ALSについて知っておきたいこと

6月21日は世界ALSデーです

ALSについて知っておきたいこと

国が定める指定難病の1つ、筋萎縮性側索硬化症(ALS)。病気の原因はまだはっきりとはわかっていませんが、ALSの患者さんを支える医療体制は整ってきています。神経難病の専門医である東京都立神経病院 脳神経内科医長の木田耕太(ぼくだ・こうた)先生にALSという病気についてお話をうかがいました。

都立神経病院
脳神経内科医長 ALS/MNDセンター
木田 耕太

専門分野:神経疾患一般、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、臨床神経生理学

注目情報神経病院 | 東京都立病院機構 (tmhp.jp)

(注)「MND」:運動ニューロン疾患

ALSとはどのような病気?

私たちが身体を動かすときには、大脳の運動野(うんどうや)という領域から指令が出て、錐体路(すいたいろ)という運動を伝える経路を通ります。たとえば、「手を動かせ」という指令が運動野から出されると、脊髄で筋肉へつながる末梢の運動神経に乗り換え、筋肉に伝わり筋肉が収縮することで手の運動が起こります。ALSの患者さんでは、脳から筋肉に至る運動の指令系統が広範囲で障害されるため身体を動かすことが難しくなります。なぜ運動にかかわる神経にこのような変化が起きるのか、病気の原因はまだわかっていません。近年、ALSの患者さんの運動神経を中心として蓄積する病的なタンパクが発症にかかわっているのではないかと考えられています。

日本におけるALSの患者さんは10万人に対し約10人、新たに発症する患者さんは1年で10万人あたり約2人です。発症する年齢は60-70歳代がもっとも多く、80歳以上の方では少なくなります。男女比ではやや男性のほうが多く発症しています。ALSという病気の約5%は家族性(遺伝性)のものと考えられていますが、約95%の患者さんに家族歴はありません。

ALSの症状・サイン

ALSの症状はいくつかあり、最初に違和感を覚える場所は人によって異なります。

ALSのおもな症状

手や腕の違和感

箸が使いづらい、ボタンがかけにくい、
どんぶりを持ち上げにくい、腕が重たく感じられる など

足の違和感

歩く速度が遅くなった、転倒しやすくなった、足首の曲げ伸ばしができなくなった など

平坦な道でつまづく
お口まわりの違和感

ろれつが回らない、水を飲んでいてむせる など

からだ全体(体幹)の違和感

首が下がる、座った姿勢を維持しにくい など

呼吸器まわりの違和感

息切れがする、階段を上るのがつらい など

たくさん寝たのに疲れがとれない

これらの症状はALS特有のものではありませんが、これまでと違った身体の変化や違和感に気づいたら病院に行き、そのような症状をもたらす病気をみつけることが大切です。

ALSは早期診断が必要

ALSという病気は、周囲に同じ病気の患者さんがいることが少なく、情報も少ないため、不安を感じることが多いと思います。早期に診断を受けることで、ALSに関する正しい情報を得ることができれば、病気の進行を遅らせることが期待される薬を使った治療を受けることができます。現時点では病気の進行を止めることは難しいですが、早期に薬による治療や栄養療法、呼吸療法、リハビリテーションなどに取り組むと取り組まないとでは、病気の経過が異なるといえます。また、早期診断により治験などを受けられる機会につながる可能性も広がります。

ALSの栄養療法とリハビリ療法

ALSの発症まもない時期に、しっかり食事をとっているにもかかわらずどんどん痩せてしまう患者さんがいますが、これまでの研究から急激な体重減少が目立たない患者さんのほうが病気の進行がゆっくりとしていることがわかっています。体重の減少を防止するには、高カロリーの食事をとることが勧められますが、お口から食べていても痩せてしまう患者さんや、たくさん食べられないという人に対しては、お口から食べられている時期から胃ろう(お腹に小さな穴を開けそこからチューブを使って胃に直接栄養を注入すること)をつくることも検討されます。必要な栄養は胃ろうから取り込み、自分の好きなものをお口から召し上がるというハイブリッドな栄養療法を選択している人もいます。

また、筋力の衰えを防止するためにはリハビリテーションを行います。最近は歩行機能を改善するリハビリとして、ロボットスーツを使うことがあり、歩行距離の延長などの効果が報告されています。

ロボットスーツHAL
ロボットスーツHAL®
ロボットスーツを使用している様子
ロボットスーツHAL®を使用している様子

ほかにも睡眠中に呼吸が弱くなることで、目が覚めたり(中途覚醒)、起きたときに頭痛がしたり、日中も眠くて仕方がないなど、良質な睡眠が得られないために生活全般のQOLが低下することがあります。そのような場合には、呼吸を補助する人工呼吸器を睡眠時に使用することが検討されます。

ALSと共に生きるために

ALSという病気は厳しい経過をたどると思っていらっしゃる方が多いでしょう。しかし、病気の経過は患者さんによって異なります。現時点では病気の進行を止めることはできませんが、治療やケアによって患者さんにとって「よい時間」を増やすことができます。何が「よい時間」なのかは、患者さん一人ひとり異なると思いますが、ALSという進行性の病気になっても、家族と過ごしたり、これまで通りに仕事をしたり、趣味を堪能したりと、自分らしくいられる時間をより長くもち続けてもらいたいと思います。

治療を選択する際には、患者さんのご希望・お考えに基づき、私たち医師は医療のプロフェッショナルとして患者さんに情報を提供し、共に話し合いながら生活や治療の方針について決めていきます。そして、患者さんが選んだ治療やケアを適切に実現するために、医師や看護師、薬剤師、理学療法士、医療ソーシャルワーカーなどそれぞれの専門家が集まり、ワンチームで患者さんを支えます。

ALSは進行性の病気ですが、だからこそ「どう生きたいのか」を患者さんも医療者も考え、ディスカッションすることが必要だと思います。このように話し合いから物事を決めていくことを「協働意志決定」といいます。


ALS/MNDセンター看板
都立神経病院 ALS/MNDセンターのプレート

診療室の前に掲げられたプレート。プレートは多摩産材でつくられており、あたたかい雰囲気が伝わってくる。

ALSの患者さんへのメッセージ

現在は、インターネットで病気のことを簡単に調べることができますが、ALSは多様性がある病気で、Aさんの経過をBさんも同じようにたどるわけではありません。ご自身の症状と照らし合わせてご不安・ご不明に感じられる点については担当医など医療者へお尋ねください。また、患者会などで同じ病気の人と交流し、経験や考えを聞くことで、ALSと共に生きていくヒントがみつかるかもしれません。

この病気は患者数が少ないため、脳神経内科の専門医であってもALSの患者さんを診る機会が必ずしも多くはありません。何か不安やお困りのことがあったら、都立神経病院のような専門施設のセカンドオピニオン外来を利用してご相談ください。不安なことをそのままにしないで解決していくことは大事なことで、医師に対しても遠慮しないで、わからないことは聞き、自分の考え、希望を伝えるようにしましょう。

ALSは国が定める「指定難病」の1つです。都道府県等の窓口に申請し、認定されれば「医療受給者証」が交付され、医療費助成を受けることができます。申請方法は、主治医や看護師、医療ソーシャルワーカーにお尋ねください。

参考

筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023,筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン作成委員会,日本神経学会.南江堂

厚生労働省,難病情報センター;https://www.nanbyou.or.jp/

最終更新日:令和6年6月19日