保存期腎不全 Advanced Chronic Kidney Disease(Advanced CKD)
病気について
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease; CKD)とは、『腎臓のはたらきが悪い』『腎臓の形が小さかったりいびつだったりする』『尿検査で異常がある』といった状態が、長く続いた状態のことを言います。さらに腎機能が良い方から悪い方に行くにしたがって、CKDはステージ1から5まで割り振られています(表1)。CKDステージ5を末期腎不全(End-stage Kidney Disease; ESKD)と呼び、腎代替療法(透析や腎移植などの腎臓の機能を代わりに補う治療)が必要となる直前、または必要となった状態のことを指します。腎代替療法に向かう途中の、腎機能がある程度以上悪くなった状態のことを保存期腎不全と呼びます。明確な定義はありませんが、様々な合併症を引き起こすCKDステージ3から5の腎代替療法開始前までを指すことが一般的で、目安としては健康な方の半分以下の腎機能に相当します。
表1】小児CKDのステージ分類
病期ステージ | 重症度の説明 | GFR*1 (mL/分/1.73m2) | |
---|---|---|---|
1 | 腎障害*2が存在するがGFRは正常または亢進 | ≧90 | |
2 | 障害が存在しGFR軽度低下 | 60-89 | |
3 | 腎障害が存在しGFR中等度低下 | 保存期腎不全 | 30-59 |
4 | 腎障害が存在しGFR高度低下 | 15-29 | |
5 | 期腎不全 | 腎代替療法 | <15 |
*1 腎障害:蛋白尿、画像検査異常、病理組織検査異常などの腎臓にまつわる各種異常
*2 GFR:糸球体濾過量=腎臓で血液から尿をどれくらい作っているか(正常値は120 mL/分/1.73m2程度)
疫学
2010年から日本小児CKD研究グループがおこなっている小児CKDの実態調査と前向きコホート研究では、保存期腎不全に相当する日本人小児のCKDステージ3-5(生後3ヶ月から15歳以上、末期腎不全は除く)の447人に関して調査がおこなわれ、保存期腎不全の有病率は小児人口100万人あたり2.98人との結果でした1)。保存期を含めた腎不全の原因疾患の中心は、以前はIgA腎症などの慢性糸球体腎炎でしたが、学校検尿の普及や治療法の向上によりこれらが原因で腎不全に至ることは以前よりも少なくなりました。その結果、生まれつきの病気が腎不全の原因の多くを占めるようになり、前述の研究では保存期腎不全の原因疾患のうち、先天性腎尿路異常(Congenital Anomalies of Kidney and Urinary Tract; CAKUT)が447人中278人(62.2%)と最も多い、との結果になりました。
1) CAKUTとは腎臓や尿路(尿の通り道)における、特に形を中心とした生まれつきの異常全般のことを言います(詳細に関しては『先天性腎尿路異常』の項目をご覧ください)。なお前述の研究では、水腎症57人、巨大尿管症19人、後部尿道弁20人と、腎臓だけではなく尿路異常も同時に認めやすいことも明らかとなりました2)。
症状・診断
腎臓はおもに『血液の中から不要なもの(老廃物など)を尿の中へ捨て、蛋白質やミネラルなど必要なものだけ血の中に戻す』というはたらきをしている臓器です。しかし同時に、赤い血液のもとになる細胞(赤血球)の合成を刺激するホルモン(エリスロポエチン)を作っている臓器でもあり、また体にカルシウムとリンを供給し骨を作るように促す物質であるビタミンDを活性化するはたらきを持つ臓器でもあります。
末期腎不全になると老廃物がたくさん溜まり体の調子が悪くなるため、食欲が落ちたり疲れやすくなったりするようになります(これを尿毒症と呼びます)。これらの老廃物(尿毒症物質)を取り除くために透析や腎移植などの『腎代替療法』が必要となります。保存期腎不全ではそこまでの症状は認めないものの、
- 腎性貧血:赤血球が作られにくくなり貧血を認めるようになる
- CKD-MBD(骨ミネラル代謝異常):骨形成のバランスが崩れて骨が脆くなったり血管が石灰化したりする
- 高血圧:悪くなった腎臓の血の巡りを改善しようとして血圧が上がり、心臓の負担や血管の傷みにつながる
- 蛋白尿:傷んだ腎臓から蛋白が漏れ出ることがあり、これがさらに腎臓を傷めてしまうという悪循環に陥る
- 成長障害:溜まった老廃物が成長ホルモンのはたらきを妨げるため身長が伸びなくなる
といった症状が出始めるようになるため、注意深く経過を見ていく必要があります。
保存期腎不全の診断は、基本的には血液検査でクレアチニンという項目を測定することで判断しています。クレアチニンの正常値は、年齢や性別によって異なるため、CKDステージ判定表等を参考にします(表2)。ほかにもシスタチンC、β2ミクログロブリンといった検査項目も併せて評価することで、より精確な評価が得られます。
