卒業生からのメッセージ

広島市立広島市民病院 脳神経内科
上利 大

私が神経病院を後期研修病院として希望した理由は神経内科全般を基礎から学びたいという思いと、パーキンソン病患者におけるDBS治療の診療を勉強したいということからでした。神経病院は全国から志高い先生があつまってこられます。医局に所属していない先生も多数おられました。みんなで夜遅くまで勉強したり、ときには飲みにもいったりもしました。研修の環境としては非常によかったと思います。

研修がはじまり、まずおどろいたのはやはり症例の数です。入院されている患者さんは、神経変性疾患や筋疾患、免疫性疾患から、非常に稀な疾患までさまざまで実際に数多くの患者さんを診察させていただくことができました。神経内科の専門領域をローテーションする形で研修はすすみましたが、その中で興味があったパーキンソン病の研修ではDBSの手術を数多く見学させていただき、刺激調整も含めて、大変勉強になりました。その他にも神経伝導検査や針筋電図などかなりの症例の電気生理検査をさせていただきましたし、神経放射線、神経病理など、それぞれをスペシャリストの先生方に、熱心にご指導いただきました。神経内科のほとんどの領域をしっかり勉強できることが神経病院の強みだと思います。

もう一つ、神経病院の特徴として在宅診療をおこなっていることが挙げられます。これは通常の総合病院や大学病院に勤めているとなかなか経験することが難しいと思います。実際に往診にうかがうと、外来診療だけではわからない患者さんの生活環境や日常生活で困っていることなどがよくわかり、神経難病の患者さんを診療するにあたりとても大切で、よい経験となりました。

私は現在救急病院に勤めており、脳卒中、けいれん、神経感染症、神経免疫疾患など神経救急疾患を診療する機会が多いのですが、一方で神経変性疾患などの患者さんもたくさん診療させていただいております。神経病院でたくさんの患者さんを診療させていただいたことで、学んだことや経験したことは、今もとても役立っています。ありがとうございました。

フランス筋学研究所、ピティエ・サルペトリエール病院
漆葉章典

私は初期臨床研修修了後の4年間、東京都立神経病院・脳神経内科でシニアレジデントとして専門研修を受けさせて頂きました。その後、大学院に進学・卒業し、現在はフランスに留学して、難治性筋炎の研究を行っています。

神経病院では脳炎・脳症、髄膜炎やギラン・バレー症候群といった急性疾患から、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、封入体筋炎といった慢性疾患まで様々な疾患の患者さんを指導医のサポートのもと主治医として担当しました。神経病院は神経内科診療の高次医療機関としての機能があるため、教科書にあるような知識だけでは対応困難な患者さんも多く紹介されて来られます。各専門分野の先輩医師の力を借りながらも、研修医が主体的に丹念な病歴聴取や診察、検査、文献検索を行い、その患者さんのことをしっかりと考え抜くことで、「難しい症例」に対するアプローチの仕方、対応力という普遍的な力が身についていくと思いますが、神経病院の研修ではそうした機会が実に多く与えられました。

また急性期対応や精査入院の担当と並行して、慢性期の患者さんの在宅診療やレスパイト入院も担当しましたが、それは各疾患の病期ごとに出現する生じる様々な症状や療養上の課題を深く知る機会となりました。慢性期診療への参加は、疾患の全体像を理解することに大いにつながるとともに、それによって神経内科医にとって必要な、長期的な視点に立って診療を行うというマインドも自ずと培われていったと思います。

学会・論文発表などの学術活動はもちろん盛んで、研修医にも学術発表の機会は頻繁に与えられます。最初はとても難しく感じますが、指導医から個々の能力に応じた適切なサポートが受けられ、研修期間の終盤には英語論文の原稿作成なども自分である程度できるようになると思います。学術活動は臨床医としての能力向上にもつながると思います。学術発表の準備を介して自分たちの診療を振り返る中で、次に同様の症例を担当した場合にはどのような対応をとるのがより良いのかが自ずと見えてきます。こうした観点においても、神経病院のように学術活動の盛んな施設は臨床研修に適していると言えます。

私は大学院入学後から現在に至るまで、筋疾患の研究を行っています。私のベースが臨床医であるということもあって、臨床的な課題を基礎研究の技術を使って解決するというスタンスをとっていますが、そこには神経病院での研修で得た経験がとても大きく影響しています。神経病院は臨床医だけでなく研究分野においても多くの人材を輩出していますが、それは神経病院には、一人一人の患者さんをより丹念に診て、深く洞察するという姿勢が病院文化として根付いているからではないかと私は思っています。

神経内科医を目指す皆さんが臨床神経学の基礎をしっかりと身に付けるために、自信を持って神経病院での研修を推薦します。

平成10年卒業生

私が研修医として神経病院の門を叩いたのは、今から10年以上まえの2005年のことでした。それまでは関西圏の地方小都市(田舎)で神経臨床をしておりましたが、神経病院は30人以上の神経内科医と200床以上の神経内科ベッドを有し、その他にも脳神経外科、神経放射線科、神経眼科、神経耳鼻科、神経専門の病理科など神経診療に特化した先生方が大勢従事されている全国でも珍しい神経疾患の専門病院であることから、より幅広い臨床経験を得ることを望んで第一期の後期研修医に応募しました。

当時の私は「東京」というと殺伐とした大都会を想像し恐れにも近い感情を持って上京しましたが、実際に行ってみると神経病院のある多摩地区は牧歌的な雰囲気さえある郊外ベットタウンで、生活の便もよく、のんびりとした環境の中で研修生活を送ることができました。また神経病院では神経臨床という言葉を軸に各診療科の先生方が垣根なく交流して意見を交換する雰囲気があり、出会った先生方の診断に対する緻密で妥協のない姿勢には感動を覚えたものでした。

血管障害や神経感染症などの神経内科領域のcommon disease、変性疾患や脱髄疾患などの難病はもとより、近隣医療施設から診断不明例や治療困難例などの患者様の紹介も多く、それまで聞いたこともなかったような希少疾患を診る機会も数多く得ることができました。一人の患者様に対して打腱器をふるうことから始まり、画像や電気生理などの各種検査を行って生検標本のプレパラートを覗くまでの終始一貫した診断過程を経験でき、不幸にして治療の後にお亡くなりになられた場合も病理標本を自分の目で確かめて診療過程を総括するという神経臨床を体験できた環境は、神経内科医として貴重な臨床の場だったと思います。

現在、私は内科開業医をしておりますが、問診で得た現病歴、既往歴、生活背景の情報から病因論的推察を行い、神経学的診察から障害部位を想定して臨床診断を構築していくという神経病院で学んだ神経診断学は、今なお影となり日向となり臨床の支えになってくれています。この診断プロセスは高価な検査機器がなくても実践でき、これから神経内科を志す先生方には一生にわたり大きな手助けになってくれることと思います。

以上、雑文ではございましたが神経病院での臨床研修をお考えの若い先生方の参考になれば幸いです。