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周囲にも「白内障の手術をした」という人は多くいるのではないでしょうか。白内障手術を受ける人は60代以降に増えてきますが、その発症はもっと若いときから始まっているといいます。そんな白内障の手術を検討している方、いつかやってくる白内障について知りたい方、必見です。白内障の基礎知識について、東京都立広尾病院 眼科 医長の五十嵐多恵先生にききました。
東京都立広尾病院
眼科医長 五十嵐 多恵
白内障という病気
白内障は眼球の前方にある水晶体が濁ってしまうことで発症します。水晶体は、遠くや近くにピントを合わせる調整の働きがありますが、加齢とともに、ピント調整の働きは低下し、やがて水晶体が濁って光が通らなくなると、ものが見えにくくなります。
2020年の推定患者数はおよそ7万1千人1)で、患者さんはほとんど65歳以上、80歳代では100%の人が白内障を発症しているといわれています。
白内障の原因の多くは加齢です。年齢を重ねることで、眼の機能も変化してしまいます。ほかには、少数ではありますが、先天的に水晶体が濁ってしまう場合や、糖尿病やアトピー性皮膚炎などの病気や治療薬のステロイド剤が発症原因となる場合もあります。外傷性白内障といい、交通事故やスポーツによる事故で眼球に障害を受け、水晶体が傷つくことで白内障になることもあります。
白内障を誘因するものに「紫外線」があります。外出時にはUVカットレンズのサングラスやつばのある帽子をかぶり、紫外線を直接眼に受けることがないようにしましょう。ほかには喫煙やアルコールの過剰摂取もよくありません。
白内障の症状は見え方の変化
白内障の症状としては、次のような変化があります。
- ものがぼやけて見える
- 光がまぶしく感じられる
- これまでのメガネが合わなくなる
- ものが二重三重に見える
40代を過ぎると水晶体が濁り始める人も多いですが、ゆっくりと症状が進行していくため、症状に気づかないことがよくあります。「ものが見えにくい」と気づいても、「老眼が進んだだけ」と自己判断してしまい、病院に行かない人も多いでしょう。しかし、実際には、見え方の変化から眼科を受診したら、白内障だったということがよくあります。
このような症状に気づいたら眼科を受診しましょう。実際に検査をしたら、白内障ではなく、白内障以外の病気がみつかる場合も多くあります。眼の病気にはさまざまなものがあり、突然、片目が見えなくなったといって病院に来る人もいます。やはり「何かおかしい」と感じたら自己判断せず、しっかり検査・診断を受けるということが大切です。
QOLの低下につながる白内障
世界的には白内障は中途失明の原因の1位となっています。一方、日本のような先進国では医療が受けやすく、白内障の治療技術も高いため、多少、病気が進行しても手術を受ければ視力を失うことはほぼありません。したがって、白内障が原因で視力を失う人は約3%に留まっています。しかし、失明しないからといって白内障をそのままにしておくと、QOL(生活の質)が低下します。
QOLの低下としては、やはり「見えにくい」ということになります。読書が趣味だったが、目が疲れてしまいじっくり本を読むことができなくなったり、見えにくいことで掃除が行き届かず、ほこりや髪の毛が落ちている汚い部屋になってしまったりすることがあります。
ほかにも、「転倒」しやすいことはQOLの低下といえます。白内障の人では転倒のリスクが、白内障ではない人に比べて1.8倍といわれています。転倒は筋力や平衡感覚の低下などほかにも原因がありますが、見えにくくなることで、わずかな段差に気づかずに転倒してしまうことなど心配されます。転倒をきっかけに介護状態になることもありますので、十分な注意が必要です。
また、これまで技術職として緻密な作業をしてきた人が、ものの見え方に問題が生じることで、自分が納得できるレベルの仕事ができなくなり、引退や転職を考えることがあります。そんな人は白内障や老眼の進行を疑ってみてください。白内障の手術をしたり、度数の合った老眼鏡に直したりすることで以前と変わらぬ働き方ができることがあります。
