1.増加傾向にある大腸癌
食生活の欧米化や人口の高齢化などにより、大腸癌の患者さんは近年増加傾向にあります。大腸癌は胃癌や食道癌、膵臓癌などの他の癌に比べ比較的治りやすい癌とされます。図は当院の治療成績を示したもので、肝臓や肺など遠くの内臓に転移があればステージ4、なければステージ1から3となります。ご覧のようにステージが3までであれば約8割の患者さんで癌の治癒が期待できます。
★大腸癌の生存率
このように適切な治療を受ければ比較的「治りやすい」癌ですが、これはとりもなおさず癌が治った後の人生が長い、ということでもあります。そのため治療による生活の質(Quality of life, QOLと呼びます)の低下を最小限とすることが大切です。
大腸の中でも肛門に近い15cmほどを直腸といいます。ここに出来た癌を直腸癌といい、大腸癌全体の約4割がこれにあたります。直腸は骨盤という骨に囲まれた狭い空間にあり、周囲には女性なら膣や子宮、男性では前立腺などの重要な臓器、また排尿や性機能を担う神経が豊富にあります。こういった臓器や神経を損傷すると手術の後にうまく尿を出せない、などの症状が起き大きくQOLが下がることになります。
また直腸の中でも肛門に近い部位に癌が出来た場合肛門の近くまで直腸を切除することになり、排便に障害がでたり一時的なもしくは永久的な人工肛門が必要となったりします。これもQOLを損なう大きな要因となります。
★人工肛門
2.大腸癌に対する治療は手術だけではない
以前は大腸癌の治療のほとんどが手術治療でしたが、近年では医学の進歩により手術以外の治療法の組み合わせも行われるようになってきています。それにより上で述べたようなQOLの低下が防げることもあります。例えばごく早期の癌であれば大腸内視鏡で内科的に切除できる場合もありますし、逆に高度に進行した癌に対しては術前に放射線治療や薬物療法を組み合わせて行うこともあります。大腸癌に効果のある薬剤も近年かなり増えています。
3.大腸がんセンターとしての当院の取り組み
当院では大腸がんセンターという枠組みの下に様々な診療科が連携を取りながら1人1人の患者さんの病状に応じた専門的治療を行っています。
その中のいくつかをご紹介いたします。
内視鏡治療
大腸癌の多くはポリープと呼ばれる良性の腫瘍が癌化して発生することが知られていますが、発生後ごく早期であれば大腸内視鏡(大腸カメラ)による治療で切除できる場合があります。当院では2cmを越えるような大きな癌であっても早期のものであれば粘膜切開剥離術(ESD)という技術を用いて大腸内視鏡による治療を行っています。
切除した癌は病理診断科で顕微鏡による検査を行います。その結果癌が進行しており、追加で外科的な手術が必要であることが判明することがあります。その場合は大腸外科による手術治療をお勧めいたします。
手術治療
大腸内視鏡で根治ができないような癌については手術治療が第一選択となります。当院では腹腔鏡手術やロボット手術(これらを併せて鏡視下手術と呼びます)などの侵襲の少ない手術を積極的に行っております。2022年に当院で行った大腸癌の手術のうち、92%が鏡視下手術でした。
術前治療
手術でいったん癌を取り除いたとしても、一定の割合で手術の後に再発が起きることがあります。大腸癌では肝臓・肺などに再発が起きることが多いのですが、進行した直腸癌では手術で切除した部位の近くに再発が起きることもあり、これを局所再発と呼びます。この局所再発を減らす目的で、当院では再発の危険性の高い患者さんに対しては術前に放射線治療と抗癌剤治療を組み合わせた治療(化学放射線療法)を行っています。
肝転移に対する手術治療
大腸癌が進行すると遠くの内臓に転移を起こすことがあります。大腸癌の場合転移先として最も多いのが肝臓です。手術による肝臓への転移の切除は肝臓外科が担当します。
転移・再発に対する薬物療法
大腸癌は罹患者数が多く新薬の開発も盛んに行われており、近年では大腸癌に対して効果が期待できる多くの薬剤が利用できるようになってきています。転移の数が多い場合など手術治療では治療が難しい場合は薬物療法を行います。幸い大腸癌に対する抗癌剤は比較的副作用の軽いものが多く、ほとんどの方がお仕事や日常生活を続けつつ外来通院で治療を受けています。外来通院での抗癌剤治療は通院治療センターが中心となって行っています。
遺伝性大腸癌
少数ではありますが、遺伝的に大腸癌が出来やすい方がいることが分かっています。こういう方は比較的若いうちに大腸癌出来たり、大腸以外の癌も出来やすかったり、また血縁関係にある方にも大腸癌が出来やすかったりすることが知られています。こういう特殊な大腸癌の方には通常の治療に加え、遺伝子診療の専門家の診察もお勧めしています。
緩和ケア
以前は大腸癌の末期の方の疼痛・苦痛を軽減するのが緩和ケアでしたが、現在では薬物療法などと並行して早くから患者さんの苦痛を軽減に努めることが大切であると考えられています。緩和ケア科による専門的な精神的ケア・疼痛コントロール、放射線科による緩和照射などを行っています。
4.複数の科が連携して治療に当たることが大切
このように大腸癌診療においては外科のみならず、内科、放射線科、病理診断科などはば広い分野の専門家が集まり、議論の上で治療方針を決定することが大切です。こういった議論の場をMultidisciplinary conference(MDTカンファランス)と呼びます。欧米では多くの病院で行われていますが、日本ではまだ充分に普及していないのが現状です。当院では毎週このMDTカンファランスをキャンサーボードという形で開催し、治療方針に関する議論を行った上で治療に関わる科を決定しています。
5.組織・診療体制
(1)組織体制
センター長
川合一茂(大腸外科部長)
副センター長
柴田理美(消化器内科医員)
医師
中野大輔(大腸外科医長) 高雄美里(大腸外科医員)
夏目壮一郎(大腸外科医員)
高雄暁成(消化器内科医員) 清水口涼子(消化器内科医員)
室伏景子(放射線治療部医長)
脊山泰治(肝胆膵外科医長) 冲永裕子(肝胆膵外科医長)
松田真一朗(腫瘍内科医員)
堀口慎一郎(病理科医長)
山口達郎(遺伝子診療科部長)
(2)診療体制
まずは大腸外科・消化器内科が窓口となり、診断・治療方針の提案を行います。その上で必要に応じ各科の医師による治療を受けて頂きます。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | |
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大腸外科 | 加藤 | 川合・夏目 | 髙雄(美) | 中野・夏目 | 川合・中守 |
消化器内科 | 髙雄(暁) | 清水口(涼) | 柴田 |