高血圧症を見過ごしてはいけない理由

11月2日は
「いい血圧の日」です

日本人の国民病の一つである「高血圧症」。病院や診療所で、いわゆる「血圧を下げる薬」が多くの患者さんに処方されています。そんな高血圧症の診断基準、高血圧症と診断されたらどのような注意が必要なのか、症状がなくても治療を継続しなくてはいけない理由などを、東京都立多摩北部医療センター ハートセンターの亀山欽一先生にききました。

都立多摩北部医療センター
ハートセンター(循環器内科) 医長
亀山 欽一

亀山医長 写真
専門分野:虚血性心疾患、心臓カテーテル治療

注目情報多摩北部医療センター | 東京都立病院機構 (tmhp.jp)

高血圧症の診断基準

日本では20歳以上の2人に1人が高血圧症だといわれています1)
血圧は環境などにより変動するため、高血圧症の基準値には、医療機関で測る「診察室血圧」と、自宅で測る「家庭血圧」のそれぞれが設定されています。
診察室血圧は、自宅から病院に行くまでの運動や「今日の血圧はどうだろうか?」「先生に何かいわれるだろうか」といった緊張からくる精神的ストレスで、自宅でリラックスした状態で測る血圧よりも高くなる傾向があります。そのため診察室血圧のほうが高めの基準値となっています。診察室血圧、家庭血圧のどちらか一方でも基準値を超えた場合は、高血圧症と診断されます。

高血圧症の基準値

注目情報診察室血圧
・収縮期(上の血圧)
 …140mmHg 以上
・拡張期(下の血圧)
 …90mmHg 以上

注目情報家庭血圧
・収縮期(上の血圧)
 …135mmHg 以上
・拡張期(下の血圧)
 …85mmHg 以上

高血圧症の原因と治療

高血圧症の原因には、塩分の摂りすぎ、運動不足、肥満、喫煙、お酒の飲みすぎ、ストレスなどの生活習慣があります。ほかに加齢、女性では閉経後の女性ホルモン減少から血圧が上がることがあります。また、両親が高血圧だとその子どもも高血圧になりやすいといわれています。これは高血圧になりやすい体質ということのほかに、子どもは両親と同じ食事を摂り、同じような生活習慣をしているからといわれています。このような原因により発症する高血圧を「本態性高血圧」といいます。
一方、甲状腺や副腎皮質の病気、腎臓の病気、またはほかの病気の治療で使われている薬などが原因で高血圧になることがあります。このようなタイプを「二次性高血圧」といいます。

本態性高血圧は、生活習慣の改善を基本に必要に応じて薬による治療を行います。
 

本態性高血圧の人の生活習慣の改善

注目情報減塩
食塩は1日6g以内の摂取が推奨されています2)。減塩指導として、日本高血圧学会では漬物を控えるように提言しています。料理の味付けを塩やしょうゆだけではなく、出汁(だし)、酢やレモンなどの柑橘類、コショウや七味唐辛子、ケチャップやマヨネーズなどを使うことで塩分が少なくてもおいしく食べられる工夫ができます。

注目情報食事
カリウムが豊富な野菜を摂取することで、カリウムとともに塩分も尿として排泄されます。野菜を多く食べるようにしましょう。

注目情報禁煙
タバコを吸っている人は禁煙してください。

注目情報節酒
ビールならば500mL、日本酒なら1合、ワインなら2杯が目安です。女性はこの量の半分もしくは1/3の量が推奨されています。

注目情報運動
有酸素運動を中心に1日30分以上、週にしたら180分以上することが推奨されています2)。普段の脈拍数より10~20%増加する程度の運動がよいといわれています。スマートウオッチを使っている人でしたら運動時には脈拍数を意識してみてください。脈拍数を把握できない場合は、ジョギングやウォーキングをして軽く汗ばむ程度が目安です。

二次性高血圧の治療は、原因となっている病気の治療を行いながら必要に応じて高血圧の薬も処方されます。

 

基準値を超えた程度では高血圧症の症状はない

基準値を超えた程度では高血圧症の症状はありませんが、収縮期血圧が200mmHgくらいまで上がると、頭痛やめまいなどの不快な症状が現れます。ここまで血圧が上がった場合には、高血圧緊急症といって脳や心臓、腎臓などの臓器が障害されていることがあり、緊急に治療を行わないと危険です。

しかし、基準値である140mmHgや135mmHgを超えた程度では症状がほとんどあらわれません。そのため、治療もせず生活習慣も見直さず、血圧が高い状態をつづけてしまうことがあります。

 

症状がなくても高血圧症を治療する理由

血圧が高くてもとくにつらい症状もない、それなのになぜ治療をしなくてはいけないのかというと、高血圧がいのちにかかわる大きな病気の発症リスクだからです。
血圧が高い状態が続くと血管に負担がかかり、血管の壁が厚く硬くなる動脈硬化という状態になります。動脈硬化は脳卒中や心筋梗塞などいのちにかかわる重大な病気の発症に深くかかわってきます。

また、高血圧と深い関係がある病気に慢性腎臓病があります。慢性腎臓病は悪化すると人工透析が欠かせなくなり、生活の質を著しく低下させます。

 

高血圧症に気づくためには血圧を測る

症状がない高血圧に気づくには血圧を測るということしか手立てはありません。
定期的に健康診断を受け、血圧が高い傾向にあると指摘されたら生活習慣の改善を行いましょう。また、自宅で毎日血圧を測定し、「血圧手帳」に記録することが理想的です。病院に行くときには、血圧手帳をもって医師に病状を判断してもらいましょう。
血圧を測り、それを記録することで血圧への意識が高まり、減塩や運動といったケアの継続、薬の飲み忘れの防止にもつながることと思います。

自宅で血圧を測るメリット~白衣高血圧・仮面高血圧とは~

家庭で血圧を測ると基準値に納まっているのに、病院では緊張のせいなのか血圧が高くなってしまうものを「白衣高血圧」といい、その逆に病院で測ると血圧は安定しているのに、家で測ると血圧が高い「仮面高血圧」というものがあります。

どちらも、病院での測定だけでは本当の病態を把握することができません。白衣高血圧の人に不要な薬を処方したり、仮面高血圧の人に薬を処方しないなどのミスマッチを防ぐためにも、自宅で毎日血圧を測り、記録したものを医師に提示することが大切になってくるのです。

 

ドクターからのメッセージ~高血圧症はサイレントキラー~

高血圧症かどうかは実際に血圧を測ってみなければ気づけません。だからこそ健康診断を定期的に受けるという習慣をもつことが大切です。血圧が高い状態でも症状がないからと受診せずに放置してしまうと心筋梗塞などのいのちにかかわる病気を発症することがあるため、高血圧症は「サイレントキラー(症状が現れないまま静かに進行し、重大な合併症を引き起こす病気のこと)」といわれています。ここが高血圧症の怖いところで、症状がないから放っておいてよいというものではないのです。大きな病気になる前に血圧を測る習慣をつけ、しっかり血圧をコントロールしていきましょう。

 

最終更新日:令和6年10月15日