二分脊椎センター長からのごあいさつ
このたび東京都立小児総合医療センター内に二分脊椎センターを組織することになりました。当院ではこれまで二分脊椎チームを結成し、多職種で連携して二分脊椎に対する高度な診療を提供できる体制を整えてきました。二分脊椎では、成人後も継続的な通院が必要になりますが、成人後の受け入れ先がなかなか見つからなかったり診療が途絶えてしまったりするなどの問題が生じていました。これらの問題を解決するため、二分脊椎に特化した移行期医療への取り組みも始め、成果をあげつつあります。新しく組織した二分脊椎センターでは、二分脊椎の患者さんが安心して成長できるよう、専門的診療と移行期医療支援を軸として包括的にサポートしてまいります。
二分脊椎センター長
脳神経外科部長
井原 哲
二分脊椎センター組織図
二分脊椎とは
二分脊椎は、胎児期に背骨の一部分がうまく形成されず、脊髄が背骨の中から外へ出てしまう疾患です。二分脊椎の多くは腰椎や仙椎に生じることから、下半身に影響が生じます。代表的な症状は、排尿や排便に関わる排泄機能の障害、足の痛みや感覚障害、歩行障害などです。
当院では二分脊椎の患者さんに対して、出生前から成人期に至るまで、多診療科および多職種で診療・支援する取り組みを行っています。脳神経外科は二分脊椎に対する外科的治療、神経因性の排尿、排便管理には泌尿器科、消化器科、外科が担当しています。看護は皮膚・排泄ケア認定看護師、移行期支援担当看護師がサポートします。また、神経因性の排尿、排便障害に対する治療を改善するため臨床研究に取り組んでいます。
各科への受診を希望される患者さんは、紹介状をお持ちのうえ、各科の外来予約、またはセカンドオピニオン外来予約をお取りください。
初診の方
セカンドオピニオン外来について
思春期・若年成人(AYA)世代までの対応と移行医療
当院では二分脊椎などの小児慢性特定疾患の治療は15歳を越えても対応しています。成人期に向い、徐々に患者さまが自己の疾患理解や自律的な体調管理ができ、成人医療機関へ移行するまでのプロセスをしっかりと支えています。
成長に応じた療養環境と思春期・若年成人(AYA世代)への対応
臨床研究
神経因性の排尿、排便障害に対する治療を改善するため臨床研究に取り組んでいます。
小児の神経因性排尿筋過活動による膀胱機能障害に対するボツリヌス毒素の膀胱内局所注入療法の第I相試験(PDF 266.2KB)
排泄ケアカンファレンス
二分脊椎に伴う排泄機能障害には、尿失禁・便失禁や便秘症だけでなく、自覚症状を伴わない膀胱機能障害もあります。そこで、2013年より排泄機能に関する情報を共有することを目的に、脳神経外科医、泌尿器科医、消化器科医、外科医、皮膚排泄ケア認定看護師で排泄ケアカンファレンスを定期開催しています。カンファレンスは毎週1回、30分程度です。カンファレンスでは、各科からの情報が提供されます。
消化器科は注腸造影、肛門内圧測定結果と、現在の排便管理方法
泌尿器科は排尿時膀胱造影、膀胱内圧測定の結果、現在の治療・排尿管理方法
脳外科はMRI結果から、今後の治療・手術計画等が、看護からは、生活状況や進級等に合わせての問題点等です。また、2022年から二分脊椎移行外来担当医(総合診療科医)、移行期担当看護師も参加し二分脊椎患者の移行支援についてもカンファレンスを行っています。出生から移行を迎えるまで、二分脊椎患者さんのトータルケアをチームで取り組み、よりよい生活を送っていただけるよう支援していきます。
診療科のページ
脳神経外科
脳神経外科では、二分脊椎(脊髄髄膜瘤、脊髄脂肪腫、脊髄係留症候群など)および関連する水頭症やキアリ奇形、脊髄空洞症に対する外科治療を担当しています。球海綿体反射モニターや誘発筋電図などの術中神経生理学的手技を全例に行っており手術の安全性向上に努めています。
また、多摩総合医療センターと連携して、出生前診断にも取り組んでいます。
泌尿器科
泌尿器科では、二分脊椎における下部尿路機能障害の評価と尿の排泄管理を行っております。下部尿路機能障害とは排尿・蓄尿の機能の障害のことで、二分脊椎のお子様は排尿・蓄尿それぞれの障害を起こす可能性が高い疾患ですので、この機能の評価とそれに対する管理方法を決定いたします。適切な管理を行うことで「おしっこを出す」「おしっこをためる」「おしっこが漏れない」ということ以外に「腎臓の機能が悪くならない」「尿路感染を起こさない」ことが可能になります。この機能評価のためには排尿時膀胱造影、膀胱内圧検査、尿流量測定等の検査を定期的に行う必要があり、脊髄の状態が安定する成人期まで継続して評価する必要があります。これらの評価とともにご家族・ご本人の理解・社会的背景・サポート体制等を考慮して、自排尿管理から間欠的導尿、尿路変更、膀胱拡大術、尿失禁防止術、導尿路作成を行っております。
なお、現在当院では成人では使用が可能なボツリヌス毒素の膀胱内局所注入療法の先進医療に取り組み、日本の小児においてこの治療が行うことができるように進めております。
消化器科
