脳神経外科 診療内容

診療内容

小児脳腫瘍・脊髄腫瘍

 当センターは国が指定する小児がん拠点病院の一つであり、小児脳腫瘍・脊髄腫瘍の治療を多く手がけています。
 小児脳腫瘍には、星細胞腫(グリオーマ)胚細胞腫瘍髄芽腫上衣腫頭蓋咽頭腫AT/RTなど様々な組織型の腫瘍が含まれています。それぞれ治療方針や予後も大きく異なることから、疾患やその時の年齢、病状に応じた治療戦略が必要になります。
 手術では、開頭手術だけでなく内視鏡手術定位的手術など疾患・病態に最適の方法を選択しています。また術中神経生理学的手技やナビゲーションシステムを積極的に取り入れ手術の安全性向上に努めています。内科的治療は、血液腫瘍科や内分泌代謝科とのチームで治療に当たります。放射線治療に関しては、隣接する多摩総合医療センターと連携して治療を行っています。心理的サポートや教育支援は、子ども・家族支援部門の精神科医や臨床心理士、ソーシャルワーカーが担当します。退院後に子ども達がスムーズにもとの生活に戻れるようサポートします。

二分脊椎(脊髄髄膜瘤、脊髄脂肪腫、脊髄係留症候群など)

 脊髄髄膜瘤は、神経が皮膚表面に露出した状態で出生しますので、感染予防、二次的神経障害予防のために生後48時間以内に修復術を行っています。出生前診断された場合は、多摩総合医療センターで予定分娩となります。水頭症キアリ奇形II型を伴う場合には、その治療も並行して行います。
 脊髄脂肪腫は、おしりのこぶや皮膚のくぼみ、色素沈着、異常毛髪などの外見の異常が多くの場合、診断の契機になります。症状がでている場合、あるいは症状が出ていなくても脊髄空洞症を伴っている場合などに手術を行い、脊髄係留(脊髄がけん引された状態)を解除します。球海綿体反射モニターや誘発筋電図などの高度な術中神経生理学的手技を全例に行っており手術の安全性向上に努めています。
 終糸病変による脊髄係留症候群は、排泄機能に悪影響がでているとき、脊髄空洞症を伴うときには手術をお勧めしています。排泄機能に関しては、一般の診察ではわかりにくい軽微な症状変化も見逃さないように、泌尿器科や消化器科との連携体制を整えています。

キアリ奇形、脊髄空洞症

 キアリ奇形とは、本来頭蓋骨の中にあるべき小脳の一部がくび(頸椎)のほうにはみ出た状態のことです。歩行障害、排尿障害、頭痛、側弯、無呼吸などの症状があるとき、脊髄空洞症を伴っているときには手術が必要です。大後頭孔を中心に圧迫部位の充分な減圧をおこないます。
 脊髄空洞症はその原因となっているキアリ奇形脊髄係留の治療を優先しておこないますが、その手術をおこなっても脊髄空洞症が改善しない場合には空洞くも膜下腔シャント術を追加します。過去に水頭症の治療歴がある場合には、その治療効果が低下している可能性もあります。

水頭症

 水頭症とは、頭の中に脳脊髄液が過剰に貯留した結果、頭蓋内圧が亢進する疾患です。乳幼児では大泉門の膨隆や頭囲拡大で発見されることが多いのに対し、年長児では頭痛や嘔吐、けいれんなどの症状が多く、年齢によって症状が異なります。最近では超音波やMRIで出生前診断されるケースも増えてきています。
 水頭症の治療法は、原則として手術しかありません。手術方法には、シャント手術内視鏡手術があります。シャント手術では、カテーテルを体内に埋め込み、脳脊髄液を自分の体の他の部分に流して、代わりに吸収できるようにするものです。これはすべてのタイプの水頭症に有効です。内視鏡手術は、髄液の通過障害が原因で、吸収能が保たれているような場合に有効ですが、6か月未満の乳児での効果は乏しいことが知られています。
 当科では、シャント手術にも内視鏡手術も多くの経験を有してしており、適切な術式を選択しています。

