臨床試験・治験とは
東京都立駒込病院で実施している治療(主に抗がん剤)に、“臨床試験”もしくは“治験”による治療が含まれております。これにつきましては、外来担当医より患者さんに参加のご提示についてお話があるかもしれません。短い外来時間の中で患者さんやそのご家族、または病気をサポートしてくださる方々に十分に理解ができるようなお話をすることは難しいと感じております。このため、こちらのページは“臨床試験について”とよくあるご質問にお答えする形で作成いたしました。このページをよく読んでいただき、治験や臨床試験に参加をしていただければ幸甚です。
よくあるご質問
臨床試験とはどのようなものでしょうか?
臨床試験とは、ある疾患(ここでは主に肺がん)の患者さんを対象に、新規治療の効果や安全性を、事前に作成された研究計画に沿って患者さんに参加をしていただき、その治療をうけていだく、科学的な研究となります。新規治療を受ける前(臨床試験に参加する前)に、研究者や参加施設で十分に科学的および倫理的に審査を受け、承認を受ける必要があります。
もっとも科学的な裏付けのある新規治療の開発や、一方で未だデータのない条件の患者さんを対象とした安全性を調査する試験など多様な試験があります。
臨床試験はがん治療、予防、診断、症状の管理について新規かつよりよい治療を観察し、評価する最も適した方法として考えられております。
なぜ、臨床試験を実施するのでしょうか?なぜ、重要なのでしょうか?
通常の診療で行われる治療のほとんどは、臨床試験の結果を基に行われています。臨床試験を行うことで、治療の進歩がなされ、将来のがん患者さんにとってより長く生きられることや副作用の少ない治療を受けることにつながります。また、臨床試験や治験治療を受けることによって、現在は一般に実施されていない治療法、もしくは承認されていない薬剤を受け、長く生きられる可能性も出てきます。もし、がんと診断された場合、是非、担当医師に現在当院で実施されている臨床試験・治験について尋ねてみてください。
臨床試験にはどのような段階(相)があるのでしょうか?
臨床試験には大きく分けて4つの段階(相)があります。最近はその中にaやbに細分化する考え方もあります。それぞれの相には科学的な疑問に対する、特定の解答を得るために計画をされます。
- 第I相試験
第I相では新規治療(単剤もしくは併用療法など)は重篤な副作用がないよう、安全に新規治療を実施することができるための最適な用量を決定します。少数の患者さんを対象とし、少量の薬剤で副作用を監視していきます。その患者さんに対して、徐々に用量を増量する、もしくは次の用量を別の少数の患者さんに対して投与することで、ある一定の副作用が発現するまで薬剤の用量を増量していきます。これにより、治療に適した用量決定を行い、次の相(第II相に移行いたします)。当院では第I相試験はほとんど実施しておりません。 - 第II相試験
第II相試験は、治療が効果あるか、もしくは第I相よりさらに多くの患者さんに参加をいただき、安全に治療ができるかを短期的な指標で効果を判定します(がんが小さくなるかどうか)。
この相の薬剤の用量と治療スケジュールは第I相試験を基に実施されます。試験結果が良好であった場合、次の相(第III相に移行いたします)。 - 第III相試験
第III相試験は、新規治療と現在の標準治療のどちらがより優れているかを比較するため、実施されます。
第III相試験へ参加される患者さんは、新規治療を受けるグループ(試験治療群)と、現在の標準的な治療を受けるグループ(コントロール群もしくは標準治療群)に振り分けられ、どちらの治療がベストか選択するために試験結果を比較します。この相の試験結果の積み重ねにより、現在の標準治療や診療ガイドラインが策定されております。
参加された患者さんは半々の確率(コンピュータで判定されます)でどちらかの試験治療群に割り付けられ、治療を受けることになります。試験によっては、担当医がいずれかの治療群に振り分けられたかわからないまま治療を実施する場合があります。これを無作為盲検化(ランダム化)と呼ばれます。
患者さんにとっては、いずれの治療を受けてもなるべくリスクが最小限になるように試験が設定されます。標準治療群に振り分けられた場合は、本来、通常の診療で受けることになりますのでリスクが増えることはありませんし、試験治療群に振り分けられた場合は新たな副作用のリスクが増える一方で、よりよい治療(数年後には標準的な治療となる)を受けるチャンスを得ることができます。
私が臨床試験に参加できるかどうかはどのようにすればわかりますか?
