ミトコンドリア病

患者さんへ

疾患概要

ミトコンドリアは全身の細胞の中にあり、主要なエネルギー(アデノシン三リン酸:ATP)を産生するための重要な小器官です(図1)。ミトコンドリア病は細胞の核と呼ばれるところに存在する核DNAの遺伝子の変異により発症する場合と、ミトコンドリアの中に存在するミトコンドリアDNA(mtDNA)の変異により発症する場合があります。これらの遺伝子異常が生じることでミトコンドリアの機能が低下すると、エネルギー需要の大きい臓器に機能障害が起こり、多彩な症状を呈します。

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症状

発症時期や症状は多様です。乳幼児期に発症する場合には、神経系の症状としては、呼吸を止めてしまう、活気がない、けいれん、体の緊張が弱い、ふらつく、発達が遅いなど症状で、消化器症状としては嘔吐、哺乳不良、下痢、肝臓が腫大するなどの症状で発症します。そのほか、小児期から思春期、青年期にかけては、筋力低下、ふらつき、知的障害、精神症状、脳梗塞様症状などの様々な症状で発症します。神経系以外の症状としては、心筋障害、低身長、糖尿病、難聴、視力障害、腎機能障害なども呈する可能性があります。

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診断方法

ミトコンドリア病の診断のためには複数の検査を行い、総合的に判断する必要があります。有名なバイオマーカーとしては、乳酸・ピルビン酸があります。ミトコンドリア機能の異常により、血液や髄液(脳の周りを満たしている体液)の中の乳酸やその前駆体であるピルビン酸の値が増加することがあります。これは採血や髄液検査で検査可能です。しかし、乳酸・ピルビン酸値が上がらないミトコンドリア病の患者さんも存在します。そのほか、頭部MRI検査(図3-5)や脳波、誘発脳波、筋電図検査などを行います。

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ミトコンドリア病が疑わしい患者さんに対しては、さらに診断的価値の高い検査を検討します。その一つは病理検査です。特に筋力低下などの症状がみられる患者さんでは、筋肉の一部を採取することでミトコンドリア病に特徴的な異常がないか顕微鏡で検査します(図6)。また、皮膚の一部を採取しミトコンドリアの機能低下がないか、酵素活性を計測することも行います。

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最終的には遺伝子検査を行うことで診断が確定される患者さんもいます。遺伝子については、概要に示したように核DNAの異常とmtDNAの異常の場合があり、それぞれ遺伝形式(次子や次世代への遺伝様式)が異なります。

治療方法

残念ながらミトコンドリア機能障害を正常化する特効薬的な治療方法は存在しません。そのため、経験的に用いられているビタミン剤などの内服治療を行いつつ、定期的な全身状態の評価や発達の支援を行っています。

診療実績

現在神経病院神経小児科ではミトコンドリア病の患者さんを15例診療しております(疑い症例や類縁疾患を含む)。診断にあたっては、共同研究機関と連携して、酵素活性測定や遺伝子診断をしています。また遺伝に関して患者さんに正しい情報をお伝えするため、院内や隣接している東京都立小児総合医療センター臨床遺伝科の臨床遺伝専門医と協力し、遺伝カウンセリングを行っています。当院は神経の専門病院ですので、神経系以外の合併症(心臓や内分泌など)については、小児総合医療センターの専門診療科と協力して診療にあたっています。

難病情報センターより患者さん向け資料として、ミトコンドリア病ハンドブックが公開されています(下記URL)。

https://www.nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/upload_files/mt_handbook.pdf(外部リンク)

医療関係者へ

疾患概要・病態

ミトコンドリアは細胞内の主要なエネルギーであるアデノシン三リン酸(ATP)を産生するための重要な小器官です。ミトコンドリア病は細胞の核DNAの遺伝子の変異により発症する場合と、ミトコンドリアの中に存在するミトコンドリアDNA(mtDNA)の変異により発症する場合があります。これらの遺伝子異常によりミトコンドリアの機能が低下すると、エネルギー需要の大きい臓器に機能障害が起こり、多彩な症状を呈します。

症状

ミトコンドリアはすべての細胞に存在するため、各組織・臓器が障害される可能性があり、その結果、多彩な症状を呈します(表)。

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診断方法

血液検査、髄液検査を行い、乳酸値の測定を行います。 また、神経放射線科と協力し、頭部MRI、MRS検査を行い、ミトコンドリア病の可能性について検討します。これらの検査は患者さんが安静である必要があるため、患者さんの年齢や発達段階に応じて、小児神経科医立ち合いのもと、鎮静薬・麻酔薬を用いて検査を行います。患者さんの症状によっては、筋生検を行い病理学的にミトコンドリア病の可能性を検討します。また、皮膚の一部を採取しミトコンドリア機能低下がないか、酵素活性を計測します。これらの処置は麻酔科協力のもと、全身麻酔下に手術室にて検査・処置を行います。最終的には遺伝子検査を行うことで診断が確定される患者さんもいます。

診療実績

現在、当科ではミトコンドリア病の患者さんを15例診療しています(疑い症例や類縁疾患を含む)。ミトコンドリア機能障害を正常化する根治的な治療方法は確立していないため、主に経験的に使用されているビタミン剤の治療を行いつつ、全身の管理や発達評価・支援を行っています。診断にあたっては、共同研究機関の横浜市立大学遺伝学教室と連携して、遺伝子検査を行っています。

発達が遅れている、乳酸の値が高い、原因不明の多臓器にわたる異常を認めるなど、様々な症状を呈している患者さんはミトコンドリア病の可能性がありますので、疑われる患者さんがいらっしゃいましたら、東京都立小児総合医療センターにて外来診療を行っておりますので、患者さんに紹介状をお渡しいただき、予約センターにお電話下さるようお伝え下さい。