診療内容(胃外科)

診療内容 (胃外科)

【目 次】

1. 対象疾患
2. 診断・治療の流れ
3. 治療法
4. 当科の治療の特色
5. 実績
6. 先端医療・治験
7. セカンドオピニオンのご案内


1.対象疾患

当科では、豊富な治療経験や最新の技術を駆使し、これまでに5000例以上もの胃がんを中心とした胃疾患を対象として診療を行ってきました。扱う胃疾患は、良性、悪性を問わずさまざまな胃疾患、およびに関連する周囲臓器の治療を行なっています。
・胃がん
・胃悪性リンパ腫
・肉腫
・胃粘膜下腫瘍

2.診断・治療の流れ

当院では、消化器内科・内視鏡科、腫瘍内科、放射線診断部、病理科など各専門医との合同検討会(胃キャンサーボード)を原則毎週開催しています。この胃キャンサーボードにて、的確な診断と、患者さんにとって最良の治療方針を多角的に決定します。これにより、それぞれの患者さんにあった専門医療が提供できる体制をとっています。

診断・治療の流れ

① 初診
 血液検査、胸腹部レントゲン、心電図、呼吸機能、心臓超音波、下肢静脈超音波検査などを行います。
② 検査
 上部消化管内視鏡検査、下部消化管内視鏡検査、胸腹部CT検査などを行います。
③ オリエンテーション外来
 体調や禁煙状況などの確認、検査結果、治療方針の説明、必要な追加検査などについてお知らせします。

<外科手術の方>
④ 入院日・手術日のお知らせ
 中止していただく内服薬がある場合があります。
⑤ 入院
 詳しい治療方針の説明をさせていただきます。入院後に上部消化管内視鏡検査を行うことがあります。
⑥ 手術

<外科手術以外の方>
⑦ 消化器内科や腫瘍内科への紹介

3.治療法

当科では“標準治療”を行っています。標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で信頼性の高い、最良の医療であり、保険診療で受けることができる治療法です。
現在受けることのできる標準治療は、研究、開発の積み重ねによって築かれたものです。今後のより良い治療の確立を目指し、”臨床試験”や”治験”などが行われています。治療の方法としては複数ありますが、それぞれの特徴があります。ここでは便宜上、主に胃がんにおける治療法を以下に紹介します。

(1)内視鏡切除
いわゆる胃カメラを用いて鎮静をかけた状態での病気をくり抜く部分切除です。リンパ節転移の可能性の低い早期がんを主に対象とします。内視鏡的切除が選択された場合でも、内視鏡的切除後の検体の評価によっては、根治性の観点から、追加の外科手術をお勧めする場合もあります。

切除方法の例

(2)外科手術
全身麻酔下で根治を目的とした胃の切除を行います。遠隔転移のない進行胃がんなどを対象とします。病変の位置や進行度により、胃やリンパ節の切除範囲が決まります。切除範囲によって、最も適切と思われる再建方法が選択されます。主な切除方法は以下です。


• 胃全摘術:胃の全切除 
• 幽門側胃切除術:胃の幽門(出口)を含んだ胃切除。胃の約2/3を切除。
• 噴門側胃切除術:胃の噴門(入口)を含んだ胃切除。胃の約1/2を切除。
• 胃分節切除術:胃の噴門(入口)と幽門(出口)を残した胃の切除。
• 胃局所切除術:胃の部分的な切除。

(3)薬物治療

抗がん剤や分子標的薬などの薬物投与による治療です。術後補助療法としての治療と、切除不能進行胃がん・再発胃がんに対する制御目的の治療の2種類があります。

  1. 手術後補助療法
    根治的な胃切除術がなされた後、体内に遺残している微小な腫瘍による再発を予防することを目的としています。これまでにさまざまな臨床試験が行われた結果、一部を除くステージII, IIIに対して、一定期間、化学療法を行うことが推奨されています。適切な術後補助化学療法により、手術後の再発率を低下させることができるため、体調や化学療法の副作用をみながら、当初に予定されたとおりのスケジュールや投与量で一定期間継続して治療を行うことが重要です。
  2. 切除不能進行がん・再発胃がんに対する制御目的
    日本や世界中で行われた多数の臨床試験の結果、有効な薬剤が使用されるようになってきました。胃がん癌では、一次治療、二次治療、三次治療として、効果が認められている薬剤を使用することが推奨されています。

(4)放射線治療
主に出血に対する予防目的に行います。根治を目的とした治療法ではなく、出血や痛みを和らげる治療です。

4.当科の治療の特色

当科はこれまで5000症例以上の経験に基づいて胃がんに対する治療成績をデータ化し、画一的な治療ではなく、患者さん一人ひとりにきめ細かい配慮をして、最善の治療を提供すべく努力しています。
そうした我々胃外科の診療の特色は、根治性と低侵襲の両立、難治性胃癌に対する集学的治療です。根治性を損なうことなく低侵襲で機能温存を追及した体にやさしい手術(ロボット支援下胃切除術、腹腔鏡下噴門側胃切除術、腹腔鏡下胃局所切除術、神経温存胃切除術など)を行なっており、術後のQOL(quality of life)も良好です。

