乳腺センター

駒込病院乳腺センター

メンバー

センター長
乳腺外科:有賀智之
副センター長
形成外科:寺尾保信
メンバー
乳腺外科:桑山隆志 橋本梨佳子 岩本奈織子 宮原か奈 神尾英則 才田千晶 奈良美也子 中津川智子 石場俊之 後藤理紗 戸井雅和
腫瘍内科:金政佑典
放射線科(診断部):鈴木瑞佳
放射線科(治療部):清水口卓也
病理科:堀口慎一郎
遺伝子診療科:中津川智子(乳腺外科併任)
認定遺伝カウンセラー:井口卓彦
緩和ケア科:鈴木梢
乳がん認定看護師(アピアランスケア担当):影山実子
看護部:松尾有花 郡由紀子

乳腺センターが提供する乳癌診療の特色

各種の画像診断・生検手技を駆使した乳癌の診断

マンモグラフィ・超音波・MRIなど各種画像下バイオプシー
乳癌の診断は、画像検査を行った後に生検で確定診断を行います。最も一般的でよく行われる生検は、超音波検査ガイド下の生検です。超音波で検出できない病変に対しては、マンモグラフィやMRIガイド下で生検を行う技術が必要になります。
石灰化などマンモグラフィでのみ描出される病変に対しては、3Dマンモグラフィを用いたトモシンセシスガイド下生検が行います。2022年からは,MRIでのみ描出される病変に対しMRIガイド下生検も開始しました。
特に、BRCA病的バリアント保持者に対するサーベイランス目的のMRI検査の際は,MRIガイド下生検可能施設との連携を有する施設での施行が望ましいと遺伝性乳癌卵巣癌症候群診療ガイドラインにも明記されています。全国的にMRIガイド下生検が可能な施設は限られていますが、当院では他院からの依頼も対応し検査を行っています。

不正形腫瘤の症例
不整形腫瘤を認め超音波検査ガイド下生検を施行した症例
マンモグラフィ症例
マンモグラフィで石灰化(矢印)を認めトモシンセシスガイド下生検を施行した症例
MRIガイド下政権の症例
MRIガイド下生検を施行した症例

集学的治療による最適な個別化治療

乳腺キャンサーボードの紹介

乳腺の診療はその画像診断、病理診断に始まり手術においては乳房再建、術後の放射線治療や薬物療法、また最近ではゲノム医療など様々な診療科の専門的なスキルが必要になっています。またこの複雑な治療を進めるにあたっては看護師、薬剤師、遺伝カウンセラーなど様々な職種の人々に直接的、間接的に支えてもらう必要があります。さらに転移、再発をきたした場合などには整形外科、脳外科、緩和ケア科など更に多くの専門職の力を借りて治療を進めていく必要が出てきます。
個々の患者さんのそれぞれ異なる状況において最善の治療方法やその順序を相談し提案していくために多くの専門職でアイデアや意見を出し合い話し合う場が必要になります。
これをキャンサーボードと言います。
駒込病院乳腺外科では以下のキャンサーボードを開催し最適な治療方針が提案できるよう努めています。

症例カンファレンス(毎週水曜日)
入院・病棟カンファレンス(毎週金曜日)
遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)カンファレンス(第4水曜日)

治験・臨床試験・臨床研究による医療の向上

治験はより高い効果が期待される新薬の効果の検証と承認に欠かせない重要なプロセスです。乳腺センターでは多くの治験に参加しています。適格となる患者さんには治験参加をご案内することがあります。

臨床試験科「実施中の治験・臨床試験」

当センターで現在行っている臨床研究一覧(PDF 135.2KB)

AIによるマンモグラフィ読影の研究

乳癌検診や診断に用いられるマンモグラフィ画像は、読影資格を有する乳腺外科医や放射線読影医が判定を行う事が一般的です。しかし、非常に多くのマンモグラフィを高い専門性を有した読影医のみで判定する作業は大きな負担であり、安定した判定精度を維持する事が課題となっています。
現在、画像診断領域ではAIソフトによる診断読影が進歩し実用化に向かっています。当院では2024年よりFathomX社が開発したマンモグラフィ判定AIソフトであるFxMammoによる臨床試験を予定しております。日本人女性に対する乳癌判定能を評価し、将来の実用化の一助となるべく研究を進める予定です。