全ての臨床試験では、参加することができる患者さんは指針により、決められております。除外規準といって、その試験では参加することができない患者さんも多くいらっしゃいます。これらは通常、年齢、がんの種類、病期(ステージ)、からだの状況により異なってきます。
こちらについても、担当医へお尋ねください。
臨床試験に参加することで得られるメリットとリスクはどのようなものがありますか?
臨床試験への参加することで有望な新規治療を受けることができる可能性があります。全ての臨床試験が有益なわけではなく、むしろ未知のリスクを受ける可能性があることと、却ってデメリットになることもあります。これは、過去に多くの臨床試験の結果が物語っており、一方で、現在の標準治療が過去多くの試験に参加いただいた患者さんの献身によって成り立っております。
したがって、がん診療を受けている皆さんは、過去に臨床試験に参加いただいた患者さんの恩恵を得ております。このため、今、臨床試験を参加いただくことによって治療を進歩させ、将来のがん患者さんにとってより良い治療を受けるチャンスを作ることになります。このような臨床試験、治験治療はどこの施設でも実施することができるわけではなく、臨床試験・治験を実施する事務局より診療や検査の質などの評価を受け、施設として参加することができます。このように、われわれの施設は、今なお、予後の悪い肺がんの治療の進歩に貢献するため、積極的に臨床試験を推進しています。
臨床試験にも効果ではなく安全性のデータを収集するための試験から、日常臨床で行われるための、現行での標準的な治療との比較をする試験まで様々な“相”(段階)があります。いずれの試験にもメリット・デメリットがあり、これら試験を受けることはよく担当医から説明を聴いていただき、患者さん、家族の皆さんでよく検討をし、参加を決定してください。
全ての臨床試験ではリスクを伴います。新規の治療などの介入が未知の副作用やそのほかそのほかのリスクを持ちえます。既存の治療より良好かその逆に悪いかはその試験の結果出るまではわかりません。ただし、安全性の監視は常にされており、重大な副作用が出た場合は臨床試験に参加している施設に直ちに報告され、また、安全性を担保することができないと判断された場合は、その試験を直ちに中止を勧告します。
また、試験に参加してもあなたにとって有益でないことと、頻繁に外来を受ける必要がある可能性があります。
臨床試験に参加することは、安全でしょうか?
- 同意のプロセス
臨床試験へ参加を希望される場合、あなたの主治医より文書での説明と同意文書へのサインを求められます。この同意は研究の目的、どのような治療手順なのか、また、得られる可能性のあるメリットとデメリット(リスクや副作用)について詳細にご説明されると思われます。
もし、新たなメリット、リスク、副作用などが臨床試験に参加している途中に判明した場合、あらためて口頭と文書でご説明をし、サインをいただきます。その際、同意を撤回することもできます。
臨床試験へ参加することは常に自発的な意思に基づき、いつでも、いかなる理由でも参加を止めることができます。もし、あなたの健康状態にとって最も良い診療や標準治療がある場合、臨床試験への参加を継続するかしないかに関わらず、これらを受けることができます。
臨床試験にはどのような種類がありますか?
