腎臓・リウマチ膠原病科 先天性腎尿路異常

先天性腎尿路異常(低形成・異形成腎、多嚢胞性異形成腎、水腎症、膀胱尿管逆流など)

先天性腎尿路異常
(Congenital anomalies of the kidney and urinary tract: CAKUT)

病気について

先天性腎尿路異常は様々な腎尿路の形態異常の総称です。日本の小児の末期腎不全の原因疾患の約40%を占め、最も頻度が高い疾患です。1 最も重要な合併症は腎機能障害です。

低形成腎・異形成腎

病気について

先天性腎尿路異常の中に低形成・異形成腎が含まれます。いずれも腎臓が形作られる段階で何らかの異常を生じたもので、低形成腎は腎長径が小さくネフロン数が少ないもの、異形成腎は腎には本来存在しないものを含む疾患です。低形成腎と異形成腎を区別するのは困難で、臨床的には低形成・異形成腎として一括りにして取り扱われることが多いです。

疫学

北米のデータでは出生1000人あたり3~6例に生じると報告されています2。日本でも出生1300人あたり1例という報告もありますが3、日本から慢性腎臓病(詳細は『保存期腎不全』の項目をご参照ください。)のstage 3-5の方の62%に先天性腎尿路異常を認めたという報告があります4

症状

低形成・異形成腎の症状としては希釈尿が最も特徴的です。腎臓は必要な分の水やナトリウムなどを取捨選択しており、再吸収もしていますが、低形成・異形成腎では水やナトリウムの再吸収障害を生じるため、水やナトリウムを失います。そのため、経口摂取不良時には容易に脱水となります。他には、蛋白尿や成長障害、尿路感染症を多く認めます。脱水やナトリウム不足が慢性的に続くことで成長障害をきたします。低形成・異形成腎では膀胱尿管逆流や下部尿路障害の合併率が高く、尿路感染症のリスクとなります。尿路感染症の遷延や反復は腎瘢痕形成のリスクと考えられており、腎瘢痕は高血圧や蛋白尿、腎機能障害の原因となります。これらにより二次的な腎機能障害が進行します。

診断

低形成・異形成腎の診断は超音波検査が基本です。腎臓は小さく、腎の長さが年齢ごとの基準値以下の場合低形成腎と診断されます。また、分腎機能(左右それぞれの腎機能)評価のため核医学検査を行い、合併する尿路異常の評価に排尿時膀胱尿道造影(VCUG)やMRIを行うことがあります。両側の低形成・異形成腎では、腎機能障害を反映して血液検査で種々の程度の血清クレアチニン値の上昇を認めます。尿検査では異常が見られないことも多く、異常があっても多くは軽度の蛋白尿のみであることが多いです。

治療

低形成・異形成腎は腎臓のつくりの問題であり、根治する治療法はありません。しかし、腎機能障害や膀胱尿管逆流などの合併症に対する管理・治療をする必要があります。水やナトリウムの再吸収障害を認める場合、水やナトリウムの補充が必要となります。腎機能障害が進行し、慢性腎臓病となった場合の管理方法は『保存期腎不全』の項目をご参照ください。膀胱尿管逆流などの尿路異常の治療については後述いたします。

予後

腎機能障害は成長の過程で進行するため、早期発見・管理が必要です。すべての低形成・異形成腎が腎機能障害を呈するわけではありませんが、診断時もしくは経過観察中に反対側の代償性肥大を認めないものや、泌尿器科的な合併症があるもの、尿蛋白が多いものについては注意深い観察が必要です。感染症や脱水が原因で急速に腎機能低下が進行する場合があります。低年齢児期に比べて、思春期以降では体格が大きくなるにつれて腎機能低下の進行が早くなると言われています。腎機能障害が進行し、末期腎不全に至った場合は腎代替療法(腹膜透析・血液透析・腎移植)が必要となります。

多嚢胞性異形成腎

病気について

多嚢胞性異形成腎(multicystic dysplastic kidney:MCDK)は嚢胞(ふくろ)形成を主体とする異形成腎です。先天性腎尿路異常のうち頻度の高いもののひとつです。多発性あるいは孤発の嚢胞を腎臓に認めます。嚢胞の大きさは1cmから5cm程度のものまで様々です。正常の腎組織は存在せず。尿管はほとんどの症例で完全に閉塞しています。

疫学

胎児エコーで発見される例が多く、頻度は出生4300例に1例5といわれています。男児に多いとされ、多くは片側性であり、両側性も20%に認めます。

症状

乳児期以降に腹部腫瘤で発見されることもあります。合併症として反対側の腎に腎尿路異常(膀胱尿管逆流症、腎無形成、腎低形成)を39%認めます6。なかでも膀胱尿管逆流症が最も多く、尿路感染症の原因となります。膀胱尿管逆流症の合併率は5-43%といわれています7。胎児期に反対側の腎が正常であれば羊水量も保たれ、正常に生まれてきますが、両側MCDKでは羊水が産生されなくなるため胎児期や新生児期・乳児期に死亡することもあります。

