概要
悪性リンパ腫とは、血液の成分であるリンパ系組織から発生する悪性腫瘍のことで、リンパ節などのリンパ系組織だけではなく、全身の臓器に発生することがある病気です。悪性リンパ腫の原因ははっきりしていませんが、遺伝子の異常、ウイルス感染、慢性の炎症、免疫不全などとの関連が検討されています。この疾患は、腫瘍の元となった細胞などによって細かく分類すると90種類以上のタイプがあり、それぞれのタイプや発生した臓器によって病態や治療法が異なります。
この多様な種類のうち、脳など中枢神経系から発生したものを、中枢神経原発悪性リンパ腫(Primary Central Nervous System Lymphoma, PCNSL)と呼びます。脳神経外科で治療をする悪性リンパ腫はこれが主ですので、以下この病気に関して説明します。
統計と病態
PCNSLは、成人の脳実質性悪性腫瘍のおよそ3%を占めます。好発年齢は50~70歳代で、男性には女性のおよそ1.4倍多く発生します。最初の診断時には、6割が単発性、4割が多発性ですが、境界のはっきりとした腫瘍ではなく、脳の全域に浸潤していく=正常細胞の隙間に染み渡るように広がっていく腫瘍であり、一度発生すると脳の別の場所にも発生しやすくなるため、経過のうちにほとんどの症例が多発病変となります。脳内のどこでも発生しますが、特に前頭葉と呼ばれる部分に発生することが最も多いと言われています。
化学療法や放射線療法を行うことで、4-8割の症例で腫瘍が消失します。しかし、残念ながら数年以内に再発してしまう症例もあります。
症状
症状は、脳内のどこでPCNSLが発生したかで異なります。例えば、運動を司る領域近辺に発生すれば運動麻痺となりますし、感覚を司る領域近辺に発生すれば感覚麻痺になります。そのため、それぞれの患者さんによって症状は全く異なります。また、それ以外にも、意識障害や痙攣発作が起きることがあります。認知機能障害を伴うことも多いです。
検査と診断
まずは、造影剤を使ってCTやMRIによる画像での診断を行います。多くの症例で、腫瘍全域がほぼ均一に強く造影されます。画像の所見から悪性リンパ腫を疑った際には、他の疾患を除外する目的で全身を造影CTなどで検査します。
全身の検査結果から悪性リンパ腫の可能性が高いと判断した場合、病理検査による確定診断目的の手術を行います。手術の目的は、腫瘍を全て摘出して病気を治すことではなく、腫瘍の一部を採取して病理検査を行い、その結果から適切な治療法を選択するためです。この疾患は、脳の全域に浸潤していくという特徴があるため、手術で画像上腫瘍を完全に摘出できても、再発を予防できません。そのため、腫瘍を全て摘出することは目標にせず、できるだけ周辺の正常な脳を傷つけないようにしながら病理検査に必要なだけの腫瘍組織を採取します。病理検査で腫瘍の種類を確定し、今後の治療方針を決めていきます。PCNSLのおよそ9割がびまん性大細胞型B細胞リンパ腫という種類です。
中枢神経原発悪性リンパ腫のMRI画像
治療
病理診断が確定すると、患者さんの全身状態なども考慮し、適切な治療を検討します。多くの症例では、化学療法を行い、必要に応じて放射線療法を併用します。
化学療法は、腫瘍の種類や患者さんの全身状態によって異なりますが、PCNSLの多くで行われている治療は、メトトレキサートという抗癌剤を使用します。昨今はメトトレキサートに他の抗癌剤を追加することもあり、それぞれの抗癌剤の頭文字などからR-MPV療法などと呼ばれます。
化学療法後、治療の有効性や患者さんの全身状態などを考慮したうえで、放射線療法の施行を検討します。脳全体に放射線を当てる全脳照射という治療を行うことで、画像上では見つけられない、浸潤している細胞も含めて治療ができます。しかし、認知機能障害などのリスクもあり、慎重に検討を行います。
当院では、PCNSLの治療は、腫瘍内科や放射線治療科と協力して行っております。
治療後、15年間再発なく経過している症例のMRI画像
まとめ
- 脳から発生する悪性腫瘍の一種です
- 症状は脳のどこで発生したかによって異なるため、多岐にわたります
- CTやMRIなどの画像で疑わしいと診断した場合、開頭手術で病理検査を行って確定診断をします
- 確定診断がついたら、全身状態なども考慮して治療方針を決めます
- 治療は、化学療法をまず行う症例が多いです
- 必要に応じて放射線治療を追加します
- 治療によって、4-8割の症例で画像上腫瘍が縮小し症状も改善します
- 再発率の高い病気であり、数年以内に再発してしまう症例もあります