肺がんの診断、放射線治療 ステージごとに解説

肺がんとは

肺がんは肺のおもに小さい気管支の細胞から発生します。もともと肺や気管支の細胞であったものが癌になったものを原発性肺癌といいます。
60歳以上の喫煙者に多い病気ですが、それ以外の方でも罹患することがあります。喫煙率は減少傾向ですが、高齢化に伴い国内では増加を続けています。
また、もともと他の臓器にあったがんが肺に転移した場合は肺癌とは区別して転移性肺腫瘍と呼ばれ、治療方針も原発性肺癌とは異なります。

肺がんの診断

肺がんが疑われる患者さんには以下のような検査を受けていただきます。さまざまな角度から患者さんの状態と病気の広がりを評価して的確な治療を行うためのものです。

画像検査

  • 胸部単純写真(レントゲン)
  • CT
  • 頭部MRI
  • PET-CT

生理検査

  • 呼吸機能検査
  • 心電図検査

病理検査

  • 組織診断
  • 遺伝子変異検査

進行病期(ステージ)ごとの治療方針

肺がんの治療は進行病期ごとに方針が変わります。以下のような治療が行われることが多いですが、全身状態などによってはその他の治療を選択することや、治療を見合わせることもあります。

進行病期(ステージ)病気の広がり治療方針
I期(1期)病変が肺に限局している手術
II期(2期)病変が肺と近くのリンパ節にある手術
III期(3期)病変が大きい、または遠くのリンパ節に転移している化学療法と放射線治療
IV期(4期)遠隔転移がある化学療法

患者さんの状態や施設により少しずつ方針が変わります。下の記載もご覧ください。
*手術や、画像検査を追加するうちにステージが修正されることもあります。

I期肺がんへの定位放射線治療

病気が肺にとどまっていて、リンパ節に転移がない場合は手術が標準治療です。ただし、その中には高齢の方や他に持病があって手術がむずかしい患者さんがいらっしゃいます。
放射線治療技術の進歩に伴い、最近ではそのような患者さんを対象に狭い範囲に強い放射線治療を行うことで、従来の方法よりも良好な局所制御成績が報告されています(SBRT: Stereotactic Body Radiation Therapy定位放射線治療、定位照射とよばれます)。
この技術は1990年頃から世界で開発が始まり、日本からの報告が技術の発展の過程に大きく寄与してきました。2004年からは国内で保険適応となり、放射線治療の設備も充実し国内でも多くの人がこの治療を受けるようになりました。
最近では肺がん診療ガイドラインにも定位放射線治療が掲載されるようになり、手術が難しいI期の肺がん患者さんに考慮されるべき治療として位置づけられています。

当院ではTrueBeam, Vero-4DRTまたはCyberknife(サイバーナイフ)という治療装置を用いて治療を行っています。正確な位置精度がひとつの特徴で、毎回治療時にCTを撮影することにより腫瘍の位置を確認して治療を行うことができます。動体追尾照射機能も備えられており、肺病変の呼吸による移動が10mmを超える場合は動体追尾照射(コンテンツは公開終了しました)をお勧めすることがあります。

東京都立駒込病院 - 肺がんの放射線治療
左肺の肺がん、リンパ節転移なし、画像検査で他の臓器への転移がないことを確認されている。
東京都立駒込病院 - 肺がんの放射線治療
定位照射の一例、腫瘍の進展する範囲と、動きうる範囲を十分カバーするように照射範囲を設定する。

定位照射の技術に目をとらわれがちですが、まずはこの治療がふさわしいかの十分な検討と判断が重要です。ご自身の病状について主治医の先生とよく相談してください。
東京都内を中心に多くの施設から定位照射に関する紹介をいただいております。呼吸状態の評価や全身療法の適応の判断には呼吸器の診察が欠かせない重要なものと考えています。治療終了後も共同で経過観察いただくようにお願いしています。