いちばん正確な検査はイヌリンクリアランスという検査です。検査用の薬(イヌリン)を点滴しつつ尿検査と血液検査をおこない、どれくらい検査薬が尿の中へ出てくるのかを調べることで腎機能を評価します検査。この検査は入院でおこなう検査になるため精確な評価が必要な方にのみお勧めしています。
【表2】小児血清クレアチニンによるCKDステージ判定表(mg/dL)
3か月以上12歳未満(男女共通) | ||||
---|---|---|---|---|
年齢 | ステージ2 | ステージ3 | ステージ4 | ステージ5 |
3~5か月 | 0.27~ | 0.41~ | 0.81~ | 1.61~ |
6~8か月 | 0.30~ | 0.45~ | 0.89~ | 1.77~ |
9~11か月 | 0.30~ | 0.45~ | 0.89~ | 1.77~ |
1歳 | 0.31~ | 0.47~ | 0.93~ | 1.85~ |
2歳 | 0.33~ | 0.49~ | 0.97~ | 1.93~ |
3歳 | 0.37~ | 0.55~ | 1.09~ | 2.17~ |
(Ishikura K, et al.: Nephrol Dial Transplant 2013; 28: 2345-55.より改変)
治療
治療の中心は大きく、
[1] 腎機能障害の進行を遅らせること
[2] 貧血などの合併症に対する対応
の2つに分かれます。
[1]腎機能障害の進行を遅らせる治療
まず腎機能障害の進行を遅らせるために、適切な血圧となるように食事療法や降圧薬治療をおこないます。さらに蛋白尿を認める場合には、蛋白尿を減らす作用を持った降圧薬を使用することがあります。また尿があまり出ないために水分が溜まって血圧が上がってしまう場合には、塩分摂取量を減らすことにより飲水量を減らしていただくこともありますし、利尿薬を使用することもあります。反対に尿がたくさん出てしまう場合には、脱水により腎臓が傷んでしまうため飲水や塩分摂取を多めにしていただくこともあります。
[2]貧血などの合併症に対する対応
合併症に関しては、定期的に血液検査や骨の検査、身長測定をおこないながら症状が出てくるかを注意深く見ていき、必要になった時点で治療を開始します。
まず貧血については、赤血球の原料となる鉄分が不足する場合には鉄剤を内服していただくとともに、ホルモン不足に関しては定期的に皮下注射または静脈注射でエリスロポエチン製剤を使用します。
CKD-MBDについては、骨の成分のひとつであるリンが過剰になることが原因のひとつであり、腸からのリン吸収を妨げる薬を食事の前後で内服していただきます。また不足しているビタミンDを補うために、ビタミンD製剤を使用することもあります。
身長の伸びが悪い場合には、成長ホルモン製剤を皮下注射することもあります。
ほかにも酸-アルカリのバランスが崩れて酸性に傾くこともあり、その場合にはアルカリ製剤を内服していただくこともあります。
また尿毒症症状を抑えるために、尿毒症物質を吸着する薬を内服していただくこともあります。
基本的に適切な食事を摂っていただければ日常生活に制限はありません。むしろ適度な運動は推奨されており、適度な有酸素運動をお勧めしています。
注意点として、保存期腎不全の方は、いくつかの薬剤で投与量を調整する必要があります。風邪薬を含めた市販のお薬や他の医療機関でお薬を処方してもらう場合には、腎臓病専門医師や薬剤師さんと薬用量を確認する必要があります。
予後
前述の調査では、末期腎不全へ進行する危険因子としては『保存期腎不全の中でもCKDステージが高いこと』『原因疾患がCAKUT以外であること』『蛋白尿が多いこと』『年齢が思春期以上』であることが明らかとなっています3)。
病気によって差はありますが、保存期腎不全の患者さんは将来的に腎代替療法が必要な末期腎不全になる可能性があります。CAKUTではステージ3の15%程度、ステージ4の70%程度、ステージ5の90%程度、CAKUT以外(慢性腎炎など)ではステージ3の30%程度、ステージ4の80%程度、ステージ5の90%程度が、それぞれ5年以内に腎代替療法が必要な末期腎不全に進行します。
保存期腎不全の段階で腎代替療法について説明の時間を設けております。個別に最良の選択肢を選んでいけるようにご協力させていただければと思います。
引用文献
- Ishikura K, et al.: Pre-dialysis chronic kidney disease in children: results of a nationwide survey in Japan. Nephrol Dial Transplant 2013; 28: 2345-55.
- Ishikura K, et al.: Insignificant impact of VUR on the progression of CKD in children with CAKUT. Pediatr Nephrol 2016; 31: 105-12.
- 厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等克服研究事業)平成28年度分担研究報告書.