がんと遺伝の関係~がんが遺伝する可能性と遺伝性腫瘍について~

2018年6月25日 遺伝子診療科

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投稿者:遺伝子診療科 井ノ口卓彦 (遺伝子診療科のページ

日本人の2人に1人が生涯、何かしらのがんを発症されると言われています。患者が多く国民病とも言われることもあるがんですが、ご家族や親戚など血縁者にがんを発症された方が多く「もしかしてうちはがん家系?」と、がんと遺伝の関係について気にされている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

ここでは 遺伝子と病気、遺伝性腫瘍についてお話しをしていきます。

目次

病気と遺伝子

家族はさまざまな因子を共有する共同体

家族は、血縁関係がある者同士なら遺伝的な要素を一部共有している可能性はありますが、それだけではなく、同じ環境で生活し成長することで、住環境、習慣、食生活、経済状況、価値観なども共有する場合が多いでしょう。なので、塩辛い食事の食習慣を好む家族であれば高血圧になりやすくなる、たばこを吸う家族がいれば肺がんになりやすくなるというように、遺伝的な要因を抜きにしても家族にある病気の患者がいる方は、そうでない方と比べて、その病気になる確率が高くなる傾向にあります。

遺伝子で決まるのはスタート地点

では、病気と遺伝子はどのように関連するのでしょうか?

まず遺伝子とは、私たちのからだを作り生命を維持するための設計図で、両親から半分ずつ引き継ぎます。両親から受け継いだこの設計図には「ある病気になりやすい」、「ある病気になりにくい」といった体質に関する情報が含まれているものも多くあります。下の図のように、階段を登り切ったときにある病気を発症するとした場合、遺伝的にある病気になりやすい方は、そうではない方と比べて階段を一段上がったような状態で、生まれつきのスタート地点が頂上に近いということになります。

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遺伝的な要因が大きくても、食生活に気をつけるなど環境要因を少なくすれば発症しない可能性もあります。

遺伝子疾患

病気に関連した遺伝的な要因は、同じ病気に関連したものであっても複数あることもあり、その機能や与える影響の大きさにはそれぞれ遺伝子によって差があります。一つの遺伝子の変化が、ある病気の発症に強く関連する疾患を遺伝子疾患と呼び、特にがんの発症に強く関連したものを遺伝性腫瘍と呼びます。

遺伝性腫瘍とは

遺伝性腫瘍の特徴

遺伝性腫瘍の体質は、高発がん性疾患と呼ばれることもあり一般の方と比べ明らかに特定のがんの発症する確率が高くなりますが、必ずしも特定のがんを発症するというわけではありません。また同じ遺伝子の変化を持つ家族であっても、同じ年齢で同じがんになるというわけではありません。

遺伝性腫瘍の体質を持つ方は、通常よりがんとなりやすい体質であるため、若くしてがんを発症されたり、がんの発症を繰り返したりする可能性が高くなるという特徴があります。またこの体質の親から子へ遺伝する可能性があります。