腋窩郭清省略試験

腋窩リンパ節転移が認められる乳癌症例では、術前化学療法を行った後、リンパ節転移が消失したと思われる場合でも腋窩郭清が行われてきました。腋窩郭清後の合併症として、上腕のリンパ浮腫が知られています。このため、腋窩郭清を回避する術式が検討されています。2022年版の日本乳癌学会ガイドラインでも、手術方法を工夫し腋窩郭清を省略することは推奨されています。しかしながら、わが国において、腋窩郭清を省略したデータが少なく、普及していないのが現状です。当院では、2023年から腋窩リンパ節郭清を省略する臨床試験を開始しました。対象はHER2陽性またはトリプルネガティブの乳癌で、画像上リンパ節転移が1-3個と思われる症例です。具体的な方法としては、治療前に転移があるリンパ節に金属製のマーカを留置します。術前化学療法後に腋窩リンパ節転移が消失したと判定された場合、腋窩郭清を省略し、センチネルリンパ節生検とマーカを留置したリンパ節の摘出を行います。腋窩郭清を省略することでリンパ浮腫など合併症の頻度が低下することが期待されます。詳細は乳腺外科担当医にお尋ねください。

細胞診で転移陽性と診断された腋窩リンパ節(術前化学療法前
細胞診で転移陽性と診断された腋窩リンパ節(術前化学療法前
病理検査で転移が消失していた腋窩リンパ節(術前化学療法後)

病理検査で転移が消失していた腋窩リンパ節(術前化学療法後)

乳癌と放射線治療

  • 術後放射線治療の負担軽減
    乳癌の手術をした後放射線治療を行うと乳癌の再発リスクが低下することが多くの臨床試験で示されています。確固たる臨床データに裏打ちされたメリットがある反面、6週間に及ぶ通院の負担や副作用が課題となっていました。これまでに治療の短期化や、再発リスクが特に低い患者さんに対する部分的な乳房照射が試され、副作用が少なく、治療成績も従来と同等であることが示されました。当院でも一定の条件を満たす患者さんを対象に短期のスケジュールで放射線治療を受けていただいています。
  • 術後放射線治療の回数の例

手術

放射線治療

放射線治療の回数

乳房全摘出術

乳房切除後放射線治療

 25回

乳房部分切除術

全乳房中等度寡分割照射
部分短期照射

 16回
 5回 [臨床試験]

病理検査等の結果により追加治療を行うことがあります。詳しくは放射線治療部門のページをご覧ください

  • 転移巣への放射線治療
    最近は薬物療法の進歩により、転移巣があっても長期に病勢を維持できる患者さんが増えています。そのため転移巣への局所治療の役割も高まっています。
    脳の転移がある患者さんには脳全体に放射線治療を行う全脳照射が一般的でした。一方で認知機能低下の副作用が問題になっていました。近年は脳転移がある部位の局所へ強い治療を行う定位放射線治療が広がり、認知機能の低下のリスクを抑えながら病変のコントロールできるようになってきています。
    骨の転移にも、手術、放射線治療(定位放射線治療を含む)等さまざまな治療オプションを組み合わせて、できるだけ良い状態で生活ができるようなサポートになるよう心掛けています。
    少数個の転移への放射線治療に対する手術、もしくは定位放射線治療を行うことで治療成績が向上するかを評価する臨床試験が始まりました(JCOG2110試験)。当院からも参加しています。

