5月25日~31日は脳卒中週間
10月29日は世界脳卒中デーです

脳卒中で亡くなる人は昔に比べて減少していますが、依然として脳卒中を発症し、要介護状態になるケースは少なくありません。脳卒中とはどのような病気か、万が一発症した場合に即座に対応するために、どのような知識をもっておいたらよいのか、東京都立墨東病院の脳神経外科医長 土屋 掌先生にききました。
都立墨東病院
脳神経外科医長
土屋 掌

注目情報東京都立墨東病院 | 東京都立病院機構 (tmhp.jp)
注目情報脳神経外科 | 東京都立墨東病院 | 東京都立病院機構 (tmhp.jp)
脳卒中とは
脳卒中は脳血管障害ともいい、脳の血管が急に破れたり、詰まったりすることで発症します。脳の血管が破れてしまうものを「出血性脳卒中」、脳の血管が詰まってしまうものを「虚血性脳卒中(脳梗塞)」といいます。
2024年の厚生労働省の報告によると、2023年度に脳血管障害で入院した人は約110万人¹⁾にのぼり、日本人の死因でも4位となっています²⁾。以前に比べれば患者数が減少しましたが、それでも多くの人が命を落としています。さらに命が助かっても、片麻痺や言語障害などの後遺症が出ることが多く、注意が必要な病気です。
「出血性脳卒中」の種類とリスク
出血性脳卒中は、脳の血管が破れることで引き起こされる病気です。出血の場所によって、「脳実質内出血(脳出血)」と「くも膜下出血」に分けられます。

◆脳実質内出血(脳出血)
脳の内部の血管が破れ、脳組織にダメージを与えます。出血の場所や出血量によって症状や重症度が変わります。発症の主な原因は高血圧であり、長期にわたる大量飲酒や喫煙などもリスク要因と考えられています。
脳出血が起こると非常に血圧が高くなることが多いので、速やかに血圧を下げる治療をします。発症から24時間以内に治療することが、患者さんのその後の生活の質(QOL)を維持することになります。手術は出血量が多い場合などに行うことがあります。
◆くも膜下出血
脳の表面にある「くも膜」の下で出血が起こり、隣接する脳組織にダメージを与えます。発症のリスクは脳出血と同様ですが、加えて脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)という脳の動脈にできた風船のような瘤(こぶ)が重大なリスクとなります。脳動脈瘤をもつ家族がいる場合はリスクが高いと考え、日頃から血圧管理などのケアが大切です。
くも膜下出血の原因のほとんどは脳動脈瘤の破裂で、この破裂は1回起こるだけでも脳に大きなダメージを与えますが、繰り返し起こる(再破裂)ことがあります。まずは薬による治療で再破裂を防ぎ、その後手術を行います。
「脳梗塞」の種類とリスク
脳梗塞は、脳の血管が詰まることで引き起こされる病気です。詰まった血管より先の脳組織へ血液が流れていけないため栄養や酸素が受け取れなくなり、脳組織が壊死してしまいます。脳梗塞は大きく「心原性脳塞栓症」、「アテローム血栓性脳梗塞」、「ラクナ梗塞」の3つのタイプに分けられます。