診断

超音波検査で診断します。様々な大きさの嚢胞が観察されますが、それぞれに交通性はなく、嚢胞と嚢胞の間には壁が存在し、正常な腎組織は認められないなどの特徴があります。通常は反対側の腎の代償性肥大を認めます。代償性肥大を認めない場合は対側も低形成腎・異形成腎である可能性があります。また、幼児期に萎縮をしていることがあり、無形成腎との鑑別は困難です。核医学検査のDMSAシンチグラフィにより無機能腎を確認します。反対側の腎は通常、代償性に核種の摂取率が増大します。
以前はウィルムス腫瘍など悪性腫瘍の合併率が高いといわれていましたが、現在では明確な根拠はないとされています。超音波検査で反対側の腎臓の形態異常が疑われる場合には、超音波以外に造影検査(VCUG)などを行い、膀胱尿管逆流症の評価を行います。

治療

自然退縮傾向があり、重篤な合併症の頻度も低く、基本的には高血圧などの合併症および腎機能の経過観察をします。
膀胱尿管逆流症があり尿路感染症を繰り返すようであれば、反対側の正常の腎を保護するために抗菌薬の予防内服や膀胱尿管逆流症に対する手術を検討します。

予後

腎機能予後は、反対側の腎に異常がなければ良好ですが、両側のMCDKや反対側の腎尿路異常を認める場合は腎機能低下を認めることがあります。

水腎症

病気について

腎臓で作られた尿は尿の通り道(腎盂から尿管)を通って膀胱内に流れます。水腎症とは腎臓内の尿の通り道(腎盂・腎杯)が拡張した状態です。尿の通り道が狭くなった場合(腎盂尿管移行部狭窄や膀胱尿管移行部狭窄)や、膀胱尿管逆流が原因となります。尿管が拡張した場合は水尿管や巨大尿管と呼びます。

疫学

胎児期に発見される水腎症の頻度は800-1500人に1人と言われ、その60-80%が腎盂尿管移行部狭窄と言われています。

症状

最近は胎児超音波検査で発見されることが多くなっています。一方、尿路感染症や腹痛、腹部腫瘤、消化器症状、血尿・蛋白尿などを契機に超音波検査が行われ、偶然に発見されることもあります。 水腎症は程度が強くなければ症状はありません。しかし、姿勢の変化で腎盂尿管移行部の通過障害が増悪したり、水分の多量摂取で腎盂が拡張し、腎右尿管移行部の通過障害が悪化したりすることで一時的に水腎症の悪化を生じる場合があります。それを「間欠的水腎症」といいます。年長児で側腹部痛を繰り返し、時に吐き気・嘔吐を伴う場合があります。

診断

診断は超音波検査で行います。重症度によりgrade 1~4に分類します(参考資料参照)。水腎症の原因に膀胱尿管逆流が関与しているかどうか排尿時膀胱尿道造影で調べることがあります。当科では尿路感染症の既往のある水腎症の方やgrade 3以上の高度水腎症の方に検査を行っています。grade 3以上の高度水腎症の場合は腎機能低下を来すことがありますので、定期的な超音波検査、核医学検査(腎動態検査:レノグラム、MAG-3)で分腎機能(左右それぞれの腎機能)や通過障害の程度の確認、外部からの圧迫など周辺臓器との関係をみるためにCTやMRI検査、血液検査で腎機能評価などを行います。

治療

grade 1-2の軽度水腎症の場合は治療を必要とせず、定期的な超音波検査をして経過観察します。 症状がある場合や両側の高度水腎症では手術を検討します。片側で症状がない場合でも、高度水腎症の場合、出生後から徐々に増悪する場合、腹部正中を超える巨大水腎症、腎機能の低下、分腎機能の低下などがあれば手術を検討します。

予後

grade 1の軽度水腎症では腎機能低下をきたすことなく自然軽快します。grade 2では一部に水腎症が増悪したという報告がありますが、多くが自然軽快します。grade 3-4では自然経過する例も少なくないですが、手術に至る可能性も高いです。手術になった場合、術後には水腎症はほとんどの症例で改善し、悪化症例は5%未満といわれています。

参考資料

水腎症の重症度分類 (SFU分類と日本小児泌尿器科学会分類)

水腎症の重症度分類の画像

GradeSFU分類日本小児泌尿器科学会分類
0水腎症なし水腎症なし
1腎盂の拡張のみ腎盂の拡張のみ
2腎盂の拡張と一部腎杯拡張腎盂拡張にくわえ、拡張した腎杯が数個観察
3腎盂拡張とすべての腎杯拡張腎盂拡張が腎外にまで進展
すべての腎杯拡張
4腎実質の菲薄化を伴う腎杯が凸型に実質内に突出し実質の菲薄化を伴う