くも膜嚢胞

 くも膜嚢胞とは、脳脊髄液がくも膜という脳を覆う薄い膜の間に貯留して袋状になったものです。くも膜嚢胞が原因と考えられる頭痛や麻痺などの症状がある場合、脳や隣接する頭蓋骨への圧迫が高度の場合、くも膜嚢胞が徐々に大きくなってきている場合などでは、手術の対象となります。
 手術の方法には、嚢胞の膜に切開を入れて正常な髄液腔と交通をつける嚢胞開窓術と、水頭症と同じようにチューブを埋め込んで離れた他の部位に交通をつけるシャント手術の2つがあります。嚢胞開窓術は開頭で行う場合と内視鏡で行う場合があります。年齢や病態に応じて最適の治療法を選択としています。

頭蓋骨縫合早期癒合症

 頭蓋骨は、複数の骨が組み合わさって構成されていますが、乳幼児期には頭蓋が成長するためにこれらの骨がまだ完全には癒合していません。頭蓋骨縫合早期癒合症とは、何らかの原因で、骨の接合部である頭蓋骨縫合が早期癒合を起こしてしまい、骨の成長に影響が出る疾患です。癒合する縫合によって、三角頭蓋舟状頭蓋短頭蓋斜頭蓋尖頭蓋塔状頭蓋クローバーリーフ頭蓋などの特徴的な頭蓋形態を生じます。この疾患の問題点は、頭蓋変形を来すことと頭蓋容積が不足してしまうことです。そのため形成外科と脳神経外科が協力して、頭蓋形態改善と頭蓋容積拡大を両立させる治療を行います。
 年齢や早期癒合部位から、従来式の頭蓋拡大形成術と近年広まってきた骨延長法とを使い分けるようにしています。骨延長法では頭蓋形態改善効果を高めるためにMoD法と呼ばれる方法を用いることもあります。6か月未満で診断された場合には、内視鏡支援下縫合線切除術に形態誘導ヘルメット治療を組み合わせる場合もあります。

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脳動静脈奇形

 脳動静脈奇形は、ナイダスと呼ばれる異常血管を介して、動脈と静脈が直接交通している疾患です。小児では多くの場合、脳内血腫を起こして発症します。けいれん発作や意識障害、片麻痺などの症状を呈することもあります。年間出血率は約3%で、小児では5人に1人が致死的出血になるとされています。
 外科的にナイダスを摘出する開頭手術、ガンマナイフなどの定位放射線治療、カテーテルを用いた血管内治療などがあります。またそれらを組み合わせて治療することもあります。
 脳血管内治療は多摩総合医療センター、虎の門病院と協力して実施しています。

もやもや病

 もやもや病は、脳に血液を供給する重要な血管が狭窄したり閉塞したりする原因不明の疾患です。小児の場合、多くが一過性脳虚血発作(意識障害、脱力、感覚異常、けいれん、頭痛など)で発見されます。この一過性脳虚血発作は、過呼吸(啼泣、吹奏楽器の演奏など)で誘発されます。脳血管撮影で、脳内にもやもや血管とよばれる異常な血管網が確認されることで診断されます。
 治療は、脳虚血の状態を改善し脳梗塞を予防するため、頭蓋外の血流を頭蓋内に誘導する血行再建術を行います。血行再建術にも、直接血行再建術間接血行再建術があります。直接術とは、頭皮の血管と脳表面の血管を直接吻合して血流を増やす術式です。間接術とは、頭皮の血管を含む帽状腱膜や骨膜などを脳表に接着させ、脳へ血流を供給する新生血管を誘導させる術式です。
 年齢、症状の頻度、脳梗塞の有無、虚血の範囲などを考慮して適切な治療法を選択しますが、当科では安全性を重視して間接術を基本としています。

脳性麻痺

 脳性麻痺そのものは外科治療の対象ではありませんが、痙縮とよばれる四肢や体幹の筋緊張が異常亢進した状態を既存の内科的治療やリハビリテーションでコントロールできない場合に外科治療の対象となります。脳神経外科では、髄腔内バクロフェン(ITB)療法機能的脊髄後根切断術の2つの術式がありますが、痙縮の拡がりや年齢、治療のゴール設定などを総合的に検討して術式を選択します。当科は、小児に対するITB療法、機能的脊髄後根切断術ともに行える数少ない施設のひとつです。