乳房再建について
乳房再建とは?
乳癌の手術により失われた乳房を取り戻す手術です。形態の再建とともに、患者さんの心の負担を減らすことを目的とします。
どんな患者さんが乳房再建の対象になるのか?
乳房切除手術をこれから受ける患者さん、すでに手術を受けた患者さんが乳房再建の対象になります。
乳房再建の適応は、患者さんのご希望を第一に考えます。乳癌の状態は問いません。
これまで20代から80代の患者さんが乳房再建を受けています。再建した理由は、「女性にとって必要」、「なくなることが受け入れられない」、「子供のため」、「温泉に行きたい」、「服装のため」、「趣味のため」など様々です。
乳癌の治療への影響は?
乳房再建が乳癌の治療や乳癌の再発に影響を及ぼすことはありません。
乳房再建の方法とは?
乳房インプラント(シリコンジェル充填人工乳房)を使う方法と、自家組織移植(脂肪や皮膚などの移植)の二通りの方法があります。
それぞれの方法に利点と欠点があります。どちらの方法を選ぶのかは患者さんのご希望を第一に考えますが、乳房の形態、乳癌の状態などにより向き不向きもあります。
どれぐらいきれいになるの?
左右対称の元通りの乳房を目指して再建を行いますが、乳癌手術後の状態、再建の方法などにより仕上がり具合は様々です。
どこまで再建できるのか、どこが再建できないのか、実際の写真を見ていただきながら説明いたします。
乳房インプラントによる乳房再建(手術について)
乳房インプラント(シリコンジェル充填人工乳房)を用いた再建方法で、適正な大きさの乳房インプラントを適正な位置に挿入するために、手術を2回に分けて行います。
ここでは、乳癌の手術と同時に再建を行う一次再建の説明をいたします。
初回手術(乳房切除手術+エキスパンダーの挿入)
乳房切除手術に引き続き、エキスパンダーを大胸筋の下に挿入します。エキスパンダーとは、生理食塩水を注入して膨らませる風船状の仮のインプラントです。入院期間は術後7~10日程度です。
エキスパンダーの拡張
エキスパンダーを徐々に膨らませることにより、残った皮膚を伸ばしていきます。退院後の外来通院で生理食塩水を注入していきます。注射器で注入しますが、痛みはありません。
注入期間
エキスパンダーの拡張には3~4カ月の期間が必要です。注入回数、注入量は乳房の大きさや皮膚の切除量によって異なります。この期間は軽い運動を含め日常生活に制限はありませんが、うつ伏せの姿勢は控えていただきます。エキスパンダーの中には金属が入っているため、MRIの検査を受けることができません。エキスパンダーがずれないように帯状の装具を使用するため、ブラジャーが着けられません。
2回目の手術(乳房インプラントへの入れ替えと乳頭再建)
皮膚が十分拡張したら、エキスパンダーを抜去して乳房インプラントを挿入します。初回手術の傷跡から手術を行います。同時に乳頭の再建も行います。入院期間は3~4日程度です。
乳頭、乳輪部への色素注入
2回目の手術の後に、再建した乳頭と乳輪に色素を入れます。
- 抗がん剤治療が必要な場合、抗がん剤治療が終了後に2回目の手術を行います。
ホルモン療法やハーセプチン治療の場合、治療中でも2回目の手術は可能です。術後に放射線治療が必要になった場合、状況により2回目の手術時期を判断します。 - 乳房の下垂がある場合、乳房インプラントでは対称性を得ることが困難です。ご希望により2回目の手術時に、残った側の乳房の下垂を修正する手術を行います。
- 再建完了後はブラジャーなどの下着を着けることができますが、腋窩リンパ節郭清を受けた患者さんでは、浮腫の程度により下着が制限される可能性があります。
乳房インプラントによる乳房再建(特徴について)
利点
- 再建のために傷を増やす必要がありません。
- 初回手術で再建に必要な時間は1時間程度です。
- 初回手術の術後の痛みは、再建しない場合とほとんど変わりません。
- 初回手術の退院後は、比較的早期に仕事や家事、育児が可能です。
欠点
- 完全に左右対称の乳房にはなりません。
- 下垂した乳房を再現することは困難です。
- 乳房インプラントが入らない上胸部などの陥凹は再建できません。
- 乳房インプラントはほとんど動きません。
- 本来の乳房のような温かみを感じにくくなります。
- 乳房インプラントは10年ごとに入れ替えが必要です。
