糖尿病の合併症

11月14日は
「世界糖尿病デー」です

糖尿病の合併症

「糖尿病が強く疑われる者」の割合は男性で18.1%、女性で9.1%¹⁾と、この10年間高めの数字が続いています。糖尿病は初期の段階では症状はありません。しかし、糖尿病になり、長い時間が経過することでさまざまな合併症が現れることがわかっています。糖尿病は男女ともに年齢を重ねるほど発症する人が増えますが、比較的若い世代から糖尿病予防を始め、そして、糖尿病になった後でも血糖値をしっかりコントロールすることが合併症を発症しないためには重要です。

糖尿病の患者さんの生活や人生までも大きくかかわってくる合併症について東京都立大塚病院、糖尿病・内分泌代謝内科部長の中村佳子先生にききました。

都立大塚病院
糖尿病・内分泌代謝内科 部長
中村 佳子

専門分野 糖尿病、内分泌代謝内科

注目情報大塚病院 | 東京都立病院機構 (tmhp.jp)

 

糖尿病とはどんな病気?

糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)が多くなりすぎて血糖値が高くなる病気です。食事から取り入れられたブドウ糖は筋肉や肝臓、脂肪細胞にエネルギーとして蓄えられたり、利用されたりすることにより、血糖値がさがります。このような調整にかかわっているのが、膵臓で分泌されるインスリンというホルモンです。
しかし、何らかの理由でインスリンの働きが悪くなると、血液中にブドウ糖が多くなりすぎてしまう(血糖値が上がる)のです。
糖尿病にはいくつかのタイプがありますが、ここでは最も患者数が多い2型糖尿病についてお話しします。2型糖尿病は食べ過ぎ、運動不足、ストレスなどの生活習慣や加齢や遺伝的要因などがいくつか重なって発症します。

糖尿病の症状には、喉が渇きやすい、トイレが近くなる、手足がしびれるなどがありますが、実は症状がみられないことのほうが多く、気づかないうちに進行しているのが糖尿病という病気の恐ろしいところといえます。症状がない糖尿病に気づくためには、定期的に健康診断を受け、血糖値をチェックすることが大切です。

 

糖尿病と診断されたら まず生活習慣の改善を!

糖尿病と診断されたら、自分の生活習慣を見直して、改善しましょう。そして、必要に応じて薬による治療を行います。糖尿病境界型(糖尿病予備軍)の人も生活習慣の改善を行いましょう。

食事に関しては、食べ過ぎない、バランスよく食べることが大切です。ただし、これまで何十年も続けてきた食生活をすぐに理想的な食生活に切り替えるのは難しいでしょう。ですから、食事の量が多い人には「まず腹八分目にしましょう」とお話ししています。主食のご飯も、今の8割くらいに減らしてみるとよいですね。そして、「ベジタブルファースト」といい、食事のときには最初に野菜をゆっくり食べることを勧めています。野菜を最初に食べることで糖の吸収が抑えられるのです。また、欠食はいけません。朝食抜き・昼蕎麦・夜ドカ食いはもっとも悪いパターンです。

運動の基本はウォーキングやジョギング、サイクリングなどの有酸素運動になりますが、日常生活の活動量を増やすことを意識しましょう。年齢を重ねてくると筋力が低下するので、筋力トレーニングも取り入れるといいでしょう。片足立ちなどのバランストレーニングは転倒防止にもなるので実践してみてください。

食事や運動のケアが十分でないと、薬を飲んでいてもその効果は十分に得られないことがあります。生活習慣の改善を行い、しっかりと血糖コントロールをしていきましょう。血糖コントロールがうまくいかずに糖尿病が進行した場合、そこにあるのが数々の合併症です。

 

糖尿病の三大合併症「しめじ」とは

「しめじ」のイラスト

血糖値が高い状態が続くと血管が傷みます。細い血管が傷つくことで起こる「糖尿病神経障害」「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」は、糖尿病の三大合併症といわれる特徴的なものです。これらは、神経障害の「し」、網膜症は眼の病気なので「め」、腎症の「じ」から糖尿病合併症の「しめじ」と呼ばれています。