がんの化学療法時の味覚障害

化学療法を受けた人の60~70%が味覚の変化を訴えることが報告されています。味覚障害は、お食事がおいしくないなどのQOL(Quality Of Life)の低下や栄養不良を招く要因ともなります。乳腺外科では化学療法時の味覚と食事摂取状況の調査を行い、味覚障害から栄養不良やQOLの低下予測と予防研究を行っています。味覚検査と食事調査の方法はご自宅でできる簡単な調査です。味覚は100点満点で評価を行い、食事摂取量は習慣的な摂取量を概算で算出します。個人の検査結果はその都度ご報告しますので、ご自身の健康状態の確認にもなります。ご協力いただける方は担当医師にご相談ください。

  • 転移巣への放射線治療
TC療法時の味覚変化の推移
  • TC療法時の甘味感度別の栄養状態の推移
    甘味の味覚変化のない人と変化がある人では、栄養状態の指標となる血清アルブミン値の減少に差があります。

TC療法時の味覚変化の推移

遺伝性乳癌の診断とマネージメント

遺伝的要因の影響による乳癌の患者さんは、病態にあわせて専用の検査、治療、情報提供を受けていただくことが必要と考えられています。現在下記の条件いずれかを満たす乳癌患者さんは保険診療にて遺伝子検査を受けることが可能となっています。

  • 血縁者がすでにBRCA1/2に病的バリアントをもっていることがわかっている
  • 45歳以下で診断された乳癌
  • 60歳以下でサブタイプがトリプルネガティブと診断された乳癌
  • 両側または片側に2個以上の原発性乳癌を診断された
  • 男性で乳癌と診断された
  • 血縁者(第三度近親者以内)に乳癌または卵巣癌,膵癌患者がいる
  • HER2陰性の乳癌でオラパリブの投与が検討されている
  • がんゲノムプロファイリング検査の結果,BRCA1/2の病的バリアントを生まれつきもっている可能性がある

詳細はHBOC(遺伝性乳癌卵巣癌)外来のページをご覧ください。

転移・再発乳癌診療における遺伝子診療の導入

遺伝性乳癌に限らず、乳癌は一般に正常な細胞に遺伝子の異常が重なることで発症することが知られています。乳癌患者さんそれぞれのがん細胞が持つ遺伝子プロファイルを分析することで適切な薬物療法につなげる試みが広がっています。
がんゲノムプロファイル検査の説明は遺伝子診療科のページをご覧ください

乳房再建・ラジオ波焼灼療法(non-surgical ablation)など必要に応じた乳がん外科治療の提供

経皮的ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation therapy:RFA)
RFAは、皮膚表面から乳癌に針を刺し、ラジオ波帯の高周波電流によりがん細胞を死滅させる治療方法であり、乳房を切らないために整容性に優れた治療法になります。治療成績が乳房部分切除術と比較しても劣らないことが証明され、2023年12月1日より適応条件は「腫瘍径1.5cm以下、腋窩リンパ節転移および遠隔転移を認めない限局性早期乳癌」など一部の早期乳癌となります。術後3か月の時点で行う吸引式針生検によるがんの遺残の有無を確認する検査が必須であり、また術後治療として全乳房照射とガイドラインに準拠した薬物療法を実施致します。

当院では保険適応となる以前より、患者申し出療養制度によってRFA治療を安全に施行しておりましたため保険診療に移行後もRFA治療が可能な施設となっております。治療をご希望される場合は主治医にお気軽にお問い合わせください。

ラジオ波焼灼療法
  • アピアランスケアを通じた社会・心理的ストレスの少ない乳癌治療の提供

    • アピアランスケアとは、抗癌剤をはじめとする薬物療法の副作用による外見の変化(脱毛、爪、皮膚の変化など)、外科治療による創(きず)の変化などがもたらす患者さんのストレスを軽減するためのケアです。駒込病院では、乳腺外科医師、形成外科医師、薬剤師、看護師などから構成されるアピアランスケアチームを中心として、患者さんが困っている外見の変化のケアをお手伝いしています。お気軽にぜひご相談ください。

