院長あいさつ

院長あいさつ
がん・感染症センター 都立駒込病院 院長 戸井雅和



 駒込病院は、1879年に主に伝染病を診療する病院として開設され、がんが増加してきた1975年にがんと感染症のセンター機能を有する高度専門総合病院に生まれ変わりました。大改築を経て、2011年に、さらに先進的、次代型の診療基盤・診療機能を備えた「がん・感染症センター都立駒込病院」になり、2022年には独法化により、地方独立行政法人東京都立病院機構「都立駒込病院」へと発展してきました。
 都民の多様なニーズに丁寧に応えるべく、医療環境やヘルスケア領域の急激な変化にも迅速に対応できる総合病院として、様々な整備や細やかな工夫、改革、改善を進めています。新たな基盤の上で、高度で先進的、安全・安心の医療を展開し、一人ずつの患者に寄り添う診療とケアを提供してまいります。
 様々な疾患、病態を正確に把握し、予後や治療の成果を予測して、高度先進的で精密な医療(プレシジョンメディスン)を展開するとともに、個々の患者の状態、状況、ご希望によって最善と考えられる治療を計画し実施する個別化・集学的・精密医療を行っています。
 東京都の基幹病院の一つとして、地域連携を重視し、密接に連絡をとりながら地域連携のシステム構築を行い、受診される患者さんやご家族、地域の方々の医療・ヘルスケアの充実を図っています。
 駒込病院の最大の特徴は、総合診療機能を有し、がん、感染症を中心に高度先進的な医療、行政的医療、様々な難治性疾患の診療、複雑な病態の治療を行っているところにあります。米国の大学病院などが構築しているセンター機能の体制と同じです。多様で複雑な病気に対応するためには包括的な診療体制ときめ細かいケアシステムが必要です。また、様々な専門領域の人やノウハウが集まることにより、斬新なアイデアや画期的な発見などが生まれやすくなります。このことは、新しい診療法の開発という点において大きな推進力になります。
 がん診療においては、東京都がん診療連携拠点病院および造血幹細胞移植推進拠点病院として東京都のがん診療のまとめ役と推進役を担い、感染症病院としては、第一種・第二種感染症指定医療機関及びエイズ診療中核拠点病院の役割を果たしています。高齢社会では、がん疾患に加え、高血圧、糖尿病、虚血性心疾患など、さまざまな併存疾患をもつ患者さんが増えています。そのため、がんや感染症に対する専門的な診療機能に加えて、総合診療科、循環器内科、脳内科・神経内科、腎臓内科、糖尿病内科、膠原病科、精神腫瘍科・メンタルクリニック、眼科、歯科、リハビリテーション科等各部門が充実しています。機能的で密な多科連携・多職種チーム医療は本院の開院以来の特徴です。
 若年発症AYA世代のがんや難治性疾患の診療にも積極的に取り組んでいます。個別の多様なニーズに的確に応え、丁寧にフォローする連携システム、診療体制ができています。
 高度でかつ安全、侵襲性が低く、QOLの高い先進的な治療、例えばロボット手術は現在2台のダヴィンチを用いて行っています。高精度放射線治療に関しては国内最大規模の6台の機種が配備され、「患者さんの身体に優しく、確実に治療する」をモットーに新しい高精度放射線治療技術を実践しています。いずれの治療においても治療効果の最大化と合併症の最小化、QOLの維持向上を徹底して良くすることを大目標としています。
 通院治療センターでは、ベッド数36、リクライニングチェア14台を運用し、進展著しい最先端のがん薬物療法を実施しています。きめ細かい副作用への対応やケア、支援の体制も充実し、良好な成績が出ています。
 治療により失われてしまう機能の再建、整容性の回復にも注力しています。長年にわたり、頭頚部がんや乳がんなど様々な疾患領域で多数の経験を有し治療成績も非常に良好です。
急性期の手厚いケアとともに、機能回復、リハビリテーションも充実しています。