おもな合併症
大きさと形の非対称
最適な乳房インプラントを用いても対称性が得られない場合があります。
乳房切除術の状況次第で、最適な乳房インプラントを使用できない場合があります。
位置の非対称
乳房インプラントの位置がずれる可能性があります。
乳房インプラントの回転
乳房インプラントが回転する可能性があります。
アナトミカルタイプ(しずく型)の場合、回転すると変形が生じます。
修正には再手術が必要になります。
エキスパンダー、乳房インプラントの感染
創部に細菌感染が生じた場合、エキスパンダーあるいは乳房インプラントを抜去しなければなりません。
感染が治癒した後に再度再建を行うことは可能ですが、感染後の状況によっては乳房インプラントでの再建ができなくなる可能性があります。感染による抜去の頻度は4%程度です。
違和感
術後に圧迫感、つっぱり感などの違和感が生じる事があります。
多くは徐々に軽減して数カ月で気にならなくなりますが、まれに数年続くことがあります。
ブレストインプラント関連未分化大細胞リンパ腫
乳房インプラントを挿入した患者さんに生じるごく稀なタイプのリンパ腫です。悪性腫瘍ですが、進行は非常に緩徐でほとんどの場合はインプラントと周囲の被膜の除去で軽快します。
漿液腫や被膜の変化を長期間放置しなければ安全なものと考えています。
定期的な検査が必要ですので、自己判断で検診を終了することのないようお願いします。
- 両側の乳房再建の場合、形態を合わせやすい利点があります。
- 両側同時に乳房再建を行う場合、皮膚が十分拡張すれば大きなサイズの乳房インプラントを入れることも可能ですが、皮膚の拡張により圧迫感が生じる場合があります。
遊離腹直筋皮弁(穿通枝皮弁)による乳房再建(手術について)
下腹部の皮膚と脂肪を移植して再建する方法です。
ここでは、乳癌の手術と同時に再建を行う一次再建の説明をいたします。
初回手術(乳房切除術+腹直筋皮弁移植)
乳房切除手術に引き継ぎ、腹直筋皮弁移植を行います。下腹部から紡錘形の皮膚と脂肪を採取します。中央の縦の幅は10~12cm、横の幅は30~40cm程です。採取した皮膚と脂肪に血液を流す血管(動脈と静脈)も一緒に採取します。採取後は上下の皮膚を寄せて傷を閉じます。横方向の長い傷跡が残りますが、下着に隠れるようになるべく低い位置になるようにします。乳房切除術後のスペースに腹直筋皮弁を移植し、乳房の形態に合わせて移植する組織量と配置を整えます。切除した乳房の皮膚は腹部の皮膚で再建します。腹直筋皮弁に付けた血管を胸の血管に吻合して血液が通うようにします。 入院期間は術後7日から10日程度です。
2回目の手術(形の修正と乳頭の再建)
余分な脂肪を切除して形態を整えます。同時に乳頭の再建を行います。
初回手術の後、3カ月以上あけて行います。
入院期間は3~4日程度です。
乳頭、乳輪部への色素注入
2回目の手術の後に、再建した乳頭と乳輪に色素を入れます。
- 腹部の血管の状態や脂肪の厚さなどにより、筋肉(腹直筋)を少量つけて採取する場合があります。
- 再建に必要な脂肪の量によっては、2組の血管の吻合が必要な場合があります。
- 腹部に手術の傷跡がある場合でも再建は可能です。
- 状況によっては、血管を吻合しないで移植する方法(有茎腹直筋皮弁)を行います。
その場合は、腹直筋の一部を一緒に採取します。 - 抗がん剤治療が必要な場合、抗がん剤治療が終了後に2回目の手術を行います。
ホルモン療法やハーセプチン治療の場合、治療中でも2回目の手術は可能です。
術後に放射線治療が必要になった場合、状況により2回目の手術時期を判断します。 - 下垂した乳房を再建することも可能ですが、ご希望により下垂の程度を抑えて再建を行い、2回目の手術時に、残った側の乳房の下垂を修正する手術を行います。
遊離腹直筋皮弁(穿通枝皮弁)による乳房再建(特徴について)
利点
- 人工物を使わずに再建できます。
- 下垂した乳房など乳房インプラントで再建できない形態も再現できます。
- 上胸部(デコルテ部分)の陥凹もある程度再建できます。
- 乳房インプラントに比べ軟らかく、温かく、ある程度の動きも得られます。
欠点
- 初回手術で、再建に6時間程度要します。
- 初回手術後は3日間、床上安静が必要です。
- 下腹部に長い傷跡が残り、術後数週間は運動により痛みやつっぱり感が生じます