- 治験・臨床試験について
治験とは、医薬品もしくは医療機器の製造販売に際して、規制当局(本邦では独立行政法人 医薬品医療機器総合機構:PMDA)によって医薬品医療機器等法(旧薬事法)による承認を得、保険診療で実施することができるようにするための臨床試験(手続きともいえます)です。
治験には、その試験を実施する主体によって以下のように分けられます。 - 企業主導治験
一般に本邦で未承認・適応外薬を用いて製薬会社が主体となって実施する臨床試験です。例えば、新規薬剤を日本である疾患に対して保険診療ができるようにするには、以下のようなプロセスが必要となります。PMDAと事前に承認するのに必要な治療効果の見込み、そのために参加いただく患者さんの人数を設定し、特定の施設である特定の期間、治験を行います。その結果をデータとしてまとめ、承認申請を行います。
その結果に基づき、審査を行い、その薬剤の製造許可、保険診療での使用を許されます。従って、保険適応されている薬剤はすべて、治験で得られた精確なデータを基に科学的な評価がされ、評価というプロセスを経たものとなります。一方で保険適用外の治療については、研究段階のものであるか、日本人での効果安全性の評価がされていないもの、もしくは科学的な評価がされていないものということができます。参加した場合、医療費はどのようになるのでしょうか? - 医師主導治験
医師主導治験は、医師および研究者が主体となり、公的資金や企業のスポンサーを得て実施する治験です。基本的なプロセスは企業主導治験と同様です。企業主導治験との違いは、例えば、稀少疾患や企業が治験を実施するコストに対して収益が見込めないような疾患集団に対して実施されますことがあります。
保険診療上、薬剤は承認を受けた特定の疾患を対象にしか投与することができません。しかし、その薬剤が保険承認を受けていない疾患に対して有望でありそうな場合、自由診療で実施するか、病院側が負担するかという問題となります。一方で、その薬剤が実際のところどの程度有効かもわからない状態で使用し続けることになります。企業も薬剤開発コスト(治験を実施すること)の割には収益を見込めないため、治験を実施しません。
このため、現場で患者さんを治療する医師が公的資金や企業の協力(治験に係るコストを一部企業に負担していただく、もしくは薬剤を無償提供受けるなど)を得て、承認を得るために実施する治験となります。 - その他の臨床試験について
医薬品医療機器等法(旧薬事法)に基づかない臨床試験のすべてが対象となります。これら試験を実施する目的はやはり医師が主体となって有望な治療の開発や標準治療を得るため、公的資金や企業のスポンサーを得て実施します。
当院でのみ実施するものから、全国の数十施設の肺がんの専門施設が協働して実施するものまで多岐に渡ります。特に、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ:http://www.jcog.jp/(外部リンク))は国立がん研究センター研究開発費(旧がん研究助成金)や国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による研究開発費からの資金を得た研究班による共同研究グループで、日本人を対象としたがんに対する標準治療の確立と進歩を目的として、臨床試験を実施しております。
当科はJCOG肺がん内科グループの中心的なグループとして貢献ができるよう、患者さんに試験への参加をお願いしております。
その他、NEJSG(北東日本研究機構:http://www.nejsg.jp/(外部リンク))、TCOG(東京がん化学療法研究会:http://tcog.jp/(外部リンク))、TORG(胸部腫瘍臨床研究機構:http://www.torg.or.jp/(外部リンク))、WJOG(西日本がん研究機構:http://www.wjog.jp/(外部リンク))といった、多施設共同臨床試験を行っております。
全米を代表とするがんセンターで結成された ガイドライン策定組織 NCCN(National Comprehensive Cancer Network)のガイドラインにも、“NCCNはすべてのがん患者にとって、最良の管理法は臨床試験にあると考えている。臨床試験への参加が特に推奨される。”と記載されております。臨床試験は厳しいルールと定期的な監査を基に、科学的に精確で、安全性を重視し、倫理的な審査を受け、さらに医学の進歩に貢献する重要な診療行為と考えております。医療費には、下記のように2つの医療費があると考えられます。 - 監査について
それぞれの施設、規制当局、ないしは国際法で臨床試験の参加者の安全性やプライバシーは保護を受けております。複数の監査委員会の承認と通常、検査が確実に正しく、安全に参加者が保護されて臨床試験が実施されているか、診療録など監査をされます(その際には監査者は個人が同定できないようにプライバシーは保護されます)。
試験治療が安全に実施されていない場合、監査委員会は試験を中止することができます。通常の医療費
参加した場合、医療費はどのようになるのでしょうか?
医療費には、下記のように2つの医療費があると考えられます。
- 通常の医療費
- 研究のための費用。検査費用や薬剤費が含まれます。企業主導治験では一部が、医師主導治験では大部分が通常の医療費のなかでカバーされます。患者さんが余計に支払う医療費は通常ありません。
当院で実施している治験、臨床試験を受ける場合、どのように調べればよいでしょうか?
外来で担当医に尋ねてください。