糖尿病神経障害

糖尿病神経障害は最も多い合併症で早期から起こります。神経が障害されて、しびれや痛みを感じたりします。これらの症状は手よりも足に出やすく、どちらか片側ではなく両側に現れます。進行すると感覚が鈍くなり、感覚がなくなったりすると、怪我ややけどをしても気が付かないため重症化することがあり危険です。

糖尿病網膜症

糖尿病網膜症は目の奥にある網膜の血管が傷むことで起こります。初期の段階では自覚症状がないですが、重症化すると眼底出血や網膜剥離によって失明することもあります。自覚症状がなくても検査をすると小さな出血や白斑が見つかることがあります。
眼の症状が出てからではなく、糖尿病と診断されたら、1年に1回など定期的に眼科で眼底検査などを受けることが大切です。

糖尿病腎症

腎臓は血液を濾過(ろか)して老廃物を尿として排出する臓器です。濾過する際には、細い毛細血管でできた糸球体(しきゅうたい)を通りますが、高血糖によって糸球体が傷むことで腎臓の機能が悪くなります。ですが初期の段階では自覚症状がほとんどありません。腎機能が低下するとさまざまな症状が現れ、進行すると透析治療が必要になることもあります。糖尿病と診断されたら、糖尿病の受診の際に、血液検査、尿検査を定期的に受けて、腎機能をチェックすることが大切です。腎機能の低下が進んできた場合には腎臓内科と連携して患者さんを診ることもあります。

 

「しめじ」以外の糖尿病合併症

すでにお話した「しめじ」と呼ばれる三大合併症のほかに注意しなくてはいけない合併症が太い血管が硬くなる(動脈硬化)ことによる大血管障害です。狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などの発症リスクとなります。ただし、これらの病気は糖尿病以外の高血圧症、脂質異常症、肥満なども原因となりますので、糖尿病以外のリスクにも心当たりがあったら、血糖値だけではなく、血圧などにも注意をしましょう。

そして、患者さんだけではなく、ご家族にも気を配ってほしいのが糖尿病足病変です。水虫などの感染症や靴ずれ、タコ・ウオノメなどが足にできていないか、入浴のときに確認する習慣をつけるとよいでしょう。先ほどお話しした神経障害を合併している場合、ささいな傷から化膿したり、重度の血行障害や感染症が併発した場合に、皮膚や筋肉などの組織が壊死(えし)してしまうことがあります(壊疽/えそ)。足が赤く腫れている、熱をもっている場合には何らかの感染が疑われます。皮膚科などを受診してください。

※血行障害:動脈硬化によって血管が狭くなったり詰まったりして、その先の血管に十分な血液が届かないこと(閉塞性動脈硬化症)

足の点検イラスト

 

ドクターからのメッセージ~糖尿病になっても

糖尿病の患者さんだけではなくすべての人にお伝えしたいのは、「糖尿病のことを知ってほしい」ということです。糖尿病と診断されても最初のうちは何の症状もないことのほうが多いのです。しかし、食事療法や運動療法、薬による治療などの効果が十分でなく血糖値が高い状態が続いてしまうと、先ほどお話したような合併症が現れます。最悪の場合、失明や壊疽による足の切断など非常に厳しい現実を迎えることにもなりかねません。糖尿病という病気を理解して、しっかりケアをしてください。

また、健診などで「糖尿病境界型」「糖尿病予備軍」などといわれた場合には、「まだ糖尿病ではないから」と安心するのではなく、診察を受け医師の指導の下、体重管理など糖尿病のリスク因子の管理をしてください。妊娠時に糖代謝異常(妊娠糖尿病)がみられた人は将来的に糖尿病になるリスクがあるといわれているので、1年に1度は健康診断を受け、血糖値の変化を意識してほしいと思います。

糖尿病治療の最終目標は、糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLを確保することです。糖尿病になって「もう治らない」と落ち込むのではなく、しっかり血糖値コントロールをして合併症を発症させないことで、日常生活が制限されることなく生活を続けていってほしいと思います。

 

1)令和4年「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001296359.pdf(外部リンク)

 

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最終更新日:令和6年10月30日