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厚生労働省の調査1)によると、2023年の分娩数のうち、無痛分娩が占める割合は13.8%でした。分娩数そのものは減少傾向にありますが、無痛分娩は増加傾向にあります。子育て支援対策として東京都でも無痛分娩に助成金を出すことが発表されました。無痛分娩という選択肢について、東京都立豊島病院の産婦人科部長 坂巻 健先生にききました。
都立豊島病院
産婦人科部長
坂巻 健

注目情報産婦人科 | 豊島病院 | 東京都立病院機構 (tmhp.jp)
無痛分娩とは
無痛分娩とは、陣痛による痛みを麻酔薬で軽減して出産することです。無痛分娩に寄せる妊婦さんの期待は「痛みゼロ」であると思われますが、実際には完全に痛みをなくすというよりも、痛みを和らげる「和痛(わつう)」と考えるとよいでしょう。とはいえ、実際に無痛分娩を経験した人のなかには「痛みはほぼゼロだった」という人も多いです。
痛みに対する感覚は個人差が大きく、同じ種類、同じ量の麻酔を同じように使用しても、「痛みはほぼゼロ」という人から、「少し痛かった」「やっぱり痛い」という人まで幅があります。
無痛分娩の2つの選択肢
無痛分娩には大きく分けて2種類の方法があります。
- オンデマンド:陣痛や破水が起きてから病院に行き、麻酔をかけて出産する方法
- 計画分娩:出産日を決め、その日に陣痛を誘発する薬を使い、その後麻酔をかける方法
「オンデマンド」のほうがより自然に近いと思いますが、どちらを選択するかは妊婦さんの希望に任されています。
無痛分娩における麻酔の影響
無痛分娩の場合、麻酔の影響で陣痛が弱くなる人や、いきもうと思っても下半身に力が上手に伝わらないという人が一定数います。そのため、分娩時間が長くなることがあり、また、半数近くの妊婦さんは吸引カップや鉗子(かんし)などの器具を使って出産をアシストする器械分娩になることがあります。
無痛分娩に用いられる麻酔法
無痛分娩に用いられる麻酔法にはいくつかありますが、代表的なものをお伝えします。
硬膜外麻酔
多くの施設で取り入れられているのが「硬膜外麻酔」です。背中から背骨の中の「硬膜外腔」というスペースにカテーテルを挿入して麻酔薬を注入します。硬膜から麻酔薬が脊髄へ吸収されて痛みを感じなくなります。硬膜外麻酔では硬膜を突き破らずに行います。

硬膜外麻酔と脊髄くも膜下麻酔の併用
「硬膜外麻酔」に、脊髄くも膜下腔という脳脊髄液で満たされているスペースまで針を進め麻酔薬を注入する「脊髄くも膜下麻酔」を併用する方法があります。硬膜外麻酔単独よりも痛みが少なくなるメリットがあります。
無痛分娩を希望する場合
無痛分娩を希望する場合、すでに産科にかかっている人は、主治医に相談しましょう。無痛分娩を行っていない病院の場合は、ほかの病院を紹介してもらうことになります。
まだ病院にかかっていないという人は、インターネットで無痛分娩を行っている病院を探し、受診することになります。JALA(無痛分娩関係学会・団体連絡協議会)*という団体のホームページには、「無痛分娩施設検索リスト」がありますので、このような情報を利用するとよいでしょう。
* JALA(無痛分娩関係学会・団体連絡協議会)
注目情報JALA | 無痛分娩関係学会団体連絡協議会 (jalasite.org)(外部リンク)
無痛分娩ができない場合
無痛分娩を受けられないというケースは非常に少ないのですが、抗血小板薬や抗凝固薬などの血液をサラサラにする薬を日頃から飲んでいる方や、脊髄などに問題がある場合は、麻酔ができないことがあります。
医師としっかり相談し、最適な選択をしてください。
無痛分娩のメリットとリスク
無痛分娩の最大のメリットは、やはり出産に伴う痛みがほぼゼロにできるということでしょう。痛みが少ないことで、身体的・精神的な負担も減ります。
一方でリスクに関しては、麻酔薬によって母親の血圧が下がることがあり、その影響で胎児に酸素が届きにくくなることがあります。ただし、短時間であれば胎児への影響はほぼありません。また、1万人に1人程度と非常にまれではありますが、麻酔薬に対してアナフィラキシーという即時性の強いアレルギーが出ることがあります。
また、硬膜を破って注入する脊髄くも膜下麻酔をした場合、1週間程度頭痛が続くことがあります。非常にまれなケースですが、硬膜外血腫ができたり、硬膜外麻酔のカテーテルが脊髄くも膜下腔内に迷入すると「全脊髄くも膜下麻酔」となることがあり、過去には呼吸停止や心停止が起こり、後遺障害が残るなどの事例もありました。
メリットだけではなく、少なからずリスクはあるということは理解しておいていただきたいです。
費用
無痛分娩は通常の出産より10万円から20万円ほど高くなることがありますが、自治体によっては、無痛分娩にかかる費用を助成しているところもありますので、お住まいの市区町村の担当窓口で確認してみましょう。
ドクターからのメッセージ
~無痛分娩という選択肢もあることを知ってもらう
産婦人科医として、無痛分娩を強く勧めることはありませんが、この選択肢を知らずに、出産後に後悔するのは避けたいと考えています。まずは、無痛分娩という選択肢があることを知っていただき、それを選ぶかどうか、しっかりと判断していただければと思います。そのための判断材料として、無痛分娩に関する情報をメリットもリスクも含めて、無痛分娩説明会などを通して正確にお伝えしています。そして、医師は皆さんの選択を尊重し、全力で応えていきます。

- 1)厚生労働省「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」
02sisetu05.pdf (mhlw.go.jp)(外部リンク)
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最終更新日:令和7年3月26日