により脊髄前角細胞の変性による筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする下位運動ニューロン疾患です。体幹や四肢の近位部優位の筋力低下、筋萎縮を示し、発症年齢、臨床経過により、I型(別名:ウェルドニッヒ・ホフマンWerdnig- Hoffmann病)、II型(別名:クーゲルベルグ・ウェランダーKugelberg- Welander病)、III型(別名:デュボビッツDubowitz病)、IV型に分類されます。Ⅰ型の患者は多くの場合、1か月検診では異常に気付かれず、運動神経の変性が進行し、定頸未獲得、筋緊張低下を機に診断されます。自然経過では2歳までに呼吸不全のために亡くなってしまうため、生存のためには気管切開や人工呼吸器管理が必要となります。
最新治療について
今までは根治的な治療はありませんでしたが、2017年にヌシネルセン(スピンラザ®)という疾患修飾薬(髄注治療)が国内で認可され、治療が大きく進展しました。これはSMN1遺伝子に類似したSMN2という遺伝子に作用して、患者さんで欠乏しているSMN蛋白の発現を増加させる治療です。当院でも認可直後より治療を開始しております。さらに2020年にはウイルスベクターを用いて患者さんで欠落しているSMN1遺伝子を細胞内に補充する治療薬であるオナセムノゲン アベパルボベク(ゾルゲンスマ®)が発売されました。画期的な治療ですが、投与に当たっては副作用に関する慎重な観察が必要です。また薬価が史上最高であること、ウイルスの拡散を防止する対応が必要なことなど、社会的な問題もあります。当院では認可直後より、医局、薬剤科、看護科、病院事務が連携を取って患者さんの病状把握、薬剤の納入、薬剤管理、感染対策を万全に行い、患者様への投与を迅速に行うことができました。今後の運動機能回復に期待したいと考えています。
このように治療薬が開発されている疾患はもはや不治の病ではなく、「治療可能な疾患」と変化してきています。そのため、早期診断・早期治療が患者の予後改善には非常に必要です(図)。私たちは積極的に検査を行い、未診断の患者の早期治療に努めていきたいと考えています。