III期の肺がんへの放射線治療

当科ではIII期の肺がんには化学療法(抗がん剤)と放射線治療の併用で治療を行います。放射線治療は1日1回、週に5日、30回(6週間)行う間に、抗がん剤治療も併用して行う方法です。抗がん剤治療が適さないと判断される患者さんは放射線治療のみ行うこともあります。
根治を目指した治療ですが、治療成績が思わしくなく、長く様々な工夫を取り入れた治療開発が続けられてきました。
放射線治療の回数を30回(60Gy(グレイ))から37回(74Gy)に増加させることで治療成績が向上するかを評価する臨床試験(RTOG0617試験)があります。治療の強度の増加に伴い成績の向上が期待されましたが、結局従来の60Gyの治療を受けた患者さんと比較して、線量を増加したグループの治療成績が上回ることはありませんでした。この結果をうけ、多くの施設は60Gy程度の線量で治療を行っています。当科でも60Gy/30回/6週間のスケジュールを採用しています。
近年、薬物療法との併用療法により、治療成績が大きく改善する結果が示されました(PACIFIC試験)。化学療法と放射線治療のあとに、デュルバルマブという免疫チェックポイント薬を使用することで再発リスクが大幅に低減することが示されました。現在多くの患者さんが同治療を受けられています。

小細胞肺がんの放射線治療

小細胞がんは病変の増大が早く遠隔転移もきたしやすい腫瘍ですが、一方で一般的に治療に反応しやすい性質もあります。
遠隔転移がない限局期の場合は放射線治療と抗がん剤治療を組み合わせて行います。1日2回治療を行って短期で治療を行うと、通常の5週間で行う方法よりも治療成績が向上するという報告があるため*、小細胞肺がんでは特別に1日2回、週に5日、合計30回(3週間)の短期のスケジュールで治療を行います。
手間はかかりますが、より良い成績を追及して治療に取り組んでいます。
*ただし、副作用も多くなるとされていますので、その方法に合うかどうかは担当医の先生と相談してください。

放射線治療計画(シミュレーション)

治療計画は、治療する範囲や角度、放射線の量を決め、計算する一連の準備のことで、シミュレーションとも呼ばれます。初診で放射線治療の説明を受けていただいた後、改めて治療計画に来院していただきます。

  1. 治療を行うのと同じ姿勢で胸部のCTを撮影します。
  2. CTをもとに病変がある部位を確認してその病変に十分な放射線が照射されるようにビームの範囲、角度、放射線の量を設定します。
  3. 完成したプランが適切かどうかを、担当者(複数の医師、物理士、技師)で評価します。肺がんの治療計画では特に正常の肺にできるだけ放射線が及ばないように注意します。肺の放射線の量と副作用の出現頻度に関する過去の報告に基づき、当院では正常の肺のうち、20Gy以上放射線が照射される部分(V20Gy)を35%以下にするよう、注意して計画をしています。

III期非小細胞肺がんの治療計画

肺がん標的設定
治療計画

III期の肺がんの多くは、肺の病変から縦隔(胸の真ん中にある構造)のリンパ節に病変が転移している状態です。これらの病変に対して呼吸による移動を加味した範囲に照射を行います。
当院では肺、心臓、脊髄への影響を低減するためにIMRTを利用して治療を行っています。

DVH (Dose volume histogram)

臓器や腫瘍の体積と放射線の線量の関係を表すグラフです。

東京都立駒込病院 - 肺がんの放射線治療
オレンジ:正常の肺 黄色:脊髄 緑:腫瘍

横軸が線量(cGy: 100cGy=1Gy)で、縦軸が各臓器の体積です。
正常の肺のうち20Gy以上照射されるの(V20Gy)は30%以下です(白矢印)
脊髄の最大線量が50Gyを超えないように注意しています。(赤矢印)

代表的な副作用

治療中、治療直後に起こる副作用と、治療終了後しばらくして起きる副作用があります。診察時に副作用の有無を確認し必要に応じて副作用の対策を行います。

急性期の副作用

  • 皮膚炎・・・皮膚が日焼けしたようになる、乾燥する
  • 食道炎・・・食事がつかえる感じがする

晩期の副作用(治療後しばらくしてから起こる副作用)

  • 放射線肺炎(放射線肺臓炎)・・・放射線が照射された範囲に肺炎のように発熱、息切れの症状が出ます。一般に薬で治療を行います。当科では前述のように正常の肺に照射される線量を計算し、肺炎が起きる可能性が低くなるよう治療計画を行っています。
  • 心膜炎、胸水貯留
  • 食道狭窄(まれ)
  • 肋骨骨折(定位放射線治療を肋骨に近い病変に行った場合)

2023年4月更新 田口健太郎/清水口卓也