
2019年に金融庁が「高齢社会における資産形成・管理」という報告書を出しました。その中で、夫婦二人世帯の場合、老後30年間で公的年金以外に2000万円が必要になるという、いわゆる「老後2000万円問題」が話題となりました。
病気やケガをすると、治療のことだけではなく、経済的なことも気になります。今回は、医療にかかる経済的負担を抑える制度について都立病院の医療ソーシャルワーカーが解説します。
日本の医療保険制度とは
我が国は、生活保護受給者を除いた国民全員が、いずれかの公的医療保険に加入する「国民皆保険制度」を1961年より開始しました。保険の種類は、国民健康保険・社会保険・後期高齢者医療保険に大きく分けられ、年齢や職業に応じて加入する保険が異なります。公的医療保険の対象となる治療については、全国共通の基準(診療点数・診療報酬)があり、どこで治療を受けても同じ金額になります。
医療費の自己負担
年齢や所得に応じて、実際にかかった医療費の1~3割を患者さんが負担します。
医療費の自己負担の他に、入院中の食事代、室料差額、歯ブラシやパジャマなどの日用品、通院や面会時の交通費なども別途必要になります。
「高額療養費制度・限度額適用認定証」について
医療費が高額になった場合に、負担を軽減するための制度があります。
高額療養費制度
月ごとの自己負担額が一定の限度を超えると、超えた分が後から払い戻される制度です。
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限度額適用認定証
「限度額適用認定証」は病院の窓口で提示することにより、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることができる制度です。入院や外来で高額な医療費がかかると予測される場合に、事前に保険者から「限度額適用認定証」を発行してもらう必要があります。
また最近では、マイナ保険証を提示し、限度額情報等の提供に同意することで、限度額適用認定証を取得しなくても、窓口での支払いを最初から自己負担限度額までにすることができる医療機関もあります。
(注)オンライン資格確認を導入している医療機関に限られます。
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
具体例
例えば大腿骨の骨折で、手術・リハビリのため1ヶ月入院した場合、約170万円の医療費がかかります。しかし高額療養費制度を利用すると、1割負担なら57,600円(75歳以上、~年収約370万円)、3割負担なら94,430円(70歳以上、年収370万円~)の自己負担で済みます。ただし負担割合が同じでも、所得によって実際の負担額は異なるため注意が必要です。
(注)令和7年1月31日時点の数値です。令和7年8月より高額療養費自己負担額が変わる可能性がございますのでご注意ください。
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その他、よく利用される制度をご紹介
上記の制度のほかにも、経済的負担を軽減するためのさまざまな制度があります。以下はその一部です。
高額療養費制度の世帯合算
同じ医療保険に加入している家族と医療費を合算して、自己負担限度額を超えた金額が支給される制度
高額療養費制度の多数回該当
過去12ヶ月以内に3回以上、自己負担限度額に達した場合、4回目から自己負担限度額が下がる制度
高額療養費制度の特例
血友病、人工透析、HIV(非常に高額な治療を長期間にわたって継続する必要がある)に適用される自己負担上限額を抑える制度
難病医療費助成制度
国が指定する難病と診断され、一定の基準を満たした場合に適用される医療費助成
心身障害者医療費助成制度、障害年金
病気やケガにより後遺障害が残り、一定の基準を満たした場合に適用される医療費助成や手当金、年金の受給
傷病手当金
社会保険に加入している人が、病気やケガで働けなくなった時に、収入を保障し生活を支える制度
医療費控除
1月1日から12月31日までの1年間に、一定以上の医療費の自己負担があった場合に、納めた税金の一部が還付される制度
高額医療・高額介護合算療養費制度
8月1日から翌年7月31日までの医療費と介護サービス費を合算して、負担限度額を超えた金額が支給される制度
これらの制度を利用するには、原則、申請手続きが必要で、条件を満たした場合に適用されます。
また制度の内容は、加入している公的医療保険の種類やお住まいの区市町村により異なる場合があるので、確認が必要です。
ご相談は、患者・地域サポートセンターへ
高額療養費制度をはじめ、さまざまな制度を利用することで、安心して治療することができます。
すべての都立病院には、患者さんやご家族、地域の方々の相談に応じる「患者・地域サポートセンター」を設置しています。
お金に関することや社会支援制度の利用に関することは、社会福祉の専門家である医療ソーシャルワーカーが相談に応じています。
生活するうえで、お金は大切な問題です。
心配なことや困りごとがありましたら、都立病院の患者・地域サポートセンターへご相談ください。
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関連するリンク
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注目情報医療ソーシャルワーカー(MSW)の役割とは? | 東京都立病院機構 (tmhp.jp)
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最終更新日:令和7年2月21日