◆心原性脳塞栓症
心臓にできた血栓(血の塊)が脳の動脈に詰まることで発症します。心臓の病気で起こることが多く、とくに心房細動という不整脈のある人は注意が必要です。
◆アテローム血栓性脳梗塞
脳に栄養を送る動脈の壁におかゆのようなアテローム(コレステロールや血小板によってできた塊)ができることで血管が狭くなったり、その塊が剥がれて、その先の細い血管を詰まらせたりすることで発症します。
◆ラクナ梗塞
細い脳動脈が詰まることで起こる小さな脳梗塞です。ほかの脳梗塞に比べ症状は軽度であることが多いですが、場所によっては重い症状が現れる場合や、時間の経過と共に症状が悪化する場合もあります。
タイプにかかわらず脳梗塞の最大の発症リスクは高血圧です。ほかに脂質異常症、糖尿病、喫煙・過度の飲酒などがあります。生活習慣病予防と同様に、適正な塩分量や脂肪量に配慮した食事と運動などでセルフケアをするとよいでしょう。ほかに睡眠時無呼吸症候群や慢性腎臓病などもリスクに挙げられています。
脳内の血管が詰まり血流が止まると、脳の組織は最初の数時間で急速に破壊されてしまいます。そのため、脳梗塞の治療は時間との勝負になります。発症から4.5時間以内であれば、点滴で行う血栓溶解療法により血流の再開を目指します。この時間内に血流が回復すれば、脳へのダメージも少なく、後遺症の軽減や後遺症の回避が期待できます。4.5時間を過ぎると、機械的血栓回収療法などほかの治療を行います。
脳卒中かも?やるべきことはこれ!
脳卒中では、早期の対応が最も重要です。そのためには脳卒中の兆候を見逃さないようにしなくてはなりません。
「脳卒中かも?」と気づいたら、「FAST(ファスト)チェック」をしてください。「脳卒中かも?」という人を見かけたときも同様です。

「F」では「Face(顔)」を観察します。左右どちらかの口元がゆがんでいたり、瞼が下がっていないかチェックします。鏡の前で「イー」と口の端を引いて、左右の口角の高さがずれていないか見てみましょう。顔の筋肉が麻痺すると顔の片側にゆがみが生じます。これが脳卒中の兆候と考えられます。

「A」では「Arm(腕)」を観察します。両手を肩の高さまで「前ならえ」のように上げ、静止します。このとき手のひらは上に向けておきます。どちらか片方の手が落ちてくるようならば脳卒中の兆候と考えます。腕は内側にまわって落ちてくるため、多くの場合、手のひらは下を向きます。

「S」では「Speech(おしゃべり)」を観察します。ろれつが回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解できないようであれば、脳卒中の兆候と考えます。

「T」は「Time(時間)」です。顔、腕、おしゃべりを観察して1つでも異常を感じたら、すぐに救急車を呼び、病院へ行きましょう。
これら3つの兆候以外にも、意識を失う、視野が半分消える・ものが二重に見える、激しい頭痛などの症状も脳卒中が疑われます。
ドクターからのメッセージ
~兆候に気づいたら迷わず救急車を
出血性脳卒中も脳梗塞も高血圧が発症原因の大きな部分を占めます。高血圧のほかにも加齢、糖尿病、脂質異常症、肥満などが原因で動脈の血管が硬くなる動脈硬化という状態になると、脳梗塞の危険性が高まります。「予防こそ治療」という言葉がありますが、血圧が高めの方、最近太ってきたと気になる方は生活習慣を見直してください。また高血圧も糖尿病も脂質異常症も初期では自覚症状がありません。早めに気づくためには定期的な健康診断を受けることが大切です。
それでも脳卒中が発症したら、いち早く兆候に気づき、救急車を呼んでください。脳梗塞の場合、一時的によくなることもありますが、その場合も安心せずに救急車を呼んで医療機関を受診してください。
脳卒中は早期対応が命と生活を守ります。脳卒中の兆候を知ることで、もしものときに備えましょう。
- 1)厚生労働省「令和5年(2023)患者調査の概況」
kanjya.pdf (mhlw.go.jp)(外部リンク) - 2)厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計 結果の概要」
kekka.pdf (mhlw.go.jp)(外部リンク)
- 1)厚生労働省「令和5年(2023)患者調査の概況」
関連するリンク
注目情報生活習慣病とは? | 東京都立病院機構 (tmhp.jp)
注目情報高血圧症を見過ごしてはいけない理由 | 東京都立病院機構 (tmhp.jp)
注目情報糖尿病と食事 | 東京都立病院機構 (tmhp.jp)
最終更新日:令和7年3月28日