- 胸部の傷跡は腹部の皮膚のパッチワーク状の傷痕になります。
おもな合併症
大きさと形の非対称
左右対称の乳房を目指して再建を行いますが、完全に対称の乳房にならない可能性があります。
腹部に脂肪が少なく乳房が大きい患者さんでは、十分な再建ができない可能性があります。
腹壁弛緩、腹壁瘢痕へルニア
腹部の皮膚の下で閉じた腹壁が緩むと、下腹部が膨隆する腹壁弛緩が生じる可能性があります。
ごく稀に、緩んだ腹壁から腸管が脱出する腹壁瘢痕ヘルニアが生じる可能性があります。
その場合は手術による治療が必要になります。
これらを予防するために、術後3カ月程度は帯状の装具などで下腹部を圧迫していただきます。
吻合血管の血栓
移植のために吻合した血管が、血栓により閉塞する可能性があります。
血栓が生じる可能性は3~4% です。
多くは術後1~3日以内に起こり、血栓を取り除く緊急手術が必要になります。
生活習慣病や喫煙者では、そのリスクが高くなります。
腹直筋皮弁の壊死
吻合血管に生じた血栓を取り除くことができない場合、移植した腹直筋皮弁は壊死となります。
壊死の確率は1~2%です。壊死した組織は取り除かなければなりません。
- 両側の乳房再建の場合、片側に移植できる組織量が半分になるため、再建できる乳房の大きさが制限されます。
- 片側の再建を行った後に反対側が乳癌になった場合、同じ方法で再建ができません。
- 術後に体重が増えると再建した乳房も大きくなり、体重が減ると小さくなります。
広背筋皮弁による乳房再建(手術について)
背部の皮膚と脂肪、筋肉を移植して再建する方法です。
腹部に比べ脂肪が少ないため、乳房が小さい患者さんが対象になります。
ここでは、乳癌の手術と同時に再建を行う一次再建の説明をいたします。
初回手術(乳房切除術+広背筋皮弁移植)
乳房切除手術に引き継ぎ、広背筋皮弁移植を行います。乳癌と同じ側の背部から紡錘形の皮膚と脂肪をその下にある筋肉(広背筋)とともに採取します。採取した皮膚と脂肪に血液を流す血管が広背筋の中を流れているため、この血液の流れをつなげたまま採取した組織を背部から胸に移植します。背部には20cm程の傷跡が残りますが、なるべく低い位置になるようにします。乳房切除術後のスペースに広背筋皮弁を移植し、乳房の形態に合わせて、移植する組織量と配置を整えます。切除した乳房の皮膚は背部の皮膚で再建します。入院期間は術後7日から10日程度です。
2回目の手術(形の修正と乳頭の再建)
余分な脂肪を切除して形態を整えます。同時に乳頭の再建を行います。
初回手術の後3カ月以上あけて行います。入院期間は3~4日程度です。
乳頭、乳輪部への色素注入
2回目の手術の後に、再建した乳頭と乳輪に色素を入れます。
※広背筋を切除しますが、日常的な動作や通常の運動には影響ありません。
※抗がん剤治療が必要な場合、抗がん剤治療が終了後に2回目の手術を行います。
ホルモン療法やハーセプチン治療の場合、治療中でも2回目の手術は可能です。
術後に放射線治療が必要になった場合、状況により2回目の手術時期を判断します。
広背筋皮弁による乳房再建(特徴について)
利点
- 人工物を使わずに再建できます。
- 腹直筋皮弁に比べて傷跡は短く、背部であるために目立ちません。
- 腹直筋皮弁に比べて採取部の痛みは軽度で、翌日から歩行できます。
- 腹直筋皮弁で起こりうる吻合血管の血栓や皮弁の壊死が起こりません。
- 乳房インプラントに比べある程度自然な質感が得られます。
欠点
- 初回手術で再建に3時間程度要します。
- 移植できる脂肪の量が限られるので、大きな乳房は再建できません。
- 上胸部の陥凹まで十分に再建できない可能性があります。
おもな合併症
大きさと形の非対称
左右対称の乳房を目指して再建を行いますが、完全に対称の乳房にはなりません。
広背筋皮弁の部分壊死
移植した組織の一部が、血流障害によって壊死になる可能性があります。
再建乳房の委縮
筋肉を含めて移植するため、筋肉の委縮により再建した乳房が小さくなる可能性があります。
広背筋の運動による違和感
移植した広背筋が随意あるいは不随意に動くことがあります。
背部奬液腫
背部の創の奥に薄い血液が溜まる可能性があります。数週から数カ月続く場合があります。
外来診察で注射器で吸引しますが、痛みはありません。