根治性と低侵襲の両立

(1)低侵襲手術 ― 腹腔鏡下手術とロボット支援下(ダビンチ)手術―
従来、胃の開腹手術ではお腹を15~20cmほど大きく切って行うので、術後長く痛みが残ります。傷も大きく目立ちますし、腸の動きが正常化するのも遅く、日常生活にも戻るのに時間がかかりました。
一方、お腹に小さな穴を開けて行う低侵襲手術(腹腔鏡下手術やロボット支援課手術)は、体を大きく傷つける必要がないため、高齢者や体力のない方など手術が難しいケースでも実施できる可能性の高い治療法です。低侵襲手術は基本的にステージ1の早期がんが対象ですが、最新の臨床試験の結果、今後は進行がんにも適応が広がっていく見込みです。
当院では、手術支援ロボット「ダビンチXi」を2018年8月に導入し、安定した運用を行っています。対象となる術式は胃全摘、噴門側胃切除・ダブルフラップ再建術等を含め、すべての胃切除術に対応可能です。また、2024年10月に最新の手術支援ロボット「ダビンチSP」を新たに導入しました。現在、手術開始に向け日々トレーニングを積んでいるところですので、今後の運用については随時HPでお知らせいたします。

(2)機能温存
胃切除後には体重が10−20%減少することが知られています。特に胃全摘術を行った患者さんでは、術後の食事摂取量が減ることなどにより、胃を残す手術を行った患者さんに比べ、体重の減少が多く、日常生活の質に影響すると報告されています。これらの術後デメリットを鑑みて当科では、なるべく切除範囲を縮小することにより、胃の機能を温存することを心がけています。
従来は胃全摘術が行われた病変に対して、胃亜全摘術や噴門側胃切除術を選択することで、胃を温存することが可能となっています。
また、GISTなどのリンパ節転移の頻度が低い病変の場合、腫瘍の完全切除が可能であれば、胃局所切除が行われ、なるべく胃の機能が温存する手術を行います。従来では局所切除が難しかった、病変が胃の入り口(噴門)・出口(幽門)に近い場合ででも腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)やCLEAN-NETといった手技により、胃を大きく切除することなく、腫瘍を摘出することが可能となりました。

5. 実績

胃外科のロボット支援下手術件数

低侵襲手術の中でも、ロボット支援下(ダビンチ)手術は年々増加しています。2018年の導入開始以降、症例数の蓄積とともに安定した手術成績を収めています。

6.先端医療・治験

(1) 先端医療・治験とは
一般に人(患者さんや健康な人)を対象とした治療を兼ねた試験を「臨床試験」と呼びますが、そのうち、「新しい医薬品や医療機器の開発」の為の「臨床試験」を「治験」(治療試験)と呼びます。
臨床試験や治験に参加するには、病状や体調等が一定の基準を満たしている必要があり、すべての患者さんが参加できるわけではありませんが、患者さんによっては非常に有効であることも少なくありません。当科は、さまざまな臨床試験や治験を実施・分担してきていますので、担当医からご案内する場合もありますが、お気軽にご質問してください。

(2) 当院で受けられる先端医療・治療
具体的な取り組みとして、標準治療より理論的に優れた治療(より治る可能性が高い治療、より延命効果が期待できる治療、より副作用が少ないであろう治療、より合併症が少なく回復が早いであろう治療、など)を、全国のがん専門病院や大学病院と連携して、臨床試験/臨床研究として行っています。現在参加しているものとして、胃癌手術に関するもの、胃癌周術期化学療法に関するもの、高齢者に対する取り組み、GIST治療に関するものなどがあります。日本臨床腫瘍グループ(JCOG)の胃癌グループでは、当科は創成期から中心メンバーとして参加し、胃癌の治療成績向上を目指した取り組みを続けています。患者さんの体にやさしい低侵襲な腹腔鏡下手術としては、幽門側胃切除術から高難度の噴門側胃切除術や胃全摘まで、また、胃GISTなどに対する腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)も行っています。


<臨床試験で行う新しい外科治療・集学的治療>

大型 3 型・4 型胃がんに対する術前化学療法としての 5-FU+レボホリナート+オキサリプラチン +ドセタキセル(FLOT)療法とドセタキセル+オキサリプラチン+S-1(DOS)療法の有効性を探索するランダ ム化第 II 相試験(JCOG2204試験)(外部リンク)
 →進行胃がんの手術前に行う抗がん剤治療の効果、安全性、利便性を検討する臨床研究です。

食道胃接合部腺癌に対する DOS or FLOT を用いた術前化学療法のランダム化第 II/III 相試験(JCOG2203試験)(外部リンク)
 →食道胃接合部がんの手術前に行う抗がん剤治療の効果、安全性を検証する臨床研究です。

cT1-4aN0-3 胃癌におけるロボット支援下胃切除術の腹腔鏡下胃切除術に対する優越性を検証するランダム化比較試験(JCOG1907試験)(外部リンク)
 →胃がんに対する手術として、ロボット支援下手術と腹腔鏡下手術と比較する臨床研究です。

(ロボット支援)腹腔鏡下脾温存脾門リンパ節郭清(JCOG1809試験)(外部リンク)
 →大弯に浸潤する胃上部進行胃がんに対して腹腔鏡下に脾臓を温存した胃切除に関する臨床研究です。

漿膜下浸潤及び漿膜浸潤を伴う進行胃癌を対象とした大網切除に対する大網温存(JCOG1711試験)(外部リンク)
 →進行胃がんの手術における大網温存の効果を検証する臨床研究です。

cStageIII胃癌に対する周術期化学療法(JCOG1509試験)(外部リンク)
 →進行胃がんの手術前に行う抗がん剤治療の効果を検証する臨床研究です。

7. セカンドオピニオンのご案内

胃切除に不安のある方、他の病院での説明だけでなく意見を聞きたい方(セカンド・オピニオンの希望)のご相談を受け付けています。また、他の病院で治療が困難といわれた方もお気軽にご相談ください。

最終更新日:2025年2月