多系統萎縮症(MSA)の栄養状態

2017年4月13日
脳神経内科 長岡 詩子

神経難病では、栄養状態が変化することが良く見られます。例えば、パーキンソン病では、進行に伴い体重が減少することが知られています。筋萎縮性側索硬化症では、病初期の体重減少が強い程予後が不良と報告されています。これらは嚥下障害が出現していなくてもみられており、背景に異常な代謝状態が想定されています。

多系統萎縮症(MSA)ではどうかと言うと、我々のデータでは、罹病期間が長くなるにつれ体格指数(BMI)と上腕三頭筋周囲長(%AMC;筋蛋白量を推定する指標)は減少しますが、胃瘻造設や気管切開が施行された後の進行した段階では、上腕三頭筋皮脂厚(%TSF;体脂肪を推定する指標)が増加していました(臨床神経 2010;50:141−146)。すなわち、比較的早期の段階では嚥下障害の出現ともに体重が減少しますが、進行した段階では摂取カロリーが少なくても体脂肪が増加しやすいことがわかりました。

しかし、進行期のMSAでは、体脂肪が増加して体重減少がみられなくても、血清アルブミン値やコレステロール値の低下がみられ、低栄養状態を示すこともわかりました(Neurological Sciences 2015;36:1471-1477, Eur Neurol. 2017;77:41-44)。つまり,体重が減っていないからといって栄養状態が良好であると油断はできないのです。

では、進行期のMSAでは、何故、体脂肪増加と低栄養状態という乖離が生じるのでしょうか?何故、体脂肪が増加しやすいのでしょうか?我々は、脂肪細胞から分泌されるホルモンであるレプチンに注目し、これを測定いたしました(Neurological Sciences 2015;36:1471-1477)。レプチンは、視床下部に作用し、食欲の抑制、交感神経活動亢進によるエネルギー消費の増大を介して体重減少作用をあらわします。肥満者では、レプチン濃度が高くなっているもののレプチンによる刺激に鈍感になり、体重減少が起こりません。これを肥満者におけるレプチン抵抗性と言います。

進行期のMSAでは、TSFすなわち体脂肪が増加するのに伴いレプチン値が上昇していました。一方、MSAの重要な症状のひとつに自律神経障害がありますが、この自律神経障害が出現してからの期間と、TSFで補正したレプチン値(レプチン/TSF)に相関がみられました(図1)。つまり、自律神経障害が進むにつれ、体脂肪とは関係なくレプチン値が上昇することが示唆され、MSAでは自律神経障害によりレプチンがうまく働かず(つまりレプチン抵抗性の状態にある)体脂肪増加につながっているのではないかと考えられました。

MSAでは、(1)自律神経障害進行とともにレプチン抵抗性をきたし体脂肪が蓄積しやすい。(2)体脂肪が多くても低アルブミン血症や低コレステロール血症をきたしうる。これらのことをふまえて、MSAでの栄養管理を考えていく必要があると思われます。

図1:自律神経障害が出現してからの期間と補正レプチン値との相関