抗MOG抗体関連疾患(MOGAD)

患者さんへ

疾患概要

 抗MOG抗体関連疾患(以下MOGADと呼びます)は中枢神経(脳・脊髄・視神経)の病気で、免疫の異常により脳・脊髄・視神経が障害されて引き起こされる自己免疫疾患のひとつです。

 この病気は免疫系に何らかの異常が起こり、正常な組織までも外敵として攻撃してしまう免疫抗体(自己抗体)が作り出され、中枢神経の神経線維が障害されて発症することが知られています。

 中枢神経の神経線維は神経系の情報を脳内外に伝達する役割を担いますが、その構造は電線に似ていて、「軸索」という芯の周囲を「髄鞘」と呼ばれるカバーで絶縁体のように覆って構成されています。MOGADは「髄鞘」の一部を構成する「ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク(Myeline oligodendrocyte glycoprotein:MOG)」という成分が自己抗体(抗MOG抗体)により壊されて、「軸索」がむき出しになり(これを「脱髄」と呼びます)神経系の情報伝達が障害されてしまうため、様々な神経症状が出現します。

(図1)正常の神経線維の構造と脱髄

 近年MOGADは視神経炎、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、横断性脊髄炎、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)などの病型を含む広い概念として認識されています。
 乳児期から成人期まで幅広い年代で発症しますが、小児期発症の患者さんは急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の病型で発症する方が多く、意識障害や行動の変化で発症し、頭部MRI検査で脳や脊髄にいくつかの脱髄病変が見つかり、血液または髄液に抗MOG抗体が検出されるとMOGADの診断となります。

(図2)MOGADの病型

症状

 症状は病型や脱髄所見の出現する部位(脳・脊髄・視神経)によって様々です。

 視神経炎の経過で発症する場合は、片目または両目の視力低下、視野の異常、眼痛などの症状が出ます。
 また急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の経過で発症する場合は、意識障害や異常行動、発熱、けいれん、運動障害(手足の麻痺)、失調(座位が不安定、まっすぐ歩けない)などを認めます。

 横断性脊髄炎の場合は、主に脊髄に病変を認めるため、運動障害、感覚障害(手足のしびれや感覚障害、痛み)、膀胱直腸障害(排便や排尿がうまくできない)などの症状が出現します。

治療

 身体に生じた異常な免疫反応を抑える治療として、症状が出現して間もない急性期は副腎皮質ステロイド薬を複数回にわたり静脈から投与します。副腎皮質ステロイド薬の静脈投与で効果を示した患者さんはステロイド薬の飲み薬に変更し、症状が再び出てこないか確認しながら数ヶ月かけて量を減らしていきます。
 MOGADは約半数程度の患者さんで再発すると知られています。再発した場合は、急性期は副腎皮質ステロイド薬の静脈投与を再度検討し、ステロイド治療の効果が少ない場合や再発を繰り返す場合は、第二選択薬である免疫グロブリン療法を進めます。当科では、再発を繰り返す患者さんに対して定期的な免疫グロブリン療法による再発予防を治療を行い、効果を上げています。

患者さんへのワンポイントアドバイス

 MOGADは元気なお子さんが急な経過で、視力障害や意識障害、運動障害などを認め発症する病気で、急性期治療だけではなく、再発の可能性も見据えて長い経過で見守っていく必要があります。当科では、小児神経専門の医師がMOGADをはじめとする脱髄性疾患の診断・治療について、神経放射線科や神経眼科、脳神経内科などの他科や看護師と連携して診療を進めて参ります。

医療関係者へ

疾患概要

 抗MOG抗体関連疾患(MOGAD: Myeline oligodendrocyte glycoprotein antibody-associated diseases)は髄鞘のミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白の自己抗体により発症する中枢性炎症性脱髄疾患です。近年、MOGADは視神経炎、急性散在性脳脊髄炎(ADEM:Acute disseminated encephalomyelitis)、横断性脊髄炎、自己免疫性脳炎、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD:Neuromyelitis Optica Spectrum Disorders)等を含む広い概念として着目されています。
 発症年齢は乳児期から成人にかけて幅広い年代で発症し、小児期に発症するMOGADの臨床病型としてはADEMが多いことが知られています。

症状・検査

 症状は臨床病型により様々ですが、視神経炎例では片側または両側の視力低下・視野異常・眼痛などの症状を認め、ADEMの場合は、意識変容や異常行動、発熱、けいれん、運動障害、失調などを認めます。横断性脊髄炎例では脊髄障害レベルによって運動障害や感覚障害、膀胱直腸障害を認めます。
 検査は、頭部・脊髄MRI検査で視神経または大脳皮質下白質、脊髄に造影効果を伴う脱髄所見を認めます。また髄液検査で髄液蛋白の上昇を認める例が多くいます。血清や髄液中に抗MOG抗体が同定されるとMOGADの最終診断となります。

(図3)視神経炎と大脳白質病変を認めたMOGAD小児例の頭部MRI画像

A 造影T1強調像(冠状断)、B 造影T1強調像(水平断):造影効果を伴う右眼の視神経炎
C FLAIR像(水平断)、D 造影T1強調像(水平断):造影効果を伴う大脳皮質下白質病変

治療

 急性期は副腎皮質ステロイド薬の静脈投与を実施し、治療効果を示した患者さんはステロイド薬の経口投与に変更します。再発の有無に留意しながら数ヶ月かけて減量していきます。MOGADは半数程度の患者さんで再発することが知られています。再発例には、急性期は副腎皮質ステロイド薬静脈投与を検討し、効果が少ない場合には免疫グロブリン療法を検討します。また、当科では再発を繰り返す患者さんに対して定期的な免疫グロブリン療法を行い、全例で効果を認めています。

診療実績

 当院では、この18年間で12名の小児期発症のMOGAD患者さんを診療しています。診療にあたって視力障害を認める症例においては神経眼科と、頭部や脊髄MRI画像の評価においては神経放射線科と連携しながら的確な診断を心がけ、治療をすみやかに進められるように努めています。