同種移植後の合併症

移植直後は白血球減少に伴う感染症や血小板減少に伴う出血などの危険性があります。また、使用する薬剤、特に前処置に用いられる薬剤による特有の副作用が起こりえます。心臓、肝臓、腎臓、脳などに様々な合併症が起こることがあります。その一つが肝中心静脈閉塞症候群(SOS/VOD)です。
順調に生着して骨髄が機能しはじめると、細菌感染、出血といった危険が減る一方で、移植片対宿主病などの新たな合併症の危険が増えてきます。

肝中心静脈閉塞症 (SOS/VOD)

前処置に用いた大量の抗がん剤や放射線照射の影響で、特に肝臓は障害を受けやすく、注意が必要です。
SOS/VODは移植直後にみられる主要な肝臓の合併症です。
抗がん剤や放射線照射により肝臓の循環障害が引き起こされることで、SOS/VODは発症します。
移植後1~14 日ころまでに、黄疸、肝腫大、右上腹部痛、腹水や原因不明の体重増加がみられます。
血小板数も極端に減少します。SOS/VODの発症率はおおよそ10~15%前後といわれています。
腹部超音波検査が早期診断に有効とされております。
重症化した場合は多臓器不全を起こし、死亡率も高い合併症です。発症予防のためにウルソデオキシコール酸という薬剤を内服していただきます。デフィブロチドナトリウムという薬剤の点滴治療が使用可能となりました。

感染症(特に、ウイルス感染)

移植後、患者さんの抵抗力は低下しているため様々な感染症に罹患する可能性があります。
免疫力の回復時期から移植後を大きく3つの時期に分けると罹患しやすい主な感染症は以下のようになります。

造血幹細胞移植後の感染
  • 移植後30日まで 細菌や真菌性の敗血症、単純ヘルペスによる口内炎、ウィルス性脳炎。
  • 移植後30~100日 サイトメガロウイルスによる間質性肺炎やアデノウイルスによる出血性膀胱炎。
  • 移植後100日以降 水痘・帯状疱疹ウイルスによる帯状疱疹、特に慢性GVHDの合併例では中耳炎・肺炎等の反復性細菌感染症。

急性GVHD(Graft-versus-host disease: 移植片対宿主病)

GVHDは、腎臓移植等に見られる拒絶反応の全く逆の形の病気で、ドナーさん由来のリンパ球が、患者さんの体を異物と認識して攻撃してくる疾患です。
皮膚・消化管・肝臓の三つの臓器の障害が中心となります。
通常、皮膚症状が現れて、消化管や肝臓の症状の順に出現する場合が多いです。
皮膚症状は、皮疹が手のひらや足の裏を中心に出現して、痛かゆくなります。重症化すると全身に広がります。
さらに重症化すると全身がやけどしたように真っ赤になり、水ぶくれをひきおこします。
消化管症状は、下痢です。 下痢の量が多くなるほど重症です。 下痢により血液中の様々な蛋白質も失われますので、重症例ほど衰弱したり、感染しやすくなります。
肝臓の症状は黄疸です。この3臓器の障害の程度によって急性GVHDの重症度が決まります。
重症の急性GVHDを発症した場合は生命も危険になります。

この合併症を予防するために、免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムス、メトトレキセート等)を使用します。
シクロスポリンやタクロリムスは、最初は点滴で投与しますが、移植約1ヶ月後より徐々に経口投与に変更します。
メトトレキセートは移植直後に用いられます。その主な副作用は口内炎で、著しい場合には唾も飲めないほどになる事がありますが、 移植後2週間ほどで軽快してきます。