筋萎縮性側索硬化症(ALS)

疾患概要

大脳運動野にある一次運動ニューロンと脳幹脊髄にある二次運動ニューロンの双方が変性消失する神経変性疾患です。運動神経の変性消失により運動ニューロンが支配する全ての随意筋が進行性に障害されることで、四肢の運動障害の他、構音障害、嚥下障害、呼吸障害などが出現します。一方、排尿障害や感覚障害はないことも特徴です。日本では約5%が遺伝性ですが、多くは非遺伝性です。原因として興奮性アミノ酸による神経毒性説、酸化ストレス説、異常蛋白蓄積説などいろいろな説がありますが、いまだ原因不明です。非遺伝性のALSでは病理学的には多くの運動ニューロンが消失しますが、残存する運動神経に封入体が見られ、近年、その封入体にリン酸化されたTDP-43という物質が存在することがわかり、原因解明につながる物質として注目されています。

症状

進行性の疾患で、初発症状は上肢の脱力、下肢の脱力、あるいは構音障害などさまざまですが、いずれ全ての筋肉に及びます。呼吸筋に症状が及び、自分自身で呼吸困難となる時期については個人差がありますが、通常2-3年です。

治療法・対処法

原因不明なため治療も難しい点があります。治療薬としてリルテックの内服治療があり、グルタミン酸という興奮性アミノ酸に対する保護効果で運動ニューロンの変性を軽減する効果があることが知られています。ラジカットという、酸化ストレスに対して運動ニューロンを保護効果が期待されている点滴薬も昨年あたりから使用が認められています。これらの治療は病状の進行を遅らせる効果が期待されていますが、基本的にこの疾患は進行性なため、四肢麻痺、嚥下障害、構音障害、呼吸障害などの進行出現に対する対症療法が主体となります。
療養期間は人工呼吸器を装着する場合とそうでない場合とで大きく異なります。人工呼吸器を装着した場合、療養生活はしばしば10数年からそれ以上になります。装着しない場合は数年以内になりますが、呼吸困難感に対する緩和治療などが必要になります。いずれの療養生活を送られる場合も、四肢の麻痺などで早々に通院困難となり、自宅または施設、療養型病院での療養生活が必要になります。また、療養生活には家族のほか、医師、看護師、保健師など複数のスタッフの関係したサポートチームが必要になります。
様々な疾患が四肢麻痺、言語障害、嚥下障害等ALSと似た症状をきたす可能性があります。当院は充実した診断機器を備えているばかりでなく、神経疾患専門病院であるがゆえの多くのALSの経験及び類似症状の疾患の経験をもとに、精度の高い診断をしています。診断だけではなく、当院はALSについて初期から進行期までの病状、症例について豊富な経験を蓄積しています。とりわけ、進行したALSの一部では陰性兆候として障害されないと言われている眼球運動も障害される症例も多く診療しております。また、ALSの全経過に対応すべく、診断、告知からリハビリテーション、退院後の在宅療養など療養に対する支援を様々な医療スタッフが協力した、言わばサポートチーム体制で積極的に行っているのは当院の特徴の一つです。とりわけ、進行するALSに伴うコミュニケーション障害という、実際には大事な問題であるが、あまり取り組まれることのない問題に対しても補助機器の導入を積極的に行い、時には他施設との共同研究で脳波や脳血流を応用したコミュニケ―ション手段の開発にも関わっています。

患者さんへのワンポイントアドバイス

ALSと診断されるまでにかなりの期間を費やしてしまう例が少なくありません。手足の動きにくさということから整形外科を受診、あるいは精神的問題で身体に異常を感じているのではないかと精神神経科を受診したりと紆余曲折を経て診断されることがしばしばあります。診断が遅れることは療養生活に数なからず影響を与えます。手足の動き、しゃべりにくさなどに違和感、異常を感じたら、迷わず当科を受診していただきたいと思います。

当科の専門医

清水 俊夫