当院における遺伝性乳がんに対する取り組みについて

遺伝性乳がんとは

日本国内では、年間6万人の方が新たに乳がんと診断されておりますが、そのうち5%前後の方が遺伝性の乳がんと考えられており、遺伝性乳がんでは乳がんを発症する原因となる遺伝子の異常を特定できることがあります。発症の原因となる異常を起こす遺伝子として最もよく知られているのがBRCA1遺伝子と、BRCA2遺伝子の2つの遺伝子です。

BRCA1またはBRCA2のいずれかに病気を起こす可能性の高い遺伝子の変化(病的バリアント)がある場合、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(Hereditary Breast and/or Ovarian Cancer Syndrome: HBOC)と診断され、外国のデータでは70歳になるまでの間に40%~90%の方が乳がんを、10%~60%の方が卵巣がん(卵管がん、腹膜がんを含む)を発症すると報告されています。また、HBOCと診断をされると乳がんや卵巣がんの他にも、前立腺がんやすい臓がんの発症のリスクが一般集団よりも上昇すると報告されております。

日本ではこのHBOCに関する研究が諸外国に比べて大きく遅れているため、BRCA1/2遺伝子に病的バリアントがある日本人女性に、どの程度の乳がん・卵巣がんの生涯発症率があるかについては詳しくはわかっておりませんが、日本人乳がん患者を対象にした大規模研究の結果、約4%にBRCA1/2遺伝子の病的バリアントがあることが報告されており、本邦女性においてもBRCA1/2遺伝子がもっとも頻度が高く、乳がんの発症リスクを高く上昇させる遺伝性乳がんの原因遺伝子であるといえます。

2020年4月からは乳がんや卵巣がんの家族歴がある場合や、若年で乳がんを発症した場合など臨床的にHBOCが疑わしい場合には保険診療でBRCA1/2の遺伝子検査を受けることが可能になりました。

また乳がんもしくは卵巣がんの既往歴がない方でも、血縁者に乳がんや卵巣がんの人が多い場合やHBOCと診断された方がいる場合などには自費でBRCA遺伝学的検査を受けることも可能です。

遺伝性乳がん・卵巣がんカウンセリング外来について

遺伝学的検査は自身の生まれ持った体質を調べる検査であり、この検査で分かった体質自体は変えることのできない結果となります。また検査を受ける目的や検査で得られるメリット・デメリットはひとによって変わることが予想されます。遺伝学的検査以外にも予防的な手術についての相談や家族についての相談など、遺伝学的検査を受ける以外の場面であっても、遺伝の問題に向き合われるときにはひとそれぞれ様々な決断が必要な場合があります。

HBOCや遺伝学的検査についての理解を深めていただき、あなたらしい意思決定のお手伝いを行う外来が『遺伝性乳がん・卵巣がんカウンセリング外来』です。

遺伝学的検査は保険適用で検査を受ける場合でも、自費で検査を受ける場合でもこの遺伝性乳がん・卵巣がんカウンセリング外来を受けていただくことが必須となります。

『遺伝性乳がん・卵巣がんカウンセリング外来』の詳細については下記関連リンクよりご参照ください。

遺伝学的検査について

当院で扱っている乳がん・卵巣がんに関わる遺伝学的検査は以下の通りです

検査の名前調べる遺伝子検査費用について
BRCA1/2遺伝子検査BRCA1,BRCA2保険適応
BRCAssureBRCA1,BRCA2自費診療
マルチ遺伝子パネル検査BRCA1,BRCA2,CDH1,TP53,STK11,
PTEN,ATM,CHECK2,PALB2
自費診療
血縁者診断上記の遺伝子うち,すでに血縁者で病的バリアントが検出されているもの自費診療

BRCA1/2遺伝子を調べる保険の検査と自費の検査の他に、当院では乳がんの発症に関連した遺伝子9個を調べる検査もあります。また、血縁者に見つかった遺伝子の病的バリアントについて、同じ病的バリアントを保有しているかどうかを調べる血縁者診断もあります。

それぞれの検査については、下記の遺伝性乳がん・卵巣がんカウンセリング外来担当者にお問合せください。
遺伝学的検査は検査の種類に関わらず、採血で得られた血液を用いて調べられます。

病的バリアントが検出された場合について

保険診療にて遺伝学的検査を受け、病的バリアントが検出された場合には乳がんや、卵巣がんの早期発見・予防のために以下のような医療が推奨されています。自費の検査で病的バリアントが検出された場合でも推奨は変わらないのですが、推奨される医療には原則健康保険が適応されないことに注意が必要です。

病的バリアント

乳がんに関しては早期に発見するため造影MRIなどを用いた定期的なチェック(サーベイランス)を乳がんの治療を専門医に行っている施設で受けていくことが推奨されます。また患者様の希望があって、かつ主治医が適用と判断をした場合には、乳がんを発症する前の乳房を予防的に切除するリスク低減乳房切除が選択されることもあります。

卵巣がんのサーベイランスに関して、ガイドラインでは30~35歳くらいから半年ごとに経腟超音波検査や腫瘍マーカーのチェックを行うことが示されておりますが、これらの検診については医学的な推奨度合は低く、卵巣がんを早期に発見することの実証がされておりません。卵巣がんの場合、基本的にがんを発症するまえの卵巣および卵管を予防的に切除するリスク低減両側卵管卵巣切除が第一の推奨となります。

 その他、検査陽性者が男性である場合や、BRCA1/2遺伝子以外の遺伝性乳がんの関連した遺伝子に病的バリアントが検出された場合などでも、相談を受けることができます。

外来担当者と関連リンク