お役立ち情報 抗菌薬を「正しく使う」ために知っておきたいこと

1. 風邪に抗菌薬は効きません
2. 処方された抗菌薬は医師の指示通り服用しましょう
3.「手洗い・ワクチン」予防がやっぱり大切

 日本を含めて世界中で、抗菌薬が効かない細菌(以下:耐性菌))が増加しています!
 1942年に世界で初めて抗菌薬が患者さんに使われてから、「抗菌薬」の開発と、抗菌薬に負けず生き延びたい「ばい菌」とのイタチごっこが繰り返されてきました。その結果、たくさんの抗菌薬が開発されてきましたが、抗菌薬が使われる耐性菌も増え、耐性菌によって苦しむ患者さんの数も増えてしまいました。残念ながら、新しく開発される抗菌薬の数は年々減っています。そこで耐性菌を減らすために、今ある抗菌薬を、大切に、正しく使うことが必要とされているのです。

 2015年5月の世界保健機関(WHO)の会議で耐性菌対策が話し合われ、日本からも耐性菌を減らすためのアクションプランが発表されました。そして、世界的な問題として2016年5月の伊勢志摩サミットでも話し合われました。
 数値目標1:抗菌薬の使用量を2020年までに全体として33%減らします
 数値目標2:飲む抗菌薬(内服薬)を50%減らします

 外来患者さんの症状で最も多いのは風邪症状(発熱、鼻水、咳嗽など)です。日本では毎日200万人に抗菌薬が処方され、そのうち9割が内服薬と言われています。
 どれくらいの患者さんに「本当に」抗菌薬が必要だったのでしょう?

小児感染症科専門医よりみなさまへ

抗菌薬を正しく使うために知っておきたいことを、5つお伝えします。

1.風邪に抗菌薬は効きません。

 発熱、鼻水、咳などの風邪症状があるときに抗菌薬を飲んでも、すっと良くならなかったという経験はありませんか?風邪の原因はウイルスですので、ばい菌に対する抗菌薬は効きません。敵が違うのです。風邪症状で抗菌薬が必要な場合は、中等症以上の中耳炎があるときなど、ごく限られています。

2.処方された抗菌薬は医師の指示通りに飲み切りましょう。

 症状が良くなっても、自分だけの判断で飲む回数を減らしたり、途中で止めたりすることは避けましょう。医師が必要と判断したときに、不十分な治療になることはお子さんのためにはなりません。困ったことがあったら医師に相談しましょう。

3.残った薬は捨てましょう。

 万が一のときに備えて、抗菌薬を保管することはやめましょう。他の人に処方された薬を内服することも良くありません。そのときのお子さんの体重や症状に合わせて薬は選択・調整されています。また、抗菌薬を医師の判断なく飲むことで正しい診断と治療を遅らせてしまうことがありますので、抗菌薬は医師の判断なしに内服することは危険です。

4.医師が抗菌薬は不要と判断したときに、「抗菌薬を処方してほしい」と言うのはやめましょう。

 医師はもちろんのこと、患者さんやそのご家族が「風邪に抗菌薬が効かないことを知る」ことは、とても大切なことです。

5.ワクチンを接種しましょう。

 ワクチンは、抗菌薬が必要な細菌感染症の予防に有効な方法です。適切な時期に、必要な回数を接種することが大切です。ワクチンは生後1か月頃から始まりますので、1か月健診が過ぎたらかかりつけ医に相談しましょう。
 また、手洗いは風邪の予防に有効です。家に帰ったときにはお子さんと一緒に行い、ぜひ家族みんなの習慣にしてください。

 抗菌薬を適切に使用することは、あなたの健康、あなたの家族の健康、そしてあなたの周囲の方々の健康を守ることにつながります。

 もっと詳しく知りたい方はこちら・・・

ワクチンについて、詳しくはこちら

耐性菌と抗菌薬の関係

 耐性菌とは、これまで有効であった抗菌薬が効かなくなってしまった細菌のことです。新しい抗菌薬Aが開発→抗菌薬Aを使う→菌が生き延びようとし「耐性菌A‘」が生まれる→耐性菌A‘に効く抗菌Bが開発される→抗菌薬Bを使う→さらに複雑な「耐性菌B’」が生まれる、という歴史を私たちは歩んできました。
 人が耐性菌に効く抗菌薬を開発し続ければ、人が耐性菌に勝てるときはくるのでしょうか・・・?
 残念なことに、新しく開発される抗菌薬の数は減っています。米国で承認を受けた新しく開発された抗菌薬の数は、1983-1987年は16件だったのに対して、2008-2012年にはたった2件です。抗菌薬の開発に限界が近づいているのかもしれません。治療に使える抗菌薬が無くなってしまわないように、今ある抗菌薬を大切に使わなければなりません。

耐性菌と抗菌薬の関係
図1 耐性菌の出現機序(抗菌薬を使うたびに、その抗菌薬が効く菌は死滅しますが、薬が効かない耐性菌が残り、増えてしまいます。この繰り返しで耐性菌が増えていきます。)

耐性菌があると困る理由は?

 米国では毎年200万人が耐性菌による感染症をおこし、そのうち2万3千人が死亡しています。耐性菌による感染症の死亡率は、耐性菌ではない感染症の2~3倍も高いと言われており、耐性菌の蔓延が患者や医療経済にとって不利益なのは一目瞭然です。

どんな耐性菌があるの?

1.MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)

 MRSAは入院患者さんにおける感染症の原因のひとつで、小児集中治療室(PICU)や新生児集中治療室(NICU)での重症な感染症を起こすばい菌の中でMRSAが最も多いと言われてきました。しかし、最近は入院したことのない、病気を持たない元気な方からも検出されるようになってきました。MRSAはとびひや皮膚の膿のかたまりなどの原因となります。

2.ESBL産生菌

 この菌もMRSAと同じく、以前は病院内だけの問題と考えられていましたが、最近は、病院に入院したことのない方や生まれたばかりの赤ちゃんからESBL産生菌が検出されることがあります。生まれたばかりの赤ちゃんは通常ばい菌を持っていませんが、お母さんが耐性菌を持つことにより赤ちゃんも同じ菌をもつことがあります。菌がいる(保菌といいます)だけでは大きな問題にはなりませんが、ときにこの菌が悪さをすることがあります。 NICUには、特に免疫(ばい菌などから体を守るはたらき)が未熟で、感染症に対して抵抗力の弱い赤ちゃんたちが入院しています。そのため、耐性菌による感染症が、赤ちゃんの状態を悪くしてしまう可能性があります。耐性菌は感染症の治療に大きな影響を及ぼしているのです。
 このほかにも耐性菌の種類は多くあります。そして、耐性菌による感染症は、決して珍しいことではなくなってきてしまっています。

抗菌薬を「本当に必要な時に使う」ことで、
               「耐性菌を減らす」ことを目指します。

未来のこどもたちに、「有効な抗菌薬を残す」ために、
風邪に抗菌薬を使うのはやめましょう。

病院関係者だけでなく、みんなで取り組むことが大事です。ご協力をお願いします。

参考資料