膀胱尿管逆流

病気について

膀胱尿管逆流(vesicoureteral reflux:VUR)は膀胱内の尿が腎臓に逆流する現象です。正常であれば逆流は起こりませんが、膀胱尿管移行部の先天的な形成不全や下部尿路障害などがある場合に起こります。

疫学

乳幼児のおよそ1%に認めるというものもありますが、正確な発生頻度は不明です。小児の尿路感染症の30-50%に認めます8。出生前診断で先天性水腎症と診断された場合もVURであることがあります。

症状・診断

VUR自体による症状はありません。VURを契機に尿路感染症を発症した場合には発熱などの症状があります。診断は排尿時膀胱尿道造影(voiding cystourethrography: VCUG)を行います。VURの程度によりgrade I~Vの5段階に分類します(参考資料参照)。VCUGで逆流の程度、蓄尿時の膀胱形態や排尿時の尿道形態を観察し、VURの有無・下部尿路障害の有無について判断します。 VURにより尿路感染症が発症した場合、腎瘢痕が形成され、腎障害が残ることがあります。VURによる腎障害は逆流性腎症とよばれます。腎瘢痕の評価にはDMSA(dimercaptosuccinic acid)腎シンチグラフィ(腎静態シンチグラフィ)が有効であり、当科では尿路感染症を発症して約半年後に検査をしています。

治療

VURの治療目標は尿路感染症と逆流性腎症を予防することです。尿路感染症の再発予防策についてはさまざまな議論があるところですが、当院ではVUR grade 3~5の方に関しては抗菌薬の予防内服を行っています。また、VURに影響を与える因子として株尿路の症状や便秘があります。それらを改善するため、定期的な排尿や抗コリン薬の内服、緩下薬を使用することがあります。予防内服下でも尿路感染症を認める場合には手術が考慮され、手術適応に関しては経過に応じて泌尿器科医師と相談して患者さん毎に決定しております。

予後

新生児・乳児では下部尿路の機能的未熟性がVURに関与しており、成長に伴い下部尿路機能が成熟し、VURの自然消失が期待されます9。一方、年長児以降のgrade 3~5のVURは自然消失が期待しにくく、就学前の手術が検討されます。
逆流性腎症は小児期から若年者の末期腎不全の原因として重要な疾患です。生まれた直後からすでに始まっていることもありますが、身体成長が著しくなる思春期に明らかになることもあります。腎機能障害の程度に応じて慢性腎臓病として管理する必要があります。

参考資料

膀胱尿管逆流の画像

Grade検査所見
Grade Ⅰ尿管のみの逆流。
Grade Ⅱ尿管、腎盂、腎杯に及ぶ逆流。尿路の拡張、変形はない。
Grade Ⅲ尿管、腎盂の軽度の拡張あり。腎杯の変形は無いか軽度。
Grade Ⅳ尿管、腎盂の中等度の拡張あり。腎杯の変形あり。
ただし多くの腎杯で腎乳頭による陥凹は残る。
Grade Ⅴ尿管の高度拡張や蛇行が認められ、腎盂腎杯の高度の拡張も認められる。腎杯の腎乳頭による陥凹は失われる。

引用文献

  1. Hattori M, Sako M, Kaneko T, et al. End-stage renal disease in Japanese children: a nationwide survey during 2006-2011. Clin Exp Nephrol 2015;19:933-8.
  2. Toka HR, Toka O, Hariri A, et al. Congenital anomalies of kidney and urinary tract. Semin Nephrol 2010;30:374-86.
  3. Hiraoka M, Tsukahara H, Ohshima Y, et al. Renal aplasia is the predominant cause of congenital solitary kidneys. Kidney Int 2002;61:1840-4.
  4. Ishikura K, Uemura O, Ito S, et al. Pre-dialysis chronic kidney disease in children: results of a nationwide survey in Japan. Nephrol Dial Transplant 2013;28:2345-55.
  5. Hains DS, Bates CM, Ingraham S, et al. Management and etiology of the unilateral multicystic dysplastic kidney: a review. Pediatr Nephrol 2009;24:233-41.
  6. Kleiner B, Filly RA, Mack L, et al. Multicystic dysplastic kidney: observations of contralateral disease in the fetal population. Radiology 1986;161:27-9.
  7. Aslam M, Watson AR. Unilateral multicystic dysplastic kidney: long term outcomes. Arch Dis Child 2006;91:820-3.
  8. Levitt S, Weiss R. Vesicoureteral reflux: naturalhistory, classification and reflux nephropachy.In: Clinical Pediatric Urology(ed by Kelalis PP, et al). Saunders, Philadelphia 1985:p355.
  9. Yeung CK, Godley ML, Dhillon HK, et al. Urodynamic patterns in infants with normal lower urinary tracts or primary vesico-ureteric reflux. Br J Urol 1998;81:461-7.