消化器科では、二分脊椎(脊髄髄膜瘤、脊髄脂肪腫、脊髄係留症候群)の排便障害の管理を担当しています。ガストログラフィン注腸で直腸角をみることにより、骨盤底筋群の緊張から便失禁タイプか便秘タイプかを判断します。また肛門内圧検査で肛門管静止圧、随意収縮、直腸肛門反射を測定し、肛門括約筋の緊張の程度を判断します。排便管理は浣腸でコントロールし、排泄ケア看護師と逆行性洗腸、ペリスティーンを導入しています。順行性洗腸経路としてMACEを外科へ依頼する場合もあります。
外科
- こどもたちの全身における病気、けがに対して外科的に(手術で)治療します。治療範囲は顔面から手足の先まで全身に渡り、年齢も生まれる前の胎児から新生児、乳児、幼児、学童と幅広く診療に当たっています。難治症例や病態が多臓器に渡るような症例においては関連各科と共働して治療にあたります。カンファレンスを開催し、意見を出し合って患者さんにとって最良の結果が得られるよう、チャレンジ精神とチームワークで質の高い医療を実践しています。
二分脊椎の排便管理について(小児外科領域)
整形外科
二分脊椎には足部変形や側弯などの整形外科的な合併症を伴うことがあります。
患者さんによって程度は様々ですが、足部変形や下肢の麻痺があると移動に困難さが生じます。整形外科では装具治療や手術により長期間安定した移動能力が保てるように支援を行います。麻痺の程度や足部の形態によって最適な治療方法をご提案します。定期的に整形外科の診察を受けることは、側弯症や、脊髄係留症候群を早期に発見することにもつながります。
総合診療科
複数の医学的・社会的問題に向き合うこども達が集まるこども病院の中で、「誰に相談したらいいの・・・?」というお悩み解決をお手伝いします。二分脊椎の体質を持つ方々が抱える複合的な問題を総合的に捉え、必要な診療だけでなく、自立へ向けて知っておいて欲しいことなどを確認したり、全体的なコーディネートを行います。皆様が“こども”から“おとな”に移り変わる道のりを、一緒に眺めながら寄り添っていきます。
産婦人科
多摩総合医療センター産婦人科では、赤ちゃんに二分脊椎が疑われた妊婦さんを受け入れ、胎児診断(超音波検査、胎児MRIなど)をおこない、妊娠分娩管理をおこないます。スムーズに治療に移行できるよう、小児総合医療センターの脳神経外科や新生児科と情報共有して、出生前から準備を進めます。出生後の対応を踏まえて、お産の日程やお産の方法を選択していきます。妊娠中でも小児総合医療センターの専門科の先生からお話を聞ける機会を作っています。
他職種の関わり
看護師の関わり
二分脊椎と診断されてから、様々な治療・ケアが必要となる方が多いと思われます。自己導尿や排便コントロールに関して専門的知識を持つ皮膚排泄ケア認定看護師が中心となり、お子様・ご家族と共に日常生活にあったより良いケアを行っていけるように支援させて頂きます。また、お子様が成長していく中で、自立して医療を受けられるように自立支援も行っていきます。
心理士の関わり
心理士は、二分脊椎センターの軸の一つである「成人医療への移行支援」の一環として、お子さんの発達評価を行います。その結果に基づき、今後必要な支援は何か、より疾病理解を深めるにはどのように情報提供していけばよいかを多職種で検討し、お子さんとご家族が安心して成人医療に繋がれるようサポートします。
MSWの関わり
二分脊椎はお子さんがお母様のお腹の中にいるときから診断のつくことが多い疾患で、お誕生後から手術があるなど濃厚な治療が続きます。
そのような時期、医療費がどのくらいかかるのだろうとご心配になることもあると思います。一般的にご加入の医療保険(組合健保や協会けんぽ、国民健康保険などの保険証)のほかに、小学校入学前の乳幼児医療費助成(通称:マル乳)、義務教育就学児医療費の助成(通称:マル子)といった年齢ごとにほぼ全員が持つことのできる医療費助成制度により、基本的には医療費はゼロ円になりますので、あまりご心配はいりません。ただ、これらの助成制度では入院中のお食事代は助成されず、ご入院が長期間になるとお食事代(2023年1月1日現在1食460円)が負担になる場合があるかと思います。二分脊椎の中でも小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象になる場合は、お食事代が1食130円に減額されます。小児慢性特定疾病医療費助成制度以外でも指定難病患者への医療費助成制度の対象になる方はお食事代が1食260円に減額されます。こうした医療費助成制度の対象になるのかを、まず主治医にご確認いただき、対象になる場合は申請へと手続きを進めてください。また、治療が一段落して症状が安定してきましたら、福祉手帳や福祉手当などの社会福祉制度の対象になるかどうかを主治医にご確認いただくとよいと思います。
そして、移行期といわれる中学卒業から成人になる時期には、ご本人も疾患をより詳しく理解し、今までご家族等にやってもらっていた社会福祉制度等の利用について理解することも大切になってきます。ご自身で話を聞く機会としてお気軽にMSW(医療ソ-シャルワーカー)にご相談いただければ幸いです。
面会の帰りに、外来の待ち時間に、どうぞ当院2階21番「うりぼうカウンター」にお寄りください。上記の医療費助成や福祉手帳・手当などの社会福祉制度のこと以外にも、疾患による日常生活での困りごと、保育園や学校での困りごとなど、MSWがご相談をお受けいたします。