乳腺外科
はじめに
乳房のしこり・乳頭からの分泌物・乳房の痛みなど、さまざまな乳房の症状に対して診断・治療を行っています。また、症状が無く検診で精密検査が必要とされた方の診療もおこなっております。
我が国の女性の癌のうち乳癌は罹患率1位であり、生涯罹患率は9人に1人と増加の一途をたどっています。乳癌治療は手術、内分泌療法・化学療法・分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害剤などのさまざまな薬物療法、放射線治療を組み合わせておこなう必要があり、当科では乳癌診療ガイドラインに基づいたうえで個々の病状に応じた治療を行います。
乳腺外科の2022年乳房手術件数はおよそ200件です。
当科の診療のながれ
1.外来
乳腺外科では2名の女性乳腺専門医を中心にチームで診療をおこなっています。外来診療日は、外来担当表をご覧ください。
2.検査
視診・触診などの診察、マンモグラフィー・超音波・CT・MRIなどの画像検査を適宜組み合わせて行います。視触診・画像検査で良性か悪性か区別がつかない病変やがんを疑う病変がある場合、細胞診・針生検などの病理検査を行い診断します。
1)マンモグラフィー
通常のマンモグラフィー撮影に加え、症例によりデジタルブレストトモシンセシス(3Dマンモグラフィ)を追加撮影します。デジタルブレストトモシンセシスでは通常のマンモグラフィ検査と同じように乳房を圧迫しますが、1回の圧迫で多方向からの撮影をおこないます。その後データを再構成することで多数の断面像を作ることができ、乳腺の重なりを解消し、より精度の高い情報が得られます。日本人をはじめとしたアジア人は高濃度の乳腺、いわゆる‘デンスブレスト’の方が多く、乳腺の重なりにより腫瘤の描出が困難な場合があることが従来のマンモグラフィの弱点でした。トモシンセシスによりこのような病変を描出することが可能となりました。
また、後述するステレオガイド下吸引式針生検にも対応しております。
2)超音波検査(エコー)
乳房にゼリーをぬり、探触子(プローベ)をあてて乳房内部の検査を行います。被ばくはなく、妊娠中の方でも検査可能です。
3)穿刺吸引細胞診
病変に採血の針と同じ太さの細い針を刺して細胞を吸引し、その細胞を顕微鏡でみて良悪性を判定します。検査後は少しあざができることがありますが、数日で消えます。検査後の入浴や運動の制限はありません。
4)針生検、吸引式針生検
超音波検査(エコー)で病変が分かるものは超音波ガイド下で、マンモグラフィでしか病変が分からないものはステレオ(マンモグラフィ)ガイド下で生検をします。局所麻酔を行い、皮膚を3-4mm程度切開してやや太い針を刺して組織を採取し、顕微鏡で組織診断を行います。腫瘍の性質の検査も行うことが可能で、治療方針の選択の基準となります。合併症には感染・血腫などがあります。検査後は激しい運動は控えていただきますが、家事や仕事などの日常生活や防水テープを貼付しての入浴は可能です。検査の結果は1~2週間ほどで分かります。
3.手術と治療
良性乳腺疾患は、2016年に開設した日帰り手術センターを通じ、日帰りあるいは1泊2日入院で手術をおこなっております。従来と比べ、患者さんの時間的な負担、治療費の負担を軽減することができるようになりました。
乳癌はクリニカルパスを導入し、5日間前後の入院で治療をしています。進行度に応じて、最適と考えられる手術方法をご相談の上決定します。原則は手術前日午後入院とし、患者さんは午前中に自宅での入浴を済ませることができ落ち着いて入院することが可能です。条件が合えば手術当日朝の入院も可能です。また、入院前に入院サポートセンターで事前の準備や入院・手術・退院までの流れをご説明し、患者さんの不安を解消するよう努めております。
また、癌の進行度や性質によっては、術前化学療法の後に手術を行う場合もあります。
1)乳房温存術
しこりとその周辺の正常な乳腺組織をつけて部分的に乳房を切除します。原則として、術後に外来通院での放射線治療をお勧めします。
温存手術では乳房の整容性を高めるため皮膚切開創の工夫をしています。腫瘍の位置によって、乳房外側や下側の溝、乳輪周囲、腋窩などに切開を置くことで、創部の目立たなくすることができます。
2)乳房切除術
温存手術が適応できない場合は乳房切除術が行われます。胸筋を残し乳房を切除する胸筋温存乳房切除術が一般的です。また適応は限られますが、乳房の皮膚を残して中の乳腺だけを切除する皮膚温存乳房切除術も行っており、症例により乳頭・乳輪も残すことができる場合もあります。
3)センチネルリンパ節生検
乳房に放射性同位元素や色素などを注入し、最初にがんのたどりつくと考えられるセンチネルリンパ節を見つけ、そのリンパ節を切除してがんの転移があるかどうかを調べます。当院では近赤外線光カメラシステムを用いた色素法+ICG蛍光法を採用しており、安定した高い同定率を得ています。もし転移がなければそれ以上のリンパ節を切除せず残すことが可能となり、上肢リンパ浮腫や知覚異常などの合併症を減らすことが可能となります。
4)乳房再建術
乳房切除で失った乳房を新たに手術で作ることができ、形成外科医が担当します。乳房切除と同時に行う場合と、癌の手術後しばらくたってから行う場合があり、おなかや背中などの自分の組織を移植する方法と、人工物を入れる方法があります。
形成外科を受診していただき、最も適した方法を検討します。
4.薬物治療
病巣の病理組織検査(組織型、脈管侵襲、リンパ節転移の有無、核異型度、ホルモン感受性、上皮増殖因子など)を調べて、治療方針(抗がん剤治療・ホルモン療法・分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害剤など)を決定します。病状に応じて術前に行うこともあります。治療は外来通院でおこなっております。
5.BRACAnalysis診断システム(遺伝性乳癌卵巣癌症候群の遺伝子検査)
BRACAnalysis診断システム(遺伝性乳癌卵巣癌症候群の遺伝子検査):乳癌の約5-10%程度は遺伝性と考えられそのひとつがBRCA1/2遺伝子の病的な変異を原因とする遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)です。従来はPARP阻害剤(オラパリブ)の転移再発乳癌患者への適切な投与を行うためのコンパニオン診断として用いられていましたが、2020.4月にHBOCの既発症者に対するリスク低減乳房切除術ならびにリスク低減卵管卵巣摘出術が保険収載となり、それに伴い一定の条件を満たす場合BRACAnalysisの適応が拡大されました。HBOCと診断された場合は、遺伝子診療科で遺伝カウンセリングをおこない、患者さんの心情に寄り添いながら意思決定するために必要な支援を行っていきます。(当院ではリスク低減乳房切除術ならびにリスク低減卵管卵巣摘出術は行っておりません。都立駒込病院と連携し診療を行います。)
乳腺外科スタッフ
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2024年5月13日 最終更新