白内障の治療 ~眼内レンズの選び方
白内障の治療の中心は手術になりますが、早期ならば点眼治療で進行の速度を抑えることが期待できます。ただし、点眼治療は水晶体の濁りそのものを改善するわけではないので、日常生活に支障が出るようになったら、手術を検討しましょう。
白内障の手術は濁ってしまった水晶体を取り出し、代わりに眼内レンズを挿入します。手術時間は白内障の進行度など患者さんの状況によって異なりますが、通常は実質10~20分程度で終わるため、日帰り手術が可能です。ただし、手術の翌日には受診をしてもらいますので、入院したほうがよい場合は一泊入院してもらいます。
白内障の手術に伴う治療で、多くの関心が寄せられるのが「どのような眼内レンズにするか」ということではないでしょうか。眼内レンズには単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズがありますが、どちらが優れているということはないので、ご自分の望む見え方や、費用など総合的に考えて選びましょう。
単焦点眼内レンズは焦点が一つだけの眼内レンズです。患者さんのこれまでの見え方の状態やライフスタイルに適したもの、より自然体で使える焦点の眼内レンズを、医師と相談して選ぶとよいでしょう。これまでの人生で、ずっと遠くは眼鏡なしで生活しており、手元は老眼鏡を使用して見てきた人が、「老眼鏡を使いたくないから近くに焦点が合う眼内レンズがいい」ということがあります。これまでの見え方(近くは見えにくいが遠くのものはクリアに見える)と逆になるわけで、実際に手術を行ってみると、違和感や生活上の不便を覚える人は少なくありません。だからこそ、眼内レンズの焦点は、主治医と事前にしっかり話し合って決めることが大切です。
一方、多焦点眼内レンズは、近距離から遠距離まで、さまざまな距離に焦点が合うように作られています。このため、眼鏡を使用する頻度を減らすことができます。これまで多焦点眼内レンズは保険診療の適応外となるため、費用は全額自己負担でした。しかし2020年からは、選定療養という制度を利用することで、多焦点眼内レンズの費用のみを自己負担すれば、手術は健康保険で受けることができるようになりました。
手術後はしばらく数種の点眼薬を用いて治療します。1日に何回も点眼する必要がありますので、用法用量を守って忘れずに点眼しましょう。
手術後の生活は、目の中を無菌状態に保つことが鉄則です。感染防止のために1週間くらいは洗顔や洗髪は控えて、目のなかに大量の水が入らないように注意してください。首から下であれば翌日から入浴は可能です。メイクはできれば1週間くらいは控える、とくにアイメイクは控えてください。
ドクターからのメッセージ
~白内障の治療はQOLの向上、人生の質を高めることもある
最初に80代の方のほぼ100%が白内障であるとお話をしましたが、これほど白内障になる人が多いということは、病気というより加齢に伴う体の変化といったほうがいいのかもしれません。誰もがたどる道だからこそ、白内障について関心をもって情報を集めておくことで、白内障になったときに不安になったり、間違った自己判断をすることなく、質の高い人生を、それから先も長く歩み続けることができるでしょう。
日本の白内障手術は高い技術があり、安全に受けられます。ですから、100歳になってもほかに大きな病気がなければ、手術を受けることは可能です。もし、その人の残りの人生が短いとしても、よく見えない、ぼんやりとしたなかで過ごすのと、視界良好で美しいものを見て過ごすのでは、その人の生活、人生が変わってくるのではないでしょうか。最後の最後まで美しいものを見たいという希望のある方は、いくつになっても白内障の手術を検討してみるのもよいかと思います。
1)厚生労働省,令和2年(2020)患者調査(確定数)の概況
kanjya.pdf (mhlw.go.jp)(外部リンク)
参考
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最終更新日:令和7年1月10日