日本人に多いがん 大腸がんの基本情報

9月26日は大腸を考える日
3月は「大腸がん啓発月間」です

大腸がんの基本情報

日本人の2人に1人ががんになるといわれています。いまだ確実な予防法はなく、がんから暮らしや命を守るには早期発見、早期治療を行うことが大切です。東京都立多摩南部地域病院の副院長で内視鏡センターのセンター長でもある手塚徹先生に、日本人に多いがんの1つ「大腸がん」についてお話をうかがいました。

都立多摩南部地域病院
副院長/内視鏡センター長
手塚 徹

手塚内視鏡センター長 写真
専門分野:大腸外科学、大腸内視鏡診断治療学

注目情報多摩南部地域病院 | 東京都立病院機構 (tmhp.jp)

大腸がんとは どんな症状が?

大腸がんは、結腸もしくは直腸にできるがんをいいます。2019年に大腸がんと診断された人は日本全体で15万5,625人でした。男性では前立腺がんに次いで多い8万7,872人で、女性では乳がんに次いで多い6万7,753人でした1)

大腸がんの5年相対生存率*は、早期の段階で治療を行った場合、97.3%と非常に高い生存率となっています。大腸からはみ出したがんが周囲にまで広がっている段階だと75.3%です。がんが大腸から離れた肺などの臓器に転移した段階だと17.3%と、非常に厳しい現実があります1)。このことからも、早期発見、早期治療の大切さがわかります。

腸のイラスト。左下から虫垂、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S字結腸、直腸、肛門

大腸がんは初期の段階では自覚症状はなく、進行するにしたがって現れます。
下行結腸、S字結腸、直腸にがんができ、大きくなってくると便通異常が現れます。便秘と下痢を繰り返しているうちに、まったく便が出なくなることもあります。これらの症状は、肛門に近いところにがんができた場合にみられます。一方、肛門から離れた上行結腸は便通異常の症状は現れにくく、がんが大きくなると腹を触ったときにゴツゴツとしたかたまりを感じることがあります。上行結腸は下行結腸などに比べて腸の周径が大きいため、便通異常は現れにくいと考えられています。

出血に関しては、肛門に近い場所にできたがんでは、血の色が鮮やかであるのに対し、上行結腸など奥のほうにできたがんは暗赤色から黒色になります。

5年相対生存率:がんと診断された人が、治療の5年後に生存しているかを示す指標。100%に近いほど治療で命が救えていることになる。

大腸がんの検査、そこから何がわかるのか

市区町村のがん検診や企業の健康診断で行う便潜血検査(便のなかに血が混じっていないかを調べる)で陽性の場合、消化器科のある病院で精密検査を受けることになります。

まず、大腸内視鏡カメラを肛門から入れ、大腸のなかを見ていきます。そこでがんと疑わしいものが発見されれば、その一部を切り取って病理検査を行い確定診断となります。

病理診断でがんであることがわかった場合、次はがんがどのくらい広がっているのかを、CTやMRI、エコーなどの画像診断をして調べます。大腸内に留まっているのか、リンパ節に広がっているのか、大腸から遠い肺などの臓器にまで広がっているのかを調べ、その結果から治療を決定するのです。

さらに、がんが大腸の粘膜のどのくらい深くまで入り込んでいるのかを調べ、がんの進行の程度を把握します。

がんの進行の程度を表したイラスト。粘膜は上から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層・外膜、漿膜

注目情報Tis
がんが粘膜内にとどまっている
注目情報T1
がんが粘膜下層までにとどまっている
注目情報T2
がんが固有筋層までにとどまっている
注目情報T3
がんが固有筋層を越えているものの漿膜(しょうまく)下層・外膜までにとどまっている
注目情報T4a
がんが漿膜を越えている
注目情報T4b
がんがほかの臓器にまで広がっている

大腸がんの治療の現在

内視鏡治療

検査でがんの進行の程度を確認して、それをもとに治療法が決定します。
がんが粘膜下層にまで達していても非常に浅い場合は、内視鏡を使ってがんを取り除きます。内視鏡治療の場合、非常に小さなものであれば入院の必要はありませんが、やや大きながんを取り除く場合は1泊程度入院することもあります。また、粘膜下層剥離術(ねんまくかそうはくりじゅつ)という治療を行う場合は、術後の管理も含め5泊程度の入院を要します。

手術

内視鏡では取り切れない深さにまで達したがんに対しては手術となり、手術にはいくつかの方法があります。

注目情報腹腔鏡手術

お腹を4か所ほど小さく切り、そこから手術器具やカメラを入れてがんを切除する手術です。医師はカメラが映し出すモニターを見ながら長い器具を使って、がんを切除し取り除きます。腹腔鏡手術は傷が小さいため、体への負担が小さく、術後すぐに離床(ベッドから離れること、トイレなど自分の足で歩いていけること)ができます。

注目情報ロボット支援下手術

腹腔鏡手術は医師が実際に自分の手で行いますが、ロボット支援下手術は、医師の指示を受けてロボットが手術をします。実際に切除などを行うロボットアームは非常に発達していて、手振れもせずとても細やかな動きができます。出血も少なく患者さんの体への負担が小さい治療法です。

ロボット支援下手術のイラスト

注目情報開腹手術

がんが大きい場合、周囲の臓器にまで広がっている場合に開腹手術を行います。腹腔鏡手術やロボット支援下手術に比べて、お腹を切る範囲が大きいため、術後の回復にやや時間がかかりますが、手術をする医師は、がんや周囲の臓器、血管を直接目で見て手術をすることができます。

薬による治療

大腸がんの治療にはほかに薬による治療もあります。使用する薬には、飲み薬と点滴薬があり、どの薬を使用するかは患者さんの生活スタイルを考慮し、患者さんの希望を聞きながら選びます。がん治療で使う薬というと、副作用の心配をされる方もいるかと思いますが、最近は副作用を抑える治療も行いながら投薬するので、あまり心配しすぎないでください。

近年、「免疫チェックポイント阻害薬」という新しいタイプの薬が登場しました。このタイプの薬は、治療前に遺伝子検査を行い、治療の効果が期待できる人に対して行うことになっています。

放射線治療

ほかに、放射線治療でがんのサイズを小さくしてから手術を行うこともあります。放射線治療はがんの痛みに対する治療としても行うことがあります。

このようにがん治療は日進月歩に進歩しており、がんになっても治療を終え、これまでと同じように生活している人が増えています。

 内視鏡センターの医師からのメッセージ

大腸がんの発症と関連が深いと考えられているものに食生活があります。ハムやソーセージなどの加工肉を控え、野菜や果物を多めにとるようにしてください。また、運動不足、肥満も発症のリスクにあげられます。

ほかにも便秘をぜひ解消してほしいと思います。繊維質が多い食事にする、運動をするなどしても排便がない場合は、薬を使うことが検討されます。また、生活スタイルが影響を及ぼすこともあります。外出先で便意を感じたときに我慢してしまう人、この「我慢」は体によくなく、便秘の原因になります。

最初にお話したように、初期の大腸がんの5年相対生存率は非常に高く、初期の段階で発見されれば治る病気になったといえます。しかし、初期には症状がほとんどありません。だからこそがん検診をきちんと受けることが大切です。市区町村のがん検診や企業の健康診断で便潜血検査を受け精密検査が必要といわれたら、しっかり検査を受けることが大腸がんから命を守ることになります。

写真補足:手塚徹副院長が手に持っているのは、東京都立多摩南部地域病院のキャラクターのたまわん(左)とたまにゃん(右)。病院のSNSにも登場し、SNSを盛り上げています!

1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)

最終更新日:令和6年9月10日