ご自身を含めた家系内に以下3つのような特徴を持つ方がいらっしゃる場合、遺伝性腫瘍の体質を持つ可能性が高くなります。

  • 若くしてがんになられた方がいる
  • 繰り返しがんになられた方がいる
  • 家系内に特定のがんが多く発生している

  • これらの特徴に当てはまる方が必ず遺伝性腫瘍の体質というわけではありません。

代表的な遺伝性腫瘍

遺伝性腫瘍は原因となる遺伝子によっていくつか種類があります。

遺伝性乳癌卵巣癌症候群

遺伝的な要因によって乳がん、卵巣がん、すい臓がん、前立腺がんなどになりやすい体質となる

リンチ症候群

遺伝な要因によって大腸・小腸がん、子宮内膜がん、胃がん、泌尿器系のがんなどになりやすい体質となる

家族性大腸腺腫症

遺伝的な要因によって大腸がん、十二指腸がんなどになりやすい体質

遺伝性腫瘍における遺伝子診療

遺伝性腫瘍は、まずご自身の既往歴や家族歴、がんの特徴から遺伝性腫瘍の可能性のある方を拾い上げ、その方に適切な遺伝子検査を行うことで診断をすることができます。

がん診療における遺伝子検査の種類

がん診療における遺伝子検査には主に2種類あります。

  1. 遺伝学的検査
  2. 体細胞遺伝子検査

遺伝性腫瘍の体質があるかどうかを調べる検査は①の遺伝学的検査です。この検査は生まれつきの遺伝子を調べる検査です。この検査は遺伝性腫瘍の診断以外にも、抗がん剤などの薬の代謝や副作用の強さに関連した個人の体質を調べる場合もあります。一方、②体細胞遺伝子検査は後天的に生じたがん細胞のみ変化を調べることで、そのがんのタイプや特徴を知るための検査です。大腸がんや肺がんで調べられることが多いでしょう。

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遺伝性腫瘍の体質があるかどうかを「知る」ということ

遺伝性腫瘍の体質があるかどうかを知るための遺伝学的検査は、医療機関でのみ調べることができます。遺伝学的検査は遺伝子による生まれつきの体質を調べる検査なので、「一生変わらない体質」、「将来かかるかもしれない病気の可能性」、「血縁者への遺伝の可能性」の情報がわかることがあります。これらの情報を知り遺伝性腫瘍の体質があるかどうかを知るということは、適切な健康管理や定期的な検査によってご自身やご家族のがん予防・早期発見、手術や抗がん剤などの治療の選択の手立てとなり得ます。しかし一方で、ご自身のがんのなりやすさや、ご家族への遺伝の可能性を知ることとなるため、心の負担になることもあるでしょう。

遺伝のことで困ったときの相談場所

医学の進歩により、がん治療においても個人の遺伝情報に基づいた精密な医療の提供が実現されつつあります。しかし、遺伝情報は私たちの健康管理や治療選択に活かせる一方で、上記にあるような特徴を有するため、知ることが心の負担になることもあり、遺伝医療をうける各場面で、それぞれ個々に合った自己決定が必要になってくるでしょう。このような選択を行うお手伝いをする医療として遺伝カウンセリングがあります。遺伝カウンセリングでは遺伝の問題に直面した患者さんに対して、患者さんが自分の力で意思決定を行えるように正確な情報提供と継続的な心理社会的な支援を行います。全国の遺伝カウンセリング実施施設については下記の遺伝子医療実施施設検索システムホームページをご参照ください。

全国遺伝子医療部門連絡会議「遺伝子医療実施施設検索システム」

http://www.idenshiiryoubumon.org/search/(外部リンク)

駒込病院遺伝専門外来

駒込病院遺伝子診療科でも遺伝カウンセリングを受けることができます。遺伝のことでお困りのことがありましたらお気軽にご相談ください。
注目情報遺伝子診療科HP

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また、がんの遺伝についてお気軽に相談をできる窓口として、認定遺伝カウンセラーによるがん遺伝相談があります。

注目情報がん遺伝相談について(PDF 298.3KB) (PDFファイル)

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    大腸外科・臨床遺伝専門医・家族性腫瘍専門医/暫定指導医:山口達郎
    乳腺外科・家族性腫瘍専門医:有賀智之
    認定遺伝カウンセラー:井ノ口卓彦

まとめ

  1. 病気やがんには遺伝要因が発症に強く関連したものと、そうでないものとがある
  2. がんの発症に遺伝子が強く関連する体質を遺伝性腫瘍という
  3. 遺伝性腫瘍の診断や治療などには適切な遺伝医療を受ける必要がある

参考文献

新川詔夫:遺伝医学への招待(改訂第5版).南江堂:第5版2刷,2016
山下浩美:糖尿病と遺伝
瓦谷秀治:家族性腫瘍学-家族性腫瘍の最新研究動向-.日本臨牀社:初版第1版,2015
全国遺伝子医療部門連絡会議ホームページ〈http://idenshiiryoubumon.org/(外部リンク)

執筆者紹介

井ノ口 卓彦(いのくち たくひこ)

がん・感染症センター 都立駒込病院 遺伝子診療科 非常勤職員
専門分野:遺伝カウンセリング
資格:看護師、認定遺伝カウンセラー

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