    • 再建手術

    • 駒込病院では長く乳癌術後の再建手術に取り組んできました。様々な患者さんのニーズに対応しています。再建乳房は乳腺外科と形成外科が切除方法(乳輪・乳頭を残すか?どこにどのくらいの切開をおいて手術をするか?)や再建方法(人工物か?自己組織か?)を話し合って決めることにより安全で整容性の高い手術が可能になります。詳しくは下記URLから関連サイトをご参照ください。

      形成外科のサイト
      <https://www.tmhp.jp/komagome/section/geka/keisei/special/index.html>

      アピラランスケアセンター
      <https://www.tmhp.jp/komagome/about/appearance_1.html>

      頭皮冷却システム(PAXMAN)

      乳癌術後の補助化学療法の副作用の一つに脱毛が挙げられます。当院では、脱毛の軽減目的に頭皮冷却システム(PAXMAN Scalp Coolingシステム)を導入しております。キャップを化学療法中に着用し、頭皮を冷却することで化学療法が毛包に与えるダメージが軽減し、脱毛が抑制されます。対象は、TC療法を受ける患者さんに限定していますが、今後変更する可能性があります。詳細については乳腺外科担当医にお尋ねください。

      頭皮冷却システム

      AYA世代の乳癌患者さんの妊孕性温存・温存後生殖補助医療

      AYA世代とは、Adolescent and Young Adult(思春期・若年成人)の頭文字をとったもので、主に、思春期(15歳~)から30歳代までの世代を指しています。学生から社会人、子育て世代とライフステージが大きく変化する年代であることが特徴です。日本のデータではAYA世代のがんの中では30代の女性の乳癌が最も多いことが報告されています。
      妊孕性(にんようせい)とは、妊娠するために必要な能力のことをいいます。がんの治療では、手術や抗がん剤治療、放射線治療などによる影響で、妊孕性が低下することがあります。妊孕性温存療法とは、将来自分の子どもを授かる可能性を残すために、がん治療の前に、卵子や精子、受精卵、卵巣組織の凍結保存を行う治療のことです。妊孕性温存療法により凍結保存した卵子や精子、受精卵、卵巣組織を用いて、がん治療後に妊娠を補助するために実施される治療を、温存後生殖補助医療と呼んでいます。
      将来、子どもを産み育てることを望んでいる患者さんが、希望を持って治療に取り組めるために、治療前の妊孕性温存療法を希望される場合は、がん・生殖専門の医療施設へ速やかな紹介と連携を行い、がん治療の遅れの無いよう実施しています。(下図)
      患者さんによって、がんの状況はおひとりおひとり違いますので、すべての患者さんに妊孕性温存療法をおすすめできるとは限りません。ご希望のかたは、担当医までご相談ください。

      乳がん治療計画

      また、厚生労働省では、妊孕性温存療法及び温存後生殖補助医療等に要する費用の一部を助成し、その経済的負担の軽減を図るとともに、患者さん達からの臨床情報等のデータを収集する事業が開始されました。助成を希望する方は、居住地の都道府県に申請を行う必要があります。妊孕性温存療法に係る治療の凍結保存時に43歳未満の方が助成の対象となります。そのほか助成の対象となる費用や要件、申請方法等については、各都道府県(事業実施主体)のホームページをご確認ください。助成の対象となるがん・生殖専門の医療施設へのご紹介も可能ですので、ご相談ください。

      乳腺センター所属の日本がん・生殖医療学会認定「がん・生殖医療ナビゲーター」

       認定番号 094 有賀智之
       認定番号 124 中津川智子
       認定番号 160 才田千晶

      当院での勤務を希望する方へ

      当院においては画像診断、画像ガイド下生検、手術、ラジオ波治療、各種薬物療法(ホルモン剤、化学療法剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤)、遺伝子診療等乳癌診療に必要な幅広い技術・知識の習得を目指す先生を随時募集しております。
      見学希望の方や詳細をお知りになりたい方はお気軽にご連絡ください。

    • 連絡先
      (代表)03-3823-2101(人事担当又はセンター長につないでもらってください)