Pompe病

患者さんへ

疾患概要

Pompe病は、細胞内に存在するライソゾームという小器官において、酸性α-グルコシダーゼ(GAA)という酵素が欠損または活性低下することにより、グリコーゲンという物質が多臓器(主に筋肉細胞)に蓄積する疾患です。

症状

発症時期や症状により、乳児型、小児型、成人型に分類されます。

乳児型では、乳児期の早期より体が柔らかい(筋緊張低下)、筋力の低下、哺乳力が弱い、心臓が大きくなる(心肥大)、肝臓が大きくなる(肝腫大)、舌が大きくなる(巨舌)などの症状を呈し、自然経過では1-2歳で心臓の機能の悪化や、呼吸状態の悪化により死亡します。

小児型では運動発達の遅れや筋力の低下で発症します。

成人型では歩行またはスポーツ全般の困難、階段昇降困難などで症状に気が付かれます。

診断方法

Pompe病の患者さんでは筋肉細胞にグリコーゲンが蓄積し筋肉が壊れることにより、筋肉内に多く含まれているクレアチニンキナーゼという物質が血液中に増加します(高クレアチニンキナーゼ(CK)血症)。高CK血症自体は筋肉が壊れる疾患の多くで上昇します。

高CK血症があり、上記のような症状があるためにPompe病が疑われる患者さんでは、現在、血液を濾紙にとり(濾紙血といいます)、専門検査機関にて検査を行うことで、上記のGAAの酵素活性を測定することが可能となりました。濾紙血検査にて酵素活性が欠損または低下している場合にPompe病の診断となります。

治療方法

我が国では2007年にアルグルコシダーゼα(マイオザイム(R))が認可されました。この治療は2週間ごとに不足している酵素を点滴で投与する治療で、一般的に定期的酵素補充療法(ERT)といいます。この治療により乳児型も長期生存可能となりました。患者さんは現時点では一生この治療を継続することで、グリコーゲンの蓄積を防ぐことが可能です。

さらに、2021年には酵素の筋肉内への取り込みを改良したアバルグルコシダーゼα(ネクスビアザイム(R))が認可され、更なる効果が期待されます。

診療実績

現在神経病院神経小児科では乳児型及び小児型Pompe病の患者さんを3例、診察・治療しています。

最新知見

アルグルコシダーゼαによるERTにより、乳児型の長期生存は可能となりました。しかし、近年長期生存例の長期的予後についての報告がなされるようになり、治療効果やその限界、多臓器合併症の課題が明らかになってきています。様々な合併症を呈するため、関係診療科と協力しながら全身管理に努めています。

医療関係者へ

疾患概要・病態

Pompe病は、細胞内のライソゾームにおいて、酸性α-グルコシダーゼ(GAA)が欠損または活性低下することにより、グリコーゲンが多臓器(主に筋肉細胞)に蓄積する疾患です。GAA活性が正常活性の約30%以下になると、グリコーゲンの蓄積が始まると考えられています。Pompe病は早期診断・早期治療が必要な疾患です。

症状

乳児型、小児型、成人型に分類されます。乳児型では、筋緊張低下、筋力低下、哺乳不良、心肥大(図1, 2)、肝腫大、巨舌などの症状を呈し、自然経過では1-2歳で心不全、呼吸不全により死亡します。小児型では運動発達の遅れや筋力の低下で発症します。成人型では歩行またはスポーツ全般の困難、階段昇降困難などで症状に気が付かれます。

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診断方法

Pompe病では高CK血症を呈するため、他の筋疾患と間違われることがあります。当院では,筋症状と高CK血症を認めた場合には直ちに濾紙血を専門検査機関に送り、GAAの酵素活性を測定しています。濾紙血検査にて酵素活性が欠損または低下している場合にPompe病の診断となります。

その他の疾患の鑑別のために、検査科・脳神経内科と協力し、電気生理学的検査(末梢神経伝導速度、針筋電図)を実施しています。また、神経放射線科と協力し、骨格筋CT・MRI検査も組み合わせています。
治療方法

2007年にアルグルコシダーゼα(マイオザイム(R))が認可され、定期的酵素補充療法(ERT)が始まりました。患者さんは2週間ごとに来院していただき、点滴を受けています。この治療により乳児型も長期生存可能となりました。患者さんは現時点では一生この治療を継続することで、グリコーゲンの蓄積を防ぐことが可能です。ERTによる早期治療が生命予後に影響するため、早期診断・早期治療が重要となります。

さらに、2021年には酵素の筋肉内への取り込みを改良したアバルグルコシダーゼα(ネクスビアザイム(R))が認可され、更なる効果が期待されます。

診療実績

現在、当科では乳児型及び小児型Pompe病の患者さんを3例、診察・治療しています。

最新知見

アルグルコシダーゼαの登場により乳児型の長期生存が可能となりました。しかし、長期生存例の長期的予後についての報告により、治療効果やその限界、多臓器合併症の課題が明らかになっています。表1のように全身の臓器にグリコーゲンが蓄積することで、様々な合併症を呈するため、関係診療科と協力しながら全身管理に努めています。

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