 造血幹細胞移植は72床の無菌室を使用して行われ、件数は全国最多規模で過去最高の数、水準になっています。造血幹細胞移植推進拠点病院にも再認定されました。難治性の白血病や悪性リンパ腫等に対するCAR-T 細胞療法の施行件数も全国最多になっています。治療成績も非常に良好です。
 分子医学診療では、標的療法、細胞療法などとともに、多くの遺伝子パネル検査を実施し、がんのDNA・染色体レベルでの異常を標的とする治療を標準治療が無効ながんや希少がんの患者さんを主な対象にして行っています。
 遺伝性がんの診療では、遺伝子検査の実施、遺伝カウンセリングとともに、データベースをつくり、専門性の高い遺伝性がんの診療を行っています。病的バリアントをもつ高リスクの方には、綿密なスクリーニングプランの提案やリスク低減の方法などをご提示しながら、個別のリスク評価に基づく予防的医療の推進に尽力しています。
 各診療科には、高水準の診療実績、最先端の診療技術、研究実績が多くあります。代表的な例には神澤前院長が牽引して来られたIgG4関連疾患があり、世界初となる同センター化を進めています。
 当院は主要な臨床試験実施施設、臨床研究施設として活動してきました。多数の、新しい診療法、機器・マーカーなどの開発にあたってきましたが、引き続き、次代の医療法開発の基地となるべく力を入れており、様々な整備を行っています。当院の中央部門には、多くの知恵と経験の集積があり、強力な基盤として高度先進医療の実施を可能にしています。
 感染症センターでは、一類感染症やHIV/AIDSなど、種々の感染症に対応する診療体制を整備し、幅広い研修も実施しています。COVID-19では災害級の対応を行ってきましたが、備えは引き続き維持しつつ、経験とデータ分析に基づいた新たなパンデミックへの準備も行っているところです。
 がん発生数は依然として右肩上がりです。診療法が進化し、治療成績は年々よくなっています。従って、多くのがんサバイバーの方がおられます。当院はsurvivorship(サバイバーシップ)の支援にも、東京都立病院機構の施設として、地域と連携しながら、力を入れております。
 診療法が高度化され、様々な治療選択肢が増加し、治療成績の予測精度も高くなる中で、患者さんの意思決定の過程もまた複雑になっています。そこで、意思決定を支援する部門を設けさせていただいています。医師と患者が、医学情報のほか、価値観や生活の事など個人的・社会的な情報についても共有した上で治療方針を話し合う「共同意思決定」(シェアードディシジョンメイキング)や早期からのケア計画の構築、患者さんの人生観や価値観など希望に沿った将来の医療及びケアを具体化する目標にしたアドバンストケアプラニングも病院として取り組んでいます。
 緩和ケアにつきましては、緩和ケアチームの専門の看護師がサポートします。また、当院・他施設・在宅でも継続して緩和ケアが受けられるように、ソーシャルワーカーがご相談を受けます。さらに、積極的治療を卒業された方のための「緩和ケア病棟」もあり、緩和ケアの支援に力を入れています。
 人がその人らしく生き抜くことを医療を通して支援し、安全・安心の高度先進精密医療を実践、新しい医療法の開発を推進し、行政的医療を担い、地域連携を重んじて、地域の皆様から信頼される病院であり続けられるよう一層の努力を続けてまいりますので、さらなるご理解とご支援を心からお願い申し上げます。

略歴1982年3月 広島大学医学部医学科 卒業
1988年4月広島大学医学部附属病院 助手
1990年4月英国Oxford 大学分子医学研究所分子血管生物学部門ならびにOxford大学附属John-Radcliffe Hospital 臨床腫瘍学部門に留学(王立癌研究基金客員研究員)
1992年4月東京都立駒込病院外科
2007年2月京都大学大学院医学研究科外科学講座乳腺外科学分野 教授
2023年4月現職

資格医学博士
日本外科学会 指導医
日本外科学会 専門医
日本乳癌学会 専門医
日本乳癌学会 指導医
日本臨床腫瘍学会暫定 指導医

2023年4月