5月9日は呼吸の日
11月12日は世界肺炎デーです!
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東京都立東部地域病院、呼吸器内科部長の吉岡泰子先生と、吉岡先生と共に「のみこみ評価外来」を行っている摂食・嚥下障害看護認定看護師、言語聴覚士、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定管理栄養士の皆さんに誤嚥性肺炎の予防についてききました。
東京都立東部地域病院
呼吸器内科部長 吉岡 泰子
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注目情報東部地域病院 | 東京都立病院機構 (tmhp.jp)
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誤嚥性肺炎とは なぜ起きるの?
口から入った食べ物や飲み物、唾液が食道ではなく、誤って気道(空気の通り道)に入ることを「誤嚥」といいます。誤嚥性肺炎は、誤嚥したときに口の中や喉にいた細菌やウイルスまで一緒に飲み込むことで、肺炎が起きることをいいます。
令和5(2023)年に誤嚥性肺炎で亡くなった人は全体の死因の6位1)ということからも、誤嚥や誤嚥性肺炎に対して十分な注意が必要です。
次のような障害や機能低下などがあると誤嚥性肺炎の発症リスクが高いといわれています。
嚥下機能が低下している人
通常は食べ物などが誤って気道に入らないように喉頭の入り口には喉頭蓋(こうとうがい)というふた状の部分が閉じます。嚥下機能が低下すると、ふたが閉じなかったり閉じるタイミングが遅れたりして、誤嚥のリスクが高まります。また、食べ物を咀嚼する力や飲み込む力が低下することでも誤嚥しやすくなります。
咳反射が低下している人
誤嚥すると、食べ物や飲み物を外に出そうと咳き込みます。これが咳反射です。高齢者や脳卒中などを経験した人では咳反射が低下する傾向にあり、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
口の中の清潔が保たれていない人
口の中の清潔が保たれていないと、口腔内の細菌の数が増えてしまいます。そのような状態で誤嚥が起こると肺に細菌が侵入し、誤嚥性肺炎を発症するリスクが高まります。
体力や抵抗力に低下がみられる人
誤嚥により、口の中の細菌が肺に入ってしまっても、抵抗力があれば、菌を駆除することができます。しかし、体力も抵抗力も低下してしまうと肺炎を発症しやすくなります。
ほかにもタバコを吸っていると気道をきれいにする働きが低下して、誤嚥による炎症を起こしやすくなります。禁煙は将来の誤嚥性肺炎を予防するために大切です。
誤嚥性肺炎の症状と周囲の人が気づくポイント
誤嚥性肺炎もほかの肺炎と同じように、発熱や咳、痰などの症状があります。一方で、なんとなく元気がない、食欲がない、喉がごろごろと鳴るなどの肺炎と結びつきにくい症状も誤嚥性肺炎の可能性がありますので、ご家族など周囲の人は、いつもと様子が違ったら医療機関を受診するよう勧めてください。
なお、治療では、抗菌薬を使った薬物療法や嚥下指導、口腔ケアの指導などを行います。
口の中の機能を評価して誤嚥性肺炎を予防
摂食嚥下障害の方のリハビリは、どこで問題が起きているのか、評価するところから始まります。
最初の評価では、口の中の観察や入れ歯の状態を確認します。口の中が汚れていたら、適切な口腔ケアを指導します。歯に問題があれば歯科受診を勧めます。
次に飲み込む力の状態を確認します。飲み込む力に問題がある場合は、嚥下体操などのトレーニングを行います。嚥下体操の一例を紹介します。
嚥下体操
鏡を見て確認しながら行いましょう
1. 深呼吸
鼻から息を吸って口からゆっくり息を吐きましょう(これを3回)。
2. 肩の上下運動
胸郭が広がると深い呼吸ができる
胸を張り、口から息を吸いながら両肩を上へと持ち上げましょう。同じ姿勢で口からゆっくり息を吐きながら両肩を元の位置に戻します(これを3回)。
3. 首を左右に回す
正面を起点にゆっくりと首を左に右にと回しましょう(これを3回)。
4. 頬のトレーニング
頬の筋肉を鍛えると飲み込む力が向上
頬を思いっきり膨らませましょう。その後、くぼみができるくらい頬を強くすぼめて、しばらくそのままにします(これを5回)。
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5. 口のトレーニング
口の周りの筋肉を鍛えると食べこぼしやむせを防ぐ
唇を横に引いて「イー」と発音するときのかたちにし、その後、唇を思いきりすぼめて「ウー」と発音するときのかたちにします(これを10回)。
6. 舌のトレーニング
舌の筋肉を鍛えると咀嚼した食べ物を塊にしやすくする
口を開け、舌を「ベー」とできるだけ突き出し、
その後、そのまま舌をできるだけ引っ込めます(これを10回)。
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舌で左右の口角をゆっくりタッチし、その後、急いでタッチしましょう(これをそれぞれ5回)。
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7. 深呼吸
鼻から息を吸って口からゆっくり息を吐きましょう。
日常生活で誤嚥性肺炎の予防
食事中にむせやすい人は、調理を工夫することで誤嚥を予防することができます。特に水分は早く喉に入ってくるので、むせやすく注意が必要です。水やお茶だけでなく、高野豆腐やスイカのように噛んだときに水分と固形に分かれる食品もむせやすいです。水分は、とろみをつけることでむせにくくなります。お粥は一見食べやすそうですが、食べているうちに唾液でお粥の水分がサラサラになるため、水分でむせる人はお粥にもとろみをつけるとよいでしょう。
うまく噛めない人や飲み込む力が落ちている人は柔らかい食品を選んだり、ペースト状にしたりと工夫が必要です。食べるときに、椅子に深く座る姿勢を保つことも大切です。
就寝中の唾液の誤嚥が原因で誤嚥性肺炎を発症するケースが多いので、夜寝る前に歯磨きとうがいをしっかりして、口の中の細菌の発生を抑えておきましょう。
そして65歳になったら肺炎球菌ワクチンを接種することも、誤嚥性肺炎の予防では大切です。
ドクターたちからのメッセージ
~人生を楽しむためにも誤嚥性肺炎の予防を
誤嚥性肺炎は慢性的に起こり、発症後の予後は不良といわれ、1年以内に亡くなる方もいます。食事中に咳き込んだり、むせたりすることが気になったら、医師に相談してみましょう。
食事は栄養摂取というだけでなく、おいしいものを食べる喜びに繋がります。いくつになっても家族や友人と楽しく食事ができるように、日ごろから飲み込むことへの意識をもちましょう。足腰の筋力維持のためにウォーキングをするように、嚥下のトレーニングも取り入れて飲み込む力の維持に努めましょう。
誤嚥性肺炎の予防はとても重要です。嚥下体操などのトレーニング、口の清潔を保つ、食事の姿勢や形態の工夫、禁煙、肺炎球菌ワクチンの接種を行い、いつまでもおいしく健康に食事ができるようにしましょう。
- 1)厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況」
15_all.pdf (mhlw.go.jp)(外部リンク)
参考
- 東京都保健医療局「口腔機能の維持・向上」
(外部リンク)https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/shikahoken/pamphlet/dentotaisou(外部リンク)
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最終更新日:令和7年2月12日