IMRTを用いた全身照射

強度変調放射線治療を用いた全身照射

全身照射(Total Body Irradiation: TBI)について

主に血液腫瘍に対して行われる造血幹細胞移植に先行して実施されます。大量化学療法と組み合わせて行われ、移植前処置と呼ばれています。移植前処置の目的は主に[1]腫瘍細胞を出来る限り根絶させること(抗腫瘍効果)、[2]移植片への拒絶反応の予防(免疫抑制効果)です。
TBIは優れた免疫抑制効果を有すると共に、抗がん剤では到達しにくい中枢神経や生殖器、皮膚などに存在する腫瘍細胞に対しても効果が期待できるため、移植前処置として幅広く用いられています。

強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT)について

IMRTとは高精度放射線治療技術の一種であり、放射線を当てたい標的に集中させ、守りたい臓器を避けて放射線治療を行うための方法です。頭頸部癌や前立腺癌など、標的病変と正常臓器の距離が近い場合や標的の形が複雑な場合に用いられることが多い技術です。
当院で導入しているTomoTherapy®︎を用いることでTBIにおいてもIMRTを用いることが可能となりました。IMRTを用いることで全身への放射線量は変えずに、リスク臓器(水晶体・肺・腎臓)への放射線量を評価・低減させて治療を行うことが可能となりました。

適応となる患者さん

全身照射の準備として全身を固定する器具を作成しCTを撮影します。そのCTをもとに放射線治療計画を作成します。
治療は3日間で合計12グレイを全身に照射します。1日2回(朝・夕)、計6回の照射を行い、1回あたり1時間〜1時間半の時間を要します。照射中に痛みや熱さを感じることはありません。

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実績

当院では2018年9月よりこの治療を開始し、2021年5月までにおよそ70件ほどこの治療を行なっています。
これまでに従来の方法では起こらなかったような重大な有害事象は起きていません。

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副作用

<照射後すぐに現れる可能性のある主な副作用>
倦怠感・悪心嘔吐・皮膚炎・口腔粘膜炎・唾液腺炎・放射線肺臓炎・下痢他

<照射後時間をおいて現れる可能性のある主な副作用>
白内障・肺線維症・腎機能障害・肝機能障害・性線機能低下・二次発がん他

その他の取り組み

<卵巣遮蔽>
妊孕性を温存するために卵巣及び子宮への放射線量を低減して治療を行います。

<全骨髄照射>
放射線を当てる標的を全身から血液細胞の豊富な骨髄(+リンパ節領域)へ絞って治療を行います。
全身照射では放射線量を増加すると治療効果の上乗せがあることが知られていましたが、逆に副作用も増えてしまうことから放射線量を増やすことのメリットはありませんでした。
標的を絞ることで正常臓器への放射線量を低減、標的への放射線量を増加することができます。それによって副作用のリスクを下げながら治療強度を高めることが可能となりました。
海外からは複数の報告があり、安全に放射線量の増加が行われ、良好な治療成績が期待されます。

2021年6月 小川 弘朗