多発性硬化症におけるくすぶり炎症とは?
多発性硬化症(MS)は中枢神経を標的とする自己免疫疾患で、脳や脊髄に炎症性脱髄とよばれる病変をつくります。病変ができる場所によって、しびれや脱力、認知機能障害など様々な症状が出現し、「再発」とよばれています。これまで、MSにとっては「再発」が悪者であり、なんとか再発を抑えたい、という考えから様々な治療薬が開発され、実際に臨床現場で使用され、確かに再発が抑えられるようになってきました。
しかし、話はもう少し複雑なようです。近年の欧米の研究によると、障害進行の大半は「再発によらない進行」であることがわかりました。そして、これは欧米だけの話ではなく、日本においてもPIRAがみられることをこの駒込PML/MS/NMOセンター通信でも紹介しました。(https://www.tmhp.jp/komagome/section/naika/shinkeinaika/pml_ms_nmo_center_tsushin/nmo_tahatsuseikokasho_pira.html)
なぜ、再発もないのに障害がすすんでしまうのでしょうか? これは、MSという病気は、我々の目にみえない部分でも活動しているからです。このようなMSにおける一見してわかりにくい慢性的な炎症をくすぶり(英語ではsmoldering)炎症といい、くすぶり炎症に関連して症状が悪化することをくすぶり関連増悪(smoldering associated worsening,SAW)とよぶことが提唱されています。くすぶり関連増悪の例として上記のPIRAや認知機能低下、疲労症状の悪化などが挙げられています。画像検査でわかるものとしては、脳や脊髄の萎縮が有名ですが、近年注目されているのがslowly expanding lesion (SEL)です。

SELはその名のとおり、「ゆっくり拡大する病変」のことです。一部のMS病変では、人間の目ではよくみないとわからないような年間数%~十数%程度のゆっくりとした拡大がみられることがわかり、これらの病変の周辺部では慢性定期な炎症が認められることが確認されています。例えば、図の黄色い四角で示した病変は、下段左を基準にすると、1年後(中央)、2年後(右)とわずかですが、拡大しています。すなわち、「再発がなく、脳MRIでも変化がない」、と思っていても、水面下で慢性的な炎症が続いていることがあるわけです。
我々の研究チーム(都立駒込病院、東京科学大学、北海道医療センター、東北医科薬科大学)は、日本人のMS患者さんについてこのSELを調べてみました[1]。99名の脳MRIを調べたところ、35名の方が少なくともひとつのSELをもっていることがわかりました。そのうち、2つ以上のSELが認められた12名の患者さんは、疾患活動性が高く、脳萎縮の割合が大きいことがわかりました。残念ながらSELの検出は簡単に外来でできるものではありませんが、今後の病気の将来を占う重要な指標であると考えられます。
[1] 1: Yokote H, Miyazaki Y, Fujimori J, Nishida Y, Toru S, Niino M, Nakashima I,Miura Y, Yokota T. Slowly expanding lesions are associated with disease activity and gray matter loss in relapse-onset multiple sclerosis. J Neuroimaging. 2024 Nov-Dec;34(6):758-765. doi: 10.1111/jon.13243. Epub 2024 Oct 10. PMID: 39390692.