胃がんとピロリ菌の関係 そして、がん検診の重要性

2月4日は世界対がんデー
11月は胃がん啓発月間です!

糖尿病の合併症

2005年、オーストラリアの微生物学者と病理学者がヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)を発見し、ノーベル医学賞を受賞しました。これをきっかけに、ピロリ菌の認知度は一気に高まりました。親しみやすい名前のピロリ菌ですが、実は胃がんの最大の原因です。
東京都立がん検診センター 消化器内科部長の吉永繁高先生に、胃がんとピロリ菌の関係、がん検診の重要性についてききました。

都立がん検診センター
消化器内科 部長
吉永 繁高

吉永部長の写真

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日本における胃がんの状況

胃がんは日本人に多く、大腸がん、肺がんに次いで3番目に多いがんです。2019年に新たに胃がんと診断された人は約12万人で、特に60歳以上で発症する人が増えています。男性では80-84歳、女性では85-90歳でもっとも多く発症しています。5年相対生存率*はがんが胃のなかにとどまっている状態ならば96.7%です。早期発見・早期治療によって、多くの人が5年後も同じように生活できています。しかし、がんが他の臓器に転移すると、5年相対生存率は6.6%と非常に厳しいものになります。

5年相対生存率:がんと診断された人が、治療の5年後に生存しているかを示す指標。100%に近いほど治療で命が救えていることになる。

  

胃がんの原因は、ほぼほぼピロリ菌

胃がんの原因として、塩分過多の食事やアルコール、喫煙などが挙げられますが、なかでもピロリ菌の感染が最も大きな要因です。胃がんの99%はピロリ菌の感染が関係しているといってもよいでしょう。

口から入ってくる細菌などを退治するため、胃のなかは強い酸性に保たれています。そのため、胃のなかに細菌はいないものと考えられていました。しかし、ピロリ菌は自らの周囲を中性にすることで胃のなかで生き延び、胃の粘膜に付いて炎症を引き起こします。炎症が起こると胃粘膜は徐々に薄くなり、萎縮性胃炎になります。ピロリ菌の感染期間が長いほど萎縮性胃炎になりやすく、範囲が広いほど胃がんのリスクが高まります。また、ピロリ菌による細胞のダメージががんのリスクをさらに高めると考えられています。

ピロリ菌に感染し、感染が続くと胃粘膜が萎縮します

ピロリ菌の感染経路として、「井戸水を飲んでいた」「親からの口移しで感染した」などが考えられていますが、はっきりとはわかっていません。しかし、同じような環境で生活している家族にピロリ菌の感染者がいたら、自分も感染しているかもしれないと考え、検査をしてみるとよいでしょう。血液検査でピロリ菌の抗体などを調べることができますが、まれに誤って陰性と出ることがあるため、念のため胃内視鏡検査(胃カメラ)をしておくと安心です。若い世代ではピロリ菌の感染者は少なくなってきていますが、ゼロではありません。

 

ピロリ菌に感染していたら、どうする?

ピロリ菌に感染していることがわかったら、除菌治療を行います。決められた期間、用法用量を守って薬を服用します。治療後に再度ピロリ菌がいるかどうかを検査し、除菌が不完全な場合は、再度除菌治療を行います。
ピロリ菌を除菌することにより胃がんになる確率はグンと下がりますが、まったくゼロになるわけではありません。ピロリ菌除菌後も引き続き胃がんへの警戒を解かずに、1、2年に1度は胃カメラによる検査を受けるとよいでしょう。

 

がん検診はがん予防でもある

ピロリ菌を除菌しても胃がんのリスクはゼロにはならないと聞くと、少しがっかりしてしまうかもしれませんが、最初にお話したように、胃がんは早期で発見し治療をすれば、5年相対生存率は96.7%です。多くの人ががんになっても、これまでと変わらない生活を送れるようになってきているのです。早期がんならば、内視鏡治療などからだへの負担が少ない治療を選択することもできます。

しかし、早期発見・早期治療のためには、症状がない段階でがんをみつけなくてはいけません。それを可能にするのが「がん検診」です。

自治体が行うがん検診や企業が行う健康診断の機会を逃さないようにしてください。もう一つ大切なことは、検診で「要再検査」となったら、ちゃんと精密検査を受けるということです。

自治体や企業が行う検診ではバリウムを使った胃レントゲン検査が、胃カメラ検査よりも10倍くらい多く行われています。胃レントゲン検査で「要再検査」となった場合には、より詳細に観察できる胃カメラ検査となりますが、実際に精密検査を受ける人は6割程度といわれています。残り4割の人がそのまま放置してしまうということが問題で、がんがあった場合、放置することで進行してしまうことが懸念されます。

 

胃カメラ検査の負担を減らす方法

なかには胃カメラ検査は苦しいものと思い込み、精密検査を受けることをためらう人もいるかもしれません。胃カメラ検査のつらさを軽減できるのが、鼻から内視鏡を入れる「経鼻内視鏡検査」です。鼻から入れるので「オエッ」となることは少ないでしょう。以前は、鼻から入れる内視鏡に取り付けられたカメラは小さいため画像があまりよくなかったのですが、現在は性能が向上して、鮮明に胃のなかを映しだすことができるようになりました。

経鼻内視鏡を行っているイラスト

「胃カメラはつらいから」という理由で、精密検査をためらっている人は、「経鼻内視鏡検査」を受けてみてはどうでしょうか。

もう一つ、鎮静剤を使って検査をすることもできますが、その場合非常に低い確率ながら、鎮静剤による合併症の危険がありますので、その点は事前に理解しておくことが大切です。また、合併症の危険があることにより自治体で行われる検診(対策型検診)では、基本的に鎮静剤は使用できませんので、前もってご確認ください。

 

ドクターからのメッセージ
~がんになってもこれまで通り生きていくために

若い世代でのピロリ菌感染者は減ってきていますが、ある程度上の年齢の方では感染している方もしくは感染していた方が多いので、今後もしばらく胃がんは日本人に多いがんであり続けるでしょう。実際2020年には胃がんで約4万人の方が亡くなっています。

まずはピロリ菌の検査を行い、もし感染していたら除菌をし、その後も胃カメラによる検査を定期的に行うということが、がんになってもがんに命を奪われないことにつながります。ピロリ菌がいなくても、自治体や企業のがん検診をしっかり受けることで、病気の重症化を予防できます。がんになっても適切な治療を受け、それからの人生を有意義に過ごしていただけたらと思います。

 

参考文献

がんの統計〈2024年版〉,公益財団法人がん研究振興財団(令和6年3月発行)

 

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最終更